受給権者とは「年金を受ける権利を有する者」です。年金を受ける権利(受給権)は、年齢や受給資格期間などの要件を満たせば発生します。年金を受けとる権利(受給権)は基本権とも言います。そして基本権に基づき年金給付を各支払期月ごとに受けとる権利を支分権と言います。このあたりは国民年金法と同じですね。
老齢厚生年金の受給権者
老齢厚生年金には、経過措置で60歳台前半で支給される「特別支給の老齢厚生年金」がありますが、ここでは原則的な老齢厚生年金について見ていきます。特別支給の老齢厚生年金に対して「本来支給の老齢厚生年金」と言ったりもします。
条文を見てみよう
老齢厚生年金は、被保険者期間を有する者が、次の各号のいずれにも該当するに至つたときに、その者に支給する。
一 65歳以上であること。
二 保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が10年以上であること。
支給要件は3つあります。
- 被保険者期間を有すること
- 65歳以上
- 保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が10年以上あること
老齢厚生年金の支給要件
「被保険者期間を有する」の被保険者とは、厚生年金保険の被保険者のことです。本来支給の老齢厚生年金は1カ月以上の被保険者期間があれば支給されます。被保険者期間は「月単位」ですので最低1カ月あればOKとなります。
65歳以上とは「65歳に達した日」のことを指します。誕生日の前日です。4月1日生まれの人が65歳に達するのは3月31日ですね。65歳の誕生日の前日に受給権が発生します。
3つ目の「保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が10年以上あること」ですが、これは国民年金の受給資格のことを指します。本則では保険料納付済期間と保険料免除期間に限定していますが、合算対象期間も合算して10年以上あれば、受給資格期間を満たす者とみなされます。(法附則14条)
これら3つの支給要件のいずれにも該当したら、当然に発生するのが受給権です。
老齢厚生年金の年金額
本来支給の老齢厚生年金は「報酬比例部分」と「経過的加算」の合計で、一定の要件を満たすと「加給年金額」が加算されます。
条文を見てみよう
老齢厚生年金の額は、被保険者であつた全期間の平均標準報酬額(被保険者期間の計算の基礎となる各月の標準報酬月額と標準賞与額に、別表各号に掲げる受給権者の区分に応じてそれぞれ当該各号に定める率(以下「再評価率」という。)を乗じて得た額の総額を、当該被保険者期間の月数で除して得た額をいう。)の1,000分の5.481に相当する額に被保険者期間の月数を乗じて得た額とする。
ここで登場する用語の定義は重要なので、しっかり押さえていきましょう。
平均標準報酬額
平均標準報酬額とは、被保険者期間の計算の基礎となる各月の「標準報酬月額」と「標準賞与額」に再評価率を乗じて得た額の総額を被保険者期間の月数で除して得た額のことです。
簡単に言うと、厚生年金保険に加入していた全期間の標準報酬月額と標準賞与額を平均したものが「平均標準報酬額」です。再評価率とは過去の報酬を現在の水準に調整する率のことで、毎年改定されています。国民年金法の「改定率」と同様の仕組みと考えて下さい。
標準報酬月額は、報酬月額に基づき、等級で区分されていた第1級(88,000円)~第32級(650,000円)のことで、標準賞与額は、賞与を受けたときに1,000未満の端数を切り捨てた額のことでしたね。
もともと、平成15年3月まで厚生年金保険料は、月々の給与から徴収し、賞与からは徴収されていませんでした。平成15年4月以後「総報酬制」が導入され賞与にも保険料が課されることになったんです。
年金額の計算上、平成15年3月までの期間は「標準報酬月額」に再評価率を乗じて得た額の総額を、平成15年3月までの期間で除して算定します。この額を平均標準報酬月額と言います。
期間 | 名称 | 計算の基礎となる額 |
---|---|---|
平成15年4月以後 | 平均標準報酬額 | 標準報酬月額と標準賞与額 |
平成15年3月以前 | 平均標準報酬月額 | 標準報酬月額 |
つまり年金額は、平成15年3月以前と平成15年4月以後の期間で2つの計算式があり、足し合わせて計算します。
報酬比例部分の計算式
上記条文(第43条1項)に1,000分の5.481と言う数字がありますが、この数字は「給付乗率」といい、平成15年3月以前の期間は法附則で1,000分の7.125と読み替えます。
報酬比例部分の額の計算式は
