在職老齢年金とは?
65歳以上に支給される老齢厚生年金は「本来支給の老齢厚生年金」、支給が60歳から65歳に引き上がった際の経過措置で支給される老齢厚生年金は「特別支給の老齢厚生年金(60歳台前半の老齢厚生年金」と区別されていますが、老齢厚生年金の受給権者が在職していると支給停止が行われる場合があります。この年金が調整される仕組みを在職老齢年金といいます。
65歳以上の在職老齢年金(高在老)
本来支給の老齢厚生年金の受給権者が在職している場合の在職老齢年金は「高在老」と呼ばれており、総報酬月額相当額と基本月額(年金月額)との合計が、一定の金額を超えると年金が支給停止されます。
条文を見てみよう
法46条1項(支給停止)
老齢厚生年金の受給権者が被保険者(前月以前の月に属する日から引き続き当該被保険者の資格を有する者に限る)である日(厚生労働省令で定める日を除く)、国会議員若しくは地方公共団体の議会の議員(前月以前の月に属する日から引き続き当該国会議員又は地方公共団体の議会の議員である者に限る)である日又は70歳以上の使用される者(前月以前の月に属する日から引き続き当該適用事業所において第27条の厚生労働省令で定める要件に該当する者に限る)である日が属する月において、その者の標準報酬月額とその月以前の1年間の標準賞与額の総額を12で除して得た額とを合算して得た額(以下「総報酬月額相当額」という。)及び老齢厚生年金の額(加給年金額及び繰下げ加算額を除く。)を12で除して得た額(以下「基本月額」という)との合計額が支給停止調整額を超えるときは、その月の分の当該老齢厚生年金について、支給停止基準額に相当する部分の支給を停止する。
ただし、支給停止基準額が老齢厚生年金の額以上であるときは、老齢厚生年金の全部(繰下げ加算額を除く。)の支給を停止するものとする。
在職老齢年金は用語の定義が大切です。しっかりとおさえましょう。
対象者 | 老齢厚生年金の受給権者、厚生年金の被保険者、 70歳以上の使用される者 |
総報酬月額相当額 | 標準報酬月額とその月以前1年間の標準賞与額の 総額を12で除した額を合算した額 |
基本月額 | 老齢厚生年金の額を12で除した額(年金の月額) |
支給停止調整額 | 条文上は48万円(物価変動率等で毎年1万単位で変動) |
支給停止月額 | 総報酬月額相当額と基本月額との合計が支給停止調整額 を控除して得た額の2分の1に相当する額 |
支給停止基準額 | 総報酬月額相当額と基本月額との合計から支給停止調整額 を控除して得た額の2分の1に相当する額に12を乗じた額 |
用語の定義をしっかりと把握した所で説明していきます。年金とは年の金額です。在職老齢年金は月ごとに停止の判断をしますので年額を月額にしないといけません。なので基本月額は年金の1/12です。総報酬月額相当額とは標準報酬月額とその月以前1年間の標準賞与額の合計で標準賞与額は1/12して月額にした額を使います。
総報酬月額相当額と基本月額との合計が支給停止調整額を超えるときは、その超えた額の2分の1相当額の支給が停止されます。
総報酬月額相当額と基本月額との合計が50万円を超える(令和6年度)ときは、その超えた額の2分の1相当額の支給が停止されます。この停止される額のことを支給停止月額といいます。
支給停止月額を12倍して年額に戻した額を支給停止基準額といいます。これは頭がパンクしそう笑
しかし、この用語の定義は重要で、試験では月額を問われているのか年額を問われているのか判断しないといけません。しっかり叩き込みましょう。
支給停止が行われない場合
総報酬月額相当額と基本月額との合計額が支給停止調整額を超えない場合は支給停止はおこなわれません。
全部の支給が停止される場合
支給停止月額が基本月額以上あるときは、全部の支給が停止されます。
条文法46条1項の「ただし書き」の部分ですね。カッコ書きの青文字も重要な部分です。加給年金や繰下げしていたときの加算額は基本月額の計算に含めません。また老齢厚生年金の全額が支給停止されても繰下げ加算額だけは支給されます。
支給停止されるのは老齢厚生年金であって、老齢基礎年金に影響はなく停止されません。
では、経過的加算額はどのようにあつかうのでしょうか?
