【厚生年金保険法】遺族厚生年金の支給停止

まずは遺族厚生年金の支給要件等を簡単におさらいします

支給要件

遺族厚生年金が支給されるには、短期要件長期要件に該当する必要があります。

短期要件1.被保険者が死亡

2.被保険者であった者が、被保険者の資格喪失後に、被保険者であった間に初診日がある傷病により初診日から起算して5年を経過する日前に死亡

3.障害等級1級、2級の障害厚生年金の受給権者が死亡
長期要件4.老齢厚生年金の受給権者(保険料納付済期間と保険料免除期間、合算対象期間とを合算した期間が25年以上)が死亡

5.保険料納付済期間と保険料免除期間、合算対象期間とを合算した期間が25年以上ある者が死亡

短期要件の1と2には保険料納付要件が問われます。

遺族の範囲

被保険者または被保険者であった者の配偶者父母祖父母であって、被保険者または被保険者であった者の死亡の当時、その者によって生計を維持されていたこと。
には年齢要件がありませんが夫、父母、祖父母、子、孫については一定の年齢制限があります。

遺族の順位

  • 第1順位配偶者(夫は55歳以上)および(18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか、または20歳未満で障害等級の1級若しくは2級に該当する障害の状態にあり、かつ、現に婚姻をしていないこと)
  • 第2順位父母(55歳以上)
  • 第3順位(18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか、または20歳未満で障害等級の1級若しくは2級に該当する障害の状態にあり、かつ、現に婚姻をしていないこと)
  • 第4順位祖父母(55歳以上)

整理するとこうなります。

  1. 子のある妻
  2. 子のあるの夫
  3. 子のない妻
  4. 子のない夫
  5. 父母
  6. 祖父母

※夫、父母、祖父母、子、孫については一定の年齢制限があります

第1順位は配偶者と子ですが、配偶者が受給権を持っていると支給停止されます。なので配偶者が死亡したら、子の支給停止が解除されます。これは転給では無いので注意して下さい。労災の遺族(補償)年金は転給の制度があり受給権者が失権したら受給資格者に受給権が移動しますが、遺族厚生年金には転給の制度は無く最先順位者のみ受給権を取得し後順位者は遺族厚生年金は受けられません。第1順位が配偶者と子の2者だから配偶者が失権すると子の支給停止が解除されるんです。

では本題の支給停止に入りましょう

遺族厚生年金の支給停止


夫、父母、祖父母に対する支給停止

第65条の2 夫、父母又は祖父母に対する遺族厚生年金は、受給権者が60歳に達するまでの期間、その支給を停止する。ただし、夫に対する遺族厚生年金については、当該被保険者又は被保険者であつた者の死亡について、夫が国民年金法による遺族基礎年金の受給権を有するときは、この限りでない。

夫、父母又は祖父母に対して遺族厚生年金の受給権が発生するには55歳以上という年齢制限がありました。55歳以上60歳未満の間に受給権者となった場合は60歳に達するまで支給が停止されます。受給権は発生しますが支給は60歳に達してからとなります。夫だけは特別で、要件を満たす子がいて遺族基礎年金の受給権を有したら支給停止は解除されます。

子に対する支給停止

第66条1項 子に対する遺族厚生年金は、配偶者が遺族厚生年金の受給権を有する期間、その支給を停止する。ただし、配偶者に対する遺族厚生年金が遺族基礎年金の受給権を有しない夫が60歳未満子のみが遺族基礎年金の受給権を有するとき、所在不明の規定によりその支給を停止されている間は、この限りでない。

配偶者と子は同順位ですので配偶者が受給権を有していたら子は支給停止になります。これはシンプルで分かりやすいですよね。問題は、条文ただし書きの青文字の部分です。

夫に対する遺族厚生年金は55歳以上という年齢制限があり、受給権は発生しても60歳に達するまでは支給停止でした。しかし夫が遺族基礎年金の受給権を有したら(子がいる)支給停止は解除されます。子の立場からすると子が支給停止されるわけです。では「遺族基礎年金の受給権を有しない夫が60歳未満よりその支給を停止」とは、どういう状況でしょうか?図でイメージした方がわかりやすいです。

左図の関係だと遺族基礎年金の受給権を有しない夫が60歳未満なので子に遺族厚生年金が支給されます。また稀なケースとして妻と夫(56歳)の間に子がいて妻が死亡、子が中学卒業後、家を出て夫と生計を同じくしなくなったら夫の遺族基礎年金は消滅します。遺族基礎年金の受給権を有しない夫が60歳未満に該当しますよね。この場合、子に遺族基礎年金と遺族厚生年金が子に支給されます。ここまで複雑な事例は出にくいと思いますので参考までに・・・

