【国民年金法】受給権者の申出による支給停止

目次

受給権者の申出による支給停止とは?

私、年金はいりませんので辞退します

受給権者の申出による支給停止」の規定が設けられた理由が日本年金機構のHPに掲載されていたので引用します。

年金は、受給権者の決定請求に基づき、厚生労働大臣が決定を行うことにより、支払いが開始されますが、自分の意思により決定請求を行わず、結果として年金を辞退することが可能です。しかし年金を辞退していた受給権者が、年金の必要性が生じた時点で決定請求を行うと時効消滅していない過去5年間分の年金も併せて支払われることになり、年金受給の辞退という受給権者の意思が貫徹されない結果となるため、受給権者の申出により年金の支給停止を行う規定が設けられたものです。

すごい規定ですね。年金を辞退する人がいるんですかね?

条文を見てみよう

第20条の2(受給権者の申出による支給停止

年金給付(この法律の他の規定又は他の法令の規定によりその全額につき支給を停止されている年金給付を除く。)は、その受給権者の申出により、その全額の支給を停止する。ただし、この法律の他の規定又は他の法令の規定によりその額の一部につき支給を停止されているときは、停止されていない部分の額の支給を停止する。

 前項ただし書のその額の一部につき支給を停止されている年金給付について、この法律の他の規定又は他の法令の規定による支給停止が解除されたときは、前項本文の年金給付の全額の支給を停止する。

 第1項の申出は、いつでも、将来に向かつて撤回することができる。

 第1項又は第2項の規定により支給を停止されている年金給付は、政令で定める法令の規定の適用については、その支給を停止されていないものとみなす


年金給付の受給権者が申出により年金を辞退する規定です。重要な論点は以下の通り

  • 全額が支給停止される
  • 一部につき停止されているときは「停止されていない部分」を停止する→つまり全額が支給停止となる
  • いつでも将来に向かって撤回が可能→過去の全額停止されていた年金は支払われません

注意点として、年金額の一部の停止はできません。全額停止されます。また、一部につき停止されているときは「停止されていない部分」を停止することもできます。在職老齢年金等で一部が支給停止されているときは「残りの停止されていない部分」を停止可能となります。つまり全額停止です。

そして一部停止が解除されたら年金給付の全額の支給を停止されます。

支給停止の申出の撤回は、いつでも将来に向かって撤回することができます。「将来に向かって」ですので過去に遡って撤回することは出来ません。

支給停止期間


年金給付は、その支給を停止すべき事由が生じたときは、その事由が生じた日の属する月の翌月からその事由が消滅した日の属するまでの分の支給が停止されます。



遺族基礎年金と遺族厚生年金を申出停止

遺族基礎年金の遺族の範囲は「子のある配偶者」又は「」で、遺族厚生年金の第1順位は「配偶者(夫は55歳以上)および」です。

遺族基礎年金も遺族厚生年金も配偶者が受給権を持っていると子は支給停止されます。では配偶者が申出による支給停止をしたら子の支給停止はどうなるでしょうか?

この場合、子に対する遺族基礎年金の支給停止は解除されに遺族基礎年金が支給されます。対して遺族厚生年金の子の支給停止は解除されず世帯として支給停止されます。

配偶者が申出停止
遺族厚生年金支給停止支給停止
遺族基礎年金支給停止支給

遺族基礎年金は「」の為の年金であり、配偶者が管理して受け取っているとイメージして下さい。もともと子の養育費的な、子の為の年金ですので、配偶者が申出による支給停止で辞退したら子の支給停止が解除され支給されます。

一方、遺族厚生年金は「世帯」の為の年金であり、配偶者が申出による支給停止で辞退したら世帯として支給停止されます。このように制度間での違いが試験に問われますので重要論点となります。

遺族基礎年金の条文を確認してみましょう。

第41条2項(支給停止)

 に対する遺族基礎年金は、配偶者が遺族基礎年金の受給権を有するとき(配偶者に対する遺族基礎年金が第20条の2第1項(配偶者の申し出による支給停止)若しくは第2項又は次条第1項(配偶者の行方不明)の規定によりその支給を停止されているときを除く。)、又は生計を同じくするその子の父若しくは母があるときは、その間、その支給を停止する。

カッコ書きを読み解けますかね。除くとありますのでに対する支給停止はありません。

支給を停止されていないものとみなす

第20条の2 4項

第1項又は第2項の規定により支給を停止されている年金給付は、政令で定める法令の規定の適用については、その支給を停止されていないものとみなす

申出により支給停止されていても、政令で定める法令の規定の適用については支給を停止されていないものとみなすという規定があります。いったいなんなのか?

