厚生年金保険や健康保険の標準報酬月額は、被保険者の報酬月額に基づいて決定され、保険料や給付額の計算に用いられます。標準報酬月額を決定・改定するタイミングとして、定時決定、資格取得時決定、随時改定などがあります。
標準報酬月額の決定と改定
標準報酬月額が決定・改定されるタイミングは5つあります。
- 毎年7月1日現在での定時決定
- 被保険者資格を取得した際の資格取得時決定
- 随時改定
- 育児休業終了時の改定
- 産前産後休業終了時の改定
また、報酬月額の算定が困難であるとき(随時改定の場合を除く)、 算定されたものが著しく不当であると認めるとき(随時改定の場合を含む)は、保険者算定が行われます。この場合、実施機関が算定する額が当該被保険者の報酬月額になります。
資格取得時決定とは?
新たに厚生年金保険や健康保険の資格を取得した場合、資格取得時点の報酬額を基に標準報酬月額が決定されます。
条文を見てみよう
実施機関は、被保険者の資格を取得した者があるときは、次の各号に規定する額を報酬月額として、標準報酬月額を決定する。
一 月、週その他一定期間によつて報酬が定められる場合には、被保険者の資格を取得した日の現在の報酬の額をその期間の総日数で除して得た額の30倍に相当する額
二 日、時間、出来高又は請負によつて報酬が定められる場合には、被保険者の資格を取得した月前1月間に当該事業所で、同様の業務に従事し、かつ、同様の報酬を受ける者が受けた報酬の額を平均した額
三 前二号の規定によつて算定することが困難であるものについては、被保険者の資格を取得した月前1月間に、その地方で、同様の業務に従事し、かつ、同様の報酬を受ける者が受けた報酬の額
四 前三号の2以上に該当する報酬を受ける場合には、それぞれについて、前三号の規定によつて算定した額の合算額
2 前項の規定によつて決定された標準報酬月額は、被保険者の資格を取得した月からその年の8月(6月1日から12月31日までの間に被保険者の資格を取得した者については、翌年の8月)までの各月の標準報酬月額とする。
新たに厚生年金保険や健康保険の資格を取得した場合は、「資格取得時決定」が行われまが、報酬はまだ支払われていません。では、どうやって標準報酬月額を算定するかというと、資格取得時点での「1カ月当たりの報酬の見込み額」で算定します。定時決定や随時改定等が、実際に受け取った報酬に基づいて算定するのに対して、資格取得時決定は、今後受け取るであろう報酬に基づいて標準報酬月額を決定します。
入社したばかりで、給料をまだ貰えていませんから見込みで算定するという意味です。
報酬の形態 | 算定の方法 |
---|---|
① 月、週その他一定期間で報酬が決定 | 資格を取得した日の現在の報酬の額をその期間の総日数で除して得た額の30倍に相当する額 |
② 日、時間、出来高又は請負で報酬が決定 | 資格を取得した月前1月間に当該事業所で、同様の業務に従事し、かつ、同様の報酬を受ける者が受けた報酬の額を平均した額 |
③ ①②で算定することが困難 | 資格を取得した月前1月間に、その地方で、同様の業務に従事し、かつ、同様の報酬を受ける者が受けた報酬の額 |
④ ①②③のうち2以上に該当する報酬を受ける | それぞれの規定によって算定した額の合算額 |
①の月、週その他一定期間で報酬が決定する者を詳しく見ていきます。
月、週その他一定期間によって報酬が定められる場合
被保険者の資格を取得した人は、まだ報酬を受け取っていないので雇用契約書に記載された基本給や手当等で算定します。大事な点は「報酬に該当するものはすべて算入」すること。報酬とは労働の対償として受けるすべてのものいい、臨時に受けるもの及び3月を超える期間ごとに受けるものを除くでしたね。
報酬とされるもの
- 基本給
- 通勤手当、残業手当、家族手当、住宅手当、食事手当、早出手当、皆勤手当、休業手当、勤務地手当など
- 年4回以上支給される賞与
- 通勤定期券
- 食事や食券、社宅など
残業代も、「見込み」で算入し、例えば通勤手当が6カ月まとめて支給される場合には、月額に換算して算入します。
算定方法
報酬の額をその期間の総日数で除して得た額の30倍する
週や月の所定労働日数では割りません、「その期間の総日数」で割ります。最後に30をかけるので所定労働日数で割ると数字が大きくなってしまいます。その期間の総日数で割り30をかけることで、月の半ばで入社した人でも「1月分の見込み額」を算出できます。
この報酬月額をもとに、標準報酬月額が決定されることになります。
資格取得時決定された標準報酬月額の有効期限は
被保険者の資格を取得した月からその年の8月(6月1日から12月31日までの間に被保険者の資格を取得した者については、翌年の8月)までの各月の標準報酬月額とする。
つまりこういう事になります。
資格取得時期 | 有効期限 |
---|---|
1月1日から5月31日まで | その年の8月 |
6月1日から12月31日まで | 翌年の8月 |