在職老齢年金における経過的加算額の扱い
経過的加算額は本則ではなく法附則62条1項で記されていて当分の間、読み替えられています。よって基本月額の計算の対象には経過的加算額及び繰下げ加算額、加給年金は含めず、支給停止基準額が老齢厚生年金の額以上で老齢厚生年金の全額が停止されても、経過的加算額と繰下げ加算額は全額支給されます。
- 基本月額の計算には経過的加算額及び繰下げ加算額、加給年金は含めない
- 老齢厚生年金が全額支給停止でも経過的加算額と繰下げ加算額は全額支給される
問1. 在職中の被保険者が65歳になり老齢基礎年金の受給権が発生した場合、老齢基礎年金は在職老齢年金の支給停止額を計算する際に支給停止の対象とはならないが、経過的加算額については在職老齢年金の支給停止の対象となる。
過去問 令和4年 厚生年金保険法
問2. 66歳で支給繰下げの申出を行った68歳の老齢厚生年金の受給権者が被保険者となった場合、当該老齢厚生年金の繰下げ加算額は在職老齢年金の仕組みによる支給停止の対象とならない。
過去問 平成26年 厚生年金保険法
在職老齢年金で全額支給停止になっても繰下げできる?
報酬が多く在職老齢年金で老齢厚生年金が全額停止される予定の人が良い事を思いつきました。
「どうせ全額停止になるなら、その間、繰下げしたら増額されてラッキー」
法の穴って埋められていますよね。
第44条の3 3項(繰下げ支給)
繰下げの申し出をした者に支給する老齢厚生年金の額は、法43条1項の規定の例により計算した額(本来の報酬比例部分の額)及び法46条1項(在職老齢年金)の規定の例により計算したその支給を停止するものとされた額を勘案して政令で定める額を加算した額とする。
つまり、先に在職老齢年金により減額が行われ、減額された後の老齢厚生年金のみが繰り下げ支給の対象となるということで、全額が停止されていたら1円も増額されません。
繰下げをしなかったら、貰えていたであろう年金額だけが増額の対象です。
問3. 70歳に達した者であって、その者が老齢厚生年金の支給繰下げの申出を行った場合に支給する老齢厚生年金の額に加算する額は、繰下げ対象額(在職老齢年金の仕組みにより支給停止があったと仮定しても支給を受けることができた(支給停止とはならなかった)額に限られる。)から経過的加算額を控除して得られた額に増額率を乗じて得られる額である。
過去問 平成23年 厚生年金保険法
(在職老齢年金の仕組みにより支給停止があったと仮定しても支給を受けることができた(支給停止とはならなかった)額に限られる。)
と書かれていますので、今後論点になる可能性はあります。
65歳未満の在職老齢年金(低在老)
60歳から64歳に支給される特別支給の老齢厚生年金を対象とした在職老齢年金制度は「低在老」と呼ばれていますが、支給停止となる計算方法は65歳以上の在職老齢年金(高在老)と同じになりました。
法改正前は計算方法が複雑で苦労して覚えた記憶があります。支給停止調整開始額が28万円でしたので簡単に年金が停止されていて就業意欲が湧かないといった問題があったんです。
70歳以上の使用される者の在職老齢年金
厚生年金保険の当然被保険者は、70歳に達すると、その日に資格を喪失します。喪失するので厚生年金の被保険者では無くなりますが、70歳以上の使用される者として70歳以上被用者該当届を5日以内に機構に提出します。厚生年金の被保険者では無くなったのになぜ?働きながら(在職)厚生年金を受給するので、報酬の額を把握し在職老齢年金の仕組みを適用するからです。
70歳以上の使用される者は、適用事業所に使用される者で、社会保険の加入要件を満たすものとなっています。例えば週に15時間勤務に変更になった際は、社会保険の加入要件を満たせませんので、70歳以上被用者不該当届を提出することにより、在職老齢年金は適用されなくなります。
問4. 厚生年金保険の適用事業所で使用される70歳以上の者であっても、厚生年金保険法第12条各号に規定する適用除外に該当する者は、在職老齢年金の仕組みによる老齢厚生年金の支給停止の対象とはならない。
過去問 令和5年 厚生年金保険法
在職老齢年金の計算は難しくないのですが、用語の定義を把握していないと年額を問われているのか?月額と問われているのか?それは停止される額か?支給される額か?うっかりミスをしないよう気を付けましょう。派生論点も多く、経過的加算額及び繰下げ加算額、加給年金などが絡んできます。計算させる問題も多く出題されますので最低でも試験年度の支給停止調整額(令和6年度は50万円)の金額は把握していないと解けませんので必須です。
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コメント
コメント一覧 (2件)
問2の老齢厚生年金の繰り下げ加算額は在老年の絡みでも支給停止されないから答えは◯になるはずでは。余談だが経過加算額も支給停止されないですね。
本当ですね💦ありがとうございます。訂正しました。