配偶者に対する支給停止

第66条2項 配偶者に対する遺族厚生年金は、当該被保険者又は被保険者であつた者の死亡について、配偶者が国民年金法による遺族基礎年金の受給権を有しない場合であつて子が当該遺族基礎年金の受給権を有するときは、その間、その支給を停止する。ただし、子に対する遺族厚生年金が所在不明の規定によりその支給を停止されている間は、この限りでない。

配偶者に対する支給停止の条文です。上記の左図でも該当しますが、一般的には下図のような関係になります。

子Cは死亡した夫が養育費を払っていたので、生計維持関係が認められ遺族基礎年金と遺族厚生年金の受給権が発生します。後妻Dには遺族厚生年金の受給権が発生しますが、子Cとは生計を同じくしていませんので遺族基礎年金の受給権は発生しません。

配偶者遺族基礎年金の受給権を有しない場合であって子が当該遺族基礎年金の受給権を有するときは、その間、その支給を停止する。に該当し配偶者の遺族厚生年金は支給停止されます。

なお、子Cが18歳年度末を迎えたり婚姻等で遺族基礎年金が失権したら後妻Dの支給停止が解除され遺族厚生年金が支給されます。(※転給ではありません)

所在不明での支給停止

第67条 配偶者又は子に対する遺族厚生年金は、その配偶者又は子の所在が1年以上明らかでないときは、遺族厚生年金の受給権を有する子又は配偶者の申請によつて、その所在が明らかでなくなつた時にさかのぼつて、その支給を停止する。

 配偶者又は子は、いつでも、前項の規定による支給の停止の解除を申請することができる。

配偶者と子は同順位なので、どちらか一方が1年以上所在が明らかでないと他方は申請して所在が明らかでなくなった時にさかのぼつて、その支給を停止することができます。

また、68条で「配偶者以外の者に対する遺族厚生年金の受給権者が2人以上である場合において、受給権者のうち1人以上の者の所在が1年以上明らかでないときは、その者に対する遺族厚生年金は、他の受給権者の申請によつて、その所在が明らかでなくなつた時にさかのぼつて、その支給を停止する。」とされています。子や父母、孫、祖父母が受給権を得た場合ですね。

受給権者の申出全額を停止されている場合

年金たる保険給付は、その受給権者の申出により、その全額を停止できます。凄い規定ですよね。自ら年金は要らないと申出で全額停止できるんです。この規定により配偶者が全額停止の申出をして支給停止されている間は子も支給停止のままになります。
しかし、国民年金の遺族基礎年金では、配偶者が全額停止の申出をして支給停止されたら子の支給停止が解除され子に遺族基礎年金が支給されます。厚生年金は「世帯の年金」という位置づけで、配偶者が要らないと申出したら世帯で止まってしまいますが、国民年金の遺族基礎年金は「子」の年金である為、子に遺族基礎年金が支給されるんです。


遺族補償による支給停止

遺族厚生年金は、被保険者または被保険者であった死亡について労働基準法の規定による遺族補償の支給が行われるときは、死亡の日から6年間、その支給が停止されます。(法64条)

老齢厚生年金の受給権者に対する支給停止

第64条の2 遺族厚生年金(その受給権者が65歳に達しているものに限る。)は、その受給権者が老齢厚生年金の受給権を有するときは、当該老齢厚生年金の額に相当する部分の支給を停止する。

年金は「一人一年金」の原則により、同じ事由の年金以外は併給される事はありませんが、65歳以上の場合は併給可能な年金があります。例えば遺族厚生年金老齢厚生年金です。

老齢厚生年金は、自身で働いで納めた保険料で将来受け取る年金です。保険料を納めてきたのに、遺族厚生年金が支給される事で受け取れないと嫌ですよね。なので自分の老齢厚生年金が全額支給され、遺族厚生年金が多い場合は、老齢厚生年金との差額が支給されます。つまり老齢厚生年金の額に相当する部分が支給停止されるということです。

老齢厚生年金の受給権を有していたら老齢厚生年金が全額支給され遺族基礎年金は併給調整されます。遺族厚生年金は「非課税」で老齢厚生年金は「課税されます」。あれ?損してない?💦あくまで自身で保険料を納めてきた老齢厚生年金ですから、先ずは老齢厚生年金が全額支給されると割り切るしか無いですね。

老齢厚生年金に加給年金額が加算されている場合には、これを含めずに併給調整されます。

では過去問いきましょう

問1. 配偶者と離別した父子家庭の父が死亡し、当該死亡の当時、生計を維持していた子が遺族厚生年金の受給権を取得した場合、当該子が死亡した父の元配偶者である母と同居することになったとしても、当該子に対する遺族厚生年金は支給停止とはならない。