この資格取得の時期は、なぜ5月31日で区切っているのでしょうか?半年づつなら6月30日のほうが、キリがいいですよね?それは定時決定とのかねあいです。
5月31日までに資格取得した人は、7月1日時点で被保険者ですので4月、5月、6月で支払われる報酬の平均で算定される定時決定が適用されることにより、その年の9月から新しい標準報酬月額に改定されます。
一方、6月1日以降に資格取得した人は定時決定から除外されていますので、随時改定に該当しない限り、翌年の8月までの標準報酬月額となります。
被保険者資格取得届の提出
事業主は、被保険者を資格を取得した日から5日以内(船員所有者は10日以内)に、被保険者資格取得届を日本年金機構に提出します。
日本年金機構:被保険者資格取得届
事業主の届出は5日以内(船舶所有者は10日)が多いですね。原則5日で、数の少ない方を覚えましょう。
- 算定基礎届:7月10日まで
- 報酬月額変更の届出(月変):速やか
- 被保険者の氏名住所変更の届出:速やか
- 代理人選出の届出:あらかじめ
- 高齢任意加入に係る同意・撤回の届出:10日以内
それでは過去問いきましょう
問1 厚生年金保険法第22条によれば、実施機関は、被保険者の資格を取得した者について、月、週その他一定期間によって報酬が定められる場合には、被保険者の資格を取得した日の現在の報酬の額をその期間の総日数で除して得た額の30倍に相当する額を報酬月額として、その者の標準報酬月額を決定する。
過去問 平成30年 厚生年金保険法
〇 月、週その他一定期間によって報酬が定められる場合には、報酬の額をその期間の総日数で除して得た額の30倍に相当する額を報酬月額とします。日、時間、出来高又は請負で報酬が決定する場合や、算定が困難な場合も、あわせて復習しましょう。
問2 実施機関は、被保険者の資格を取得した者について、日、時間、出来高又は請負によって報酬が定められる場合には、被保険者の資格を取得した月前1か月間に当該事業所で、同様の業務に従事し、かつ、同様の報酬を受ける者が受けた報酬の額を平均した額を報酬月額として、その者の標準報酬月額を決定する。当該標準報酬月額は、被保険者の資格を取得した月からその年の8月(6月1日から12月31日までの間に被保険者の資格を取得した者については、翌年の8月)までの各月の標準報酬月額とする。
過去問 平成30年 厚生年金保険法
〇 日、時間、出来高又は請負によって報酬が定められる場合には、被保険者の資格を取得した月前1か月間に当該事業所で、同様の業務に従事し、かつ、同様の報酬を受ける者が受けた報酬の額を平均した額を報酬月額とします。標準報酬月額の有効期間も重要な定義です。被保険者の資格を取得した月からその年の8月(6月1日から12月31日までの間に被保険者の資格を取得した者については、翌年の8月)まで。
問3 厚生年金保険法第27条の規定による当然被保険者(船員被保険者を除く。)の資格の取得の届出は、当該事実があった日から5日以内に、厚生年金保険被保険者資格取得届・70歳以上被用者該当届又は当該届書に記載すべき事項を記録した光ディスク(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録しておくことができる物を含む。)を日本年金機構に提出することによって行うものとされている。
過去問 令和2年 厚生年金保険法
〇 被保険者資格取得届は事業主が、被保険者の資格を取得した日から5日以内に、日本年金機構に提出します。「速やか」と問われても間違えないようにしましょう。ちなみにこの被保険者資格取得届は健康保険と厚生年金保険で一枚の同じ書類になっていて、70歳以上被用者該当届も同じ用紙です。厚生年金保険の被保険者は、70歳に達すると資格を喪失します。70歳以上で勤務する人は、在職老齢年金の規定で報酬の額を把握する必要がある為70歳以上被用者該当届が必要になります。
日本年金機構:被保険者資格取得届
問4 7月1日に被保険者資格を取得した者については、標準報酬月額の定時決定を行わず、資格取得時に決定された標準報酬月額を、原則として翌年の6月30日までの1年間用いることになっている。
過去問 平成24年 健康保険法
✕ 6月1日から7月1日までに資格を取得した者は定時決定を行いません。さらに、6月1日から12月31日までの間に被保険者の資格を取得した者については、翌年の8月までの標準報酬月額となります。よって翌年の6月30日までの1年間用いるという部分が間違いです。
標準報酬月額を決定する資格取得時決定や定時決定ですが、標準報酬月額の有効期間が極めて需要な論点になります。標準報酬月額が決定・改定されるタイミングや月日等の「数字」は細かく問われますので通達も含めて事例にも対応できるようになりましょう。健康保険と仕組みが同じなので、健康保険からも出題されます。
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