簡単にいうと支給停止することによって他の年金の受給に対して有利にならないように「支給を停止されていないもの」とみなされます。

寡婦年金の要件のひとつに「老齢基礎年金又は障害基礎年金の支給受けたことがない」、死亡一時金の要件のひとつに「老齢基礎年金又は障害基礎年金支給受けたことがない」とあります。

寡婦年金も死亡一時金も、第1号被保険者の掛け捨て防止的な独自給付なので、受給権を持っていても支給を受けたことがなければ要件をクリアします。が・・・受給権者の申出による支給停止は、自分の意志で辞退しています。よって「支給を停止されていないもの」とみなされ寡婦年金も死亡一時金も要件を満たせなくなります。

寡婦年金と死亡一時金の解説記事はこちら↓



それでは過去問いきましょう

問1. 子に対する遺族基礎年金は、原則として、配偶者が遺族基礎年金の受給権を有するときは、その間、その支給が停止されるが、配偶者に対する遺族基礎年金が国民年金法第20条の2第1項の規定に基づき受給権者の申出により支給停止されたときは、子に対する遺族基礎年金は支給停止されない。

過去問 平成28年 国民年金法

←正解はこちら
問1. 〇 配偶者が申出による遺族基礎年金の支給停止を申出たら子に対する支給停止はされません。遺族基礎年金は「子」の為の年金です。よって配偶者が年金要らないと辞退したら子に支給されるイメージです。遺族厚生年金は「世帯」で支給停止されますので違いに注意が必要です。

問2. 受給権者の申出による年金給付の支給停止は、いつでも撤回することができ、過去に遡って給付を受けることができる。

過去問 平成24年 国民年金法

←正解はこちら
問2. ✕ いつでも撤回はできますが、「将来に向かってのみ」撤回することができます。過去には遡れません。

問3. 第1号被保険者としての被保険者期間に係る保険料納付済期間を3年以上有し、老齢基礎年金の受給権取得当時から申出により当該老齢基礎年金の支給が停止されている者が死亡した場合には、一定の遺族に死亡一時金が支給される。

過去問 平成29年 国民年金法

←正解はこちら
問3. ✕ 死亡一時金の支給制限は、老齢基礎年金又は障害基礎年金の支給を受けたことがある者が死亡です。申出により支給を停止されている年金給付は、政令で定める法令の規定の適用については、その支給を停止されていないものとみなす。とあります。設問の人は老齢基礎年金を申出停止により支給を受けたことはありませんが、「支給を停止されていないもの」とみなされますので遺族に死亡一時金は支給されません。


申出による支給停止をする受給権者がいるかどうかは別として、過去に問われた論点は把握しておきたい所です。厚生年金保険との違い、できたら政令で定める法令の規定の適用については、その支給を停止されていないものとみなすという規定もありますので軽くおさえましょう。例えば、同一事由で労災保険法と社会保険(国民年金・厚生年金保険)が支給される場合、支給を停止されていないものとみなされますので、労災保険の年金給付が調整され減額されます。

この記事が参考になったら応援お願いします。↓

にほんブログ村 資格ブログ 社労士試験へ
資格受験ランキング

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメント一覧 (2件)

  • 申し出による支給停止は正直見栄っ張りとしか言えないような法令だと思います。
    例えば事業主がこれを公表することにより余裕があるような広告などの目的かな。いわゆるプロパガンダ。
    しかし将来に向かってのみはあくまでも停止だから納得できます。
    ありがとうございます。

コメントする

目次