過去問 令和5年 厚生年金保険法

←正解はこちら
問1. 〇 近年の社労士試験は、理解しているか事例で問われる事が多いですね。事例を整理すると、死亡した父の元妻には遺族厚生年金は発生しません。子は遺族厚生年金の受給権を取得しています。当該子が死亡した父の元妻(父の元配偶者である母)と同居しても「子に対する遺族厚生年金は、配偶者が遺族厚生年金の受給権を有する期間、その支給を停止する」に該当しませんので子に対する遺族厚生年金は支給停止とはなりません。国民年金法の子に対する遺族基礎年金「生計を同じくするその子の父若しくは母があるときは、その間、その支給を停止する」と引っ掛けていますね。

問2. 遺族基礎年金と遺族厚生年金の受給権を有する妻が、障害基礎年金と障害厚生年金の受給権を取得した。妻は、障害基礎年金と障害厚生年金を選択したため、遺族基礎年金と遺族厚生年金は全額支給停止となった。妻には生計を同じくする子がいるが、子の遺族基礎年金については、引き続き支給停止となるが、妻の遺族厚生年金が全額支給停止であることから、子の遺族厚生年金は支給停止が解除される。

過去問 令和3年 厚生年金保険法

←正解はこちら
問2. ✕ 厚生年金法と同一の支給事由に基づいて支給される国民年金法による年金たる給付は併給されますが、障害厚生年金と遺族厚生年金は選択受給となります。遺族厚生年金の配偶者と子は同順位ですので配偶者が受給権を有していたら子は支給停止になります。設問の妻が選択受給で遺族厚生年金が全額支給停止になっていたとしても、遺族厚生年金の受給権は持ったままですので子の遺族厚生年金の支給停止は解除されません。子の支給停止解除の条件は、配偶者が1年以上所在不明だったり、子のみが遺族基礎年金の受給権を有するとき等でしたよね。

問3. 被保険者の死亡により、その妻と子に遺族厚生年金の受給権が発生した場合、子に対する遺族厚生年金は、妻が遺族厚生年金の受給権を有する期間、その支給が停止されるが、妻が自己の意思で妻に対する遺族厚生年金の全額支給停止の申出をしたときは、子に対する遺族厚生年金の支給停止が解除される。

過去問 平成30年 厚生年金保険法

←正解はこちら
問3. ✕ 前段部分は正しいですね。論点は後段部分です。年金たる保険給付は、その受給権者の申出により、その全額を停止することができました。厚生年金は「世帯の年金」である為に、配偶者が全額停止の申出をして支給停止されている間は子も支給停止のままになります。一方で、国民年金の遺族基礎年金は「子」の年金である為、配偶者が全額停止の申出をしたら子に遺族基礎年金が支給されるんでしたね。

問4. 15歳の子と生計を同じくする55歳の夫が妻の死亡により遺族基礎年金及び遺族厚生年金の受給権を取得した場合、子が18歳に達した日以後の最初の3月31日までの間は遺族基礎年金と遺族厚生年金を併給することができるが、子が18歳に達した日以後の最初の3月31日が終了したときに遺族基礎年金は失権し、その翌月から夫が60歳に達するまでの間は遺族厚生年金は支給停止される。なお、本問の子は障害の状態にはなく、また、設問中にある事由以外の事由により遺族基礎年金又は遺族厚生年金は失権しないものとする。

過去問 平成29年 厚生年金保険法

←正解はこちら
問4. 〇 事例問題は要件をさっと思い出さないと時間がかかります。遺族は55歳の夫ですので遺族厚生年金の受給権は発生しますが60歳に達するまで支給停止でした。ただし、当該夫が遺族基礎年金の受給権を有するときは、この限りではない。でしたね。設問の子が18歳年度末をむかえ、遺族基礎年金が失権したら「夫が遺族基礎年金の受給権を有するとき」には該当せず原則に戻り60歳に達するまでは支給停止されます。

法改正前の遺族基礎年金は、国民年金の被保険者等が死亡した場合、「子のある妻または子」に支給される規定でしたが平成26年4月から施行された遺族基礎年金は「子のある配偶者または」に拡大され夫も遺族基礎年金が受けられるようになり、条文が複雑化しています。事例問題も多くなっていますが、あまり考えすぎずに原則と過去に問われた論点を中心におさえていくことをおすすめします。

この記事が参考になったら応援お願いします。↓

にほんブログ村 資格ブログ 社労士試験へ
資格受験ランキング

コメント

  1. みつくん より:

    なかなかいい問題ばかりですね。解説まで読むことをおすすめします。ありがとうございます📕

    • palnyan より:

      コメント有難うございます。近年の試験は理解しているか事例で問われる事が多くなっていますので、頭を悩ます過去問を集めてみました。(^^♪