高齢任意加入被保険者とは?
一言で表すと「老齢の年金の受給権がない人が、70歳以降も任意で厚生年金保険に加入できる」制度で申出や認可で被保険者となることができます。
厚生年金保険法は法14条(資格喪失の時期)で70歳に達した日に資格喪失する旨を定めています。法律には原則があり、例外もあります。条文を見てみます。
適用事業所と適用事業所以外
厚生年金保険法 法附則4条の3、第1項(高齢任意加入被保険者)
適用事業所に使用される70歳以上の者であつて、老齢厚生年金、国民年金法による老齢基礎年金その他の老齢又は退職を支給事由とする年金たる給付であつて政令で定める給付の受給権を有しないものは、実施機関に申し出て、被保険者となることができる。
厚生年金保険法 法附則4条の5、第1項(高齢任意加入被保険者)
適用事業所以外の事業所に使用される70歳以上の者であつて、附則第4条の3第1項に規定する政令で定める給付の受給権を有しないものは、厚生労働大臣の認可を受けて、被保険者となることができる。
※抜粋(法10条2項を準用する)
法12条2項 厚生労働大臣の認可を受けるには、その事業所の事業主の同意を得なければならない。
条文から読み解けるのは適用事業所と適用事業所以外で違いがあること。
適用事業所では、実施機関に申し出すれば加入でき
適用事業所以外では、厚生労働大臣の認可を受けてです。
さらに適用事業所以外では、事業主の同意も必要になってきます。
老齢又は退職を支給事由とする年金たる給付の受給権を有しないものが加入できるため、障害や死亡を支給事由とする年金の受給権を持っていても高齢任意加入できます。
保険料の納付にも違いがあり適用事業所では「原則、全額を被保険者が負担」し適用事業所以外の事業所では「事業主と被保険者がそれぞれ半額を負担し、事業主が納付する義務を負う」となっています。適用事業所以外の事業所は、納付義務があり半分を負担することになりますので、事業主の同意も必要になる理由も分かりますよね。
資格の喪失時期
被保険者は、次のいずれかに該当するに至った日の翌日(その事実があった日に更に被保険者の資格を取得したときは、その日)に、被保険者の資格を喪失する。
まずは、適用事業所と適用事業所以外で共通のところです。
- 死亡
- その事業所又は船舶に使用され無くなった
- 適用除外に該当するに至った
- 老齢又は退職を事由とする年金たる給付の受給権を取得した
続いて共通では無いところ
適用事業所に使用される者
5. 資格喪失の申し出が受理された
6. 任意適用取消の認可があった
適用事業所以外に使用される者
7. 資格喪失の認可があった
適用事業所に使用される高齢任意加入被保険者
- 適用事業所以外に使用される者が高齢任意加入被保険者になろうとするときは、事業主の同意をとり申し出し、厚生労働大臣が認可があった日に資格を取得しました。この場合は事業主に保険料納付義務があります。適用事業所に使用される者が高齢任意加入被保険者になろうとする者は保険料の全額を負担し納付義務も本人にある為、扱いに特徴があります。
- 保険料に関し、事業主が保険料の半額を負担し納付義務も負う同意が得られた場合は、被保険者本人に納付義務がなくなる。
- 事業主は被保険者の同意を得て将来に向かって、保険料の負担と納付義務についての同意を撤回することができる。
- 初めて納付する保険料を滞納し、督促状による指定期限までに、その保険料を納付しないときは、被保険者とならなかったとみなす。
- 保険料(初めて納付すべき保険料を除く)を滞納し、督促状による指定の期限までに、その保険料を納付しないときは、納期限の属する月の前月の末日に資格を喪失する。
それでは過去問いってみましょう。
問1. 被保険者であった45歳の夫が死亡した当時、当該夫により生計を維持していた子のいない38歳の妻は遺族厚生年金を受けることができる遺族となり中高齢寡婦加算も支給されるが、一方で、被保険者であった45歳の妻が死亡した当時、当該妻により生計を維持していた子のいない38歳の夫は遺族厚生年金を受けることができる遺族とはならない。
過去問 令和4年 厚生年金保険法
問2. 適用事業所に使用される高齢任意加入被保険者の資格を有する者が、初めて納付すべき保険料を滞納し、督促状の指定の期限までに、その保険料を納付しないときは、その者の事業主(第2号厚生年金被保険者又は第3号厚生年金被保険者に係る事業主を除く。)が、当該保険料の半額を負担し、かつ、その被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負うことにつき同意したときを除き、指定の期限の翌日に当該被保険者の資格を喪失する。