期間 | 計算式 | 給付乗率 |
---|---|---|
平成15年4月以後 | 平均標準報酬額✕給付乗率✕被保険者期間の月数 | 1,000分の5.481 |
平成15年3月以前 | 平均標準報酬月額✕給付乗率✕被保険者期間の月数 | 1,000分の7.125 |
給付乗率の経過措置
昭和21年4 月1日以前生まれの者は、生年月日に応じて給付乗率を読み替える経過措置があります。
昭和21年4 月1日以前生まれの者 | |
---|---|
平成15年4月以後 | 1,000分の5.481→1,000分の5.562~7.308 |
平成15年3月以前 | 1,000分の7.125→1,000分の7.23~9.5 |
それでは過去問いきましょう
問1 老齢厚生年金の報酬比例部分の年金額を計算する際に、総報酬制導入以後の被保険者期間分については、平均標準報酬額×給付乗率×被保険者期間の月数で計算する。この給付乗率は原則として1000分の5.481であるが、昭和36年4月1日以前に生まれた者については、異なる数値が用いられる。
過去問 令和6年 厚生年金保険法
✕ 給付乗率を読み替えるのは、昭和21年4月1日以前生まれの者です。昭和21年4月1日以前生まれの者は、1000分の5.481を「1,000分の5.562~1,000分の7.308」と読み替えます。昭和61年4月に、老齢厚生年金の定額部分が、国民年金の老齢基礎年金に置き換わった際に、支給額に差があったため段階的に給付乗率を下げる経過措置がとられました。大正15年4月2日生まれ~昭和21年4月1日以前生まれが対象で20年かけて給付乗率を読み替える経過措置です。
問2 1つの種別の厚生年金保険の被保険者期間のみを有する者の総報酬制導入後の老齢厚生年金の報酬比例部分の額の計算では、総報酬制導入後の被保険者期間の各月の標準報酬月額と標準賞与額に再評価率を乗じて得た額の総額を当該被保険者期間の月数で除して得た平均標準報酬額を用いる。
過去問 令和4年 厚生年金保険法
〇 平成15年4月に総報酬制が導入され、賞与からも保険料が課されることになりました。よって総報酬制導入後の老齢厚生年金の報酬比例部分の額の計算は、被保険者期間の各月の標準報酬月額と標準賞与額に再評価率を乗じて得た額の総額を当該被保険者期間の月数で除して得た平均標準報酬額を用いて計算します。
総報酬制導入前の被保険者期間を有する場合は、当該被保険者期間の各月の標準報酬月額に再評価率を乗じて得た額の総額を当該被保険者期間の月数で除して得た平均標準報酬月額を用いて計算し足し合わせます。
問3 老齢基礎年金を受給している66歳の者が、平成30年4月1日に被保険者の資格を取得し、同月20日に喪失した(同月に更に被保険者の資格を取得していないものとする。)。当該期間以外に被保険者期間を有しない場合、老齢厚生年金は支給されない。
過去問 平成30年 厚生年金保険法
✕ 本来支給の老齢厚生年金は「1カ月以上」厚生年金保険の被保険者期間があれば他の要件を満たす限り支給されます。同じ月に資格の得喪(同月得喪)があった場合は、1カ月の被保険者期間となり、老齢基礎年金を受給中ということは「保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が10年以上であること」も満たしています。年齢も65歳以上ですので、この者には老齢厚生年金が支給されます。
問4 老齢厚生年金の受給資格要件を満たす65歳以上の者が老齢厚生年金を受給するためには、厚生年金保険の被保険者期間が1か月以上必要であり、同要件を満たす60歳以上65歳未満の者が特別支給の老齢厚生年金を受給するためには、当該被保険者期間が1年以上必要である。
過去問 平成24年 厚生年金保険法
〇 本来支給の老齢厚生年金は「1カ月以上」厚生年金保険の被保険者期間があれば他の要件を満たす限り支給されます。これに対して60歳台前半の特別支給の老齢厚生年金を受給するためには、「1年以上」厚生年金保険の被保険者期間が必要です。
もともと厚生年金保険と国民年金は独立した制度でしたが、昭和61年4月1日より統合され老齢厚生年金の定額部分が、国民年金の老齢基礎年金となり、60歳から支給されていた老齢年金は原則65歳から支給されることになりました。また平成15年4月の総報酬制導入により賞与からも保険料が課されることになり、経過措置がある為、複雑化しています。年金を得意にするには原則を抑えて、経過措置含めて制度を理解する必要があります。
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