過去問 平成20年 厚生年金保険法
解答
問1. ✕
適用事業所に使用される高齢任意加入被保険者の納付義務は原則本人で、その全額を翌月末日までに納付しないといけません。保険料(初めて納付すべき保険料を除く。)を滞納し、厚生労働大臣が指定した期限までにその保険料を納付しないときは納期限の属する月の末日ではなく、納期限の属する月の前月の末日に、被保険者の資格を喪失します。またカッコ内の初めて納付すべき保険料とは「最初の保険料を滞納した」意味です。初めて納付すべき保険料を滞納し督促状の期限までに納付しないと被保険者とならなかったものとみなすとなり資格を喪失するわけではなく、そもそも被保険者となっていないということですね。
問2. ✕
高齢任意加入被保険者が、初めて納付すべき保険料を滞納し、指定の期限までに、その保険料を納付しないときは、被保険者とならなかったものとみなされる。ただし、事業主が、保険料の半額を負担し、かつ、その被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負うことにつき同意していた場合は、この限りでない。
最初の保険料を滞納し指定期限までに納めないと被保険者とならなかったものとみなされるでした。2回目以降の保険料を滞納し指定した期限までにその保険料を納付しないときは、納期限の属する月の前月の末日に、被保険者の資格を喪失します。
国民年金(第2号保険者と第3号被保険者)
厚生年金保険の被保険者は国民年金の第2号被保険者です。
厚生年金の被保険者は原則70歳未満で適用事業所に使用され要件を満たし資格を取得した者です。第2号被保険者は原則、65歳に達し老齢又は退職を支給事由とする年金の受給権を有したら第2号被保険者ではなくなります。
国民年金の第3号被保険者は第2号被保険者の配偶者で生計維持された20歳以上60歳未満の配偶者でした。
このことを踏まえ例えば
厚生年金の被保険者である64歳の夫(国年2号)に58歳の妻(国年3号)がいたとします。夫が65歳に到達し老齢の年金の受給権を得たら国民年金(第2号被保険者)を喪失しますので妻も第3号被保険者を喪失します。つまり妻は国民年金(第1号被保険者)に該当し保険料納付義務が発生します。
国民年金法の法附則をみてみます。
国民年金法 法附則3条(被保険者の資格の特例)
第2号被保険者の規定の適用については、当分の間、同号中「の被保険者」とあるのは、「の被保険者(65歳以上の者にあつては、厚生年金保険法附則第4条の3第1項に規する政令で定める給付の受給権を有しない被保険者に限る。)」とする。
法附則で特例として当分の間、65 歳以上の者にあっては、老齢又は退職を支給事由とする給付の受給権を有しない被保険者に限って、第2号被保険者となると書いてあります。
先ほどの例えで、厚生年金の被保険者である64歳の夫(国年2号)が老齢又は退職を支給事由とする給付の受給権を有していなかった場合は65歳に達しても厚生年金の被保険者であれば国民年金(第2号被保険者)となり妻も第3号被保険者でいられます。そして夫が70歳に達したら厚生年金の資格を喪失しますが、まだ老齢又は退職を支給事由とする給付の受給権を有していなかった場合は高齢任意加入も可能です。
それでは過去問いってみましょう。
問3. 厚生年金保険の高齢任意加入被保険者は国民年金の第2号被保険者であり、当該高齢任意加入被保険者の収入により生計を維持する配偶者(第2号被保険者その他国民年金法を除外すべき特別の理由がある者として厚生労働省令で定める者である者を除く。)のうち20歳以上60歳未満の者は、第3号被保険者となる。
過去問 平成25年 国民年金保険法
解答
問3. 〇
特例で当分の間、65 歳以上の者にあっては、老齢又は退職を支給事由とする給付の受給権を有しない被保険者に限り第2号被保険者となります。厚生年金保険の高齢任意加入被保険者は国民年金の第2号被保険者となりますので、要件を満たす配偶者は国民年金の第3号被保険者となります。
高齢任意加入被保険者は適用事業所と適用事業所以外の違いを丁寧におさえ保険料の納付義務、滞納した場合、喪失の時期を理解しましょう。
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