ここでは被保険者の種類や、特定適用事業所、特定4分の3未満短時間労働者などについて解説していきます。4分の3基準を満たさない短時間労働者でも、特定適用事業所に使用されると被保険者になる場合があるので、しっかりと要件を理解しましょう。
被保険者の種類(当然被保険者)
厚生年金保険の被保険者は「当然被保険者」と「任意加入被保険者」に大別でき、任意加入被保険者は、さらに「任意単独被保険者」と「高齢任意加入被保険者」と「第4種被保険者」に分かれます。
当然被保険者 | 適用事業所に使用される70歳未満の者で、適用除外に該当する者を除き当然に被保険者の資格を有する者 |
任意単独被保険者 | 適用事業所以外の事業所に使用される70歳未満の者で、任意に加入した被保険者 |
高齢任意加入被保険者 | 適用事業所又は適用事業所以外の事業所に使用される70歳以上の者で、任意に加入した被保険者 |
第4種被保険者 | 昭和16年4月1日以前に生まれた者で、一定の要件を満たす被保険者 |
当然被保険者
適用事業所に使用される70歳未満の者は、適用除外に該当する者を除き当然に被保険者となります。
4分の3基準
短時間労働者でも、4分の3基準を満たすものは被保険者となります。
1週間の所定労働時間および1ヵ月間の所定労働日数が、通常の労働者の4分の3以上であること
例えば、通常の労働者の所定労働時間が1週40時間、所定労働日数が1ヵ月20日の場合、短時間労働者の所定労働時間が1週20時間、所定労働日数が1ヵ月20日である場合には、4分の3基準を満たせてないので被保険者になりません。
1週間の所定労働時間と1ヵ月間の所定労働日数の両方とも通常の労働者の4分の3以上である必要があります。
適用除外
次のいずれかに該当する者は、厚生年金保険の被保険者にはなりません。
ただし、1 月を超えて引き続き使用されるに至った場合、該当するに至った日に被保険者となります。
ただし、所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合、該当するに至った日に被保険者となります。
この者は長期にわたり使用されても、被保険者になることはありません。
ただし、当初から継続して4月を超えて使用される予定の場合、初めから被保険者になります。
ただし、当初から継続して6月を超えて使用される予定の場合、初めから被保険者になります。
事業所に使用される者で、1週間の所定労働時間又は1月間の所定労働日数が、同一の事業所に使用される通常の労働者の4分の3未満の短時間労働者で、かつ、以下のいずれかに該当する者
- 1週間の所定労働時間が20時間未満
- 報酬の額が(資格取得時決定)88,000円未満であること
- 学校教育法に規定する学生等であること
※1. 船舶所有者に使用される船員は除かれています
これから、ややこしい事を書きますので集中して読んで下さい。受験生の多くが頭を悩ます重要論点です。
上記適用除外の6 一定の短時間労働者ですが1週間の所定労働時間又は1月間の所定労働日数が、同一の事業所に使用される通常の労働者の4分の3未満の短時間労働者であっても以下の要件に全て該当しない者は、被保険者になる場合があります。これを特定4分の3未満短時間労働者といいます。
- 1週間の所定労働時間が20時間未満
- 報酬の額が(資格取得時決定)88,000円未満であること
- 学校教育法に規定する学生等であること
特定4分の3未満短時間労働者
1週間の所定労働時間又は1月間の所定労働日数が、同一の事業所に使用される通常の労働者の4分の3未満の短時間労働者(4分の3基準を満たしていない)であっても要件を満たせば被保険者になります。
4分の3基準を満たしていない者であっても、以下の5要件全てに該当するものは被保険者となる
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 同一の事業所に継続して2ヵ月以上雇用されることが見込まれること
- 報酬の額が88,000円以上であること
- 学校教育法に規定する学生等でないこと
- 特定適用事業所に使用されていること
上記1~4までの要件を満たしたとしても5の特定適用事業所に該当しなければ被保険者となりません。5要件を全て満たす必要があります。
では特定適用事業所とはどんな事業所なのでしょうか?
特定適用事業所とは
「特定適用事業所」とは、事業主が同一である 1 又は 2 以上の適用事業所であって、当該1又は2以上の適用事業所に使用される特定労働者の総数が常時50人を超えるものの各適用事業所をいう。
※法改正:2024年10月1日以降常時100人を超える事業所から常時50人を超えるに拡大
特定労働者とは70歳未満のうち適用除外のいずれにも該当しない者で、特定4分の3未満短時間労働者以外の者です。
この適用拡大は段階的に行われており、2024年10月からは従業員数が50人を超える(51人以上)事業所、つまり特定適用事業所であれば、要件を満たす短時間労働者は被保険者となります。
特定適用事業所に該当しなくなったら
特定適用事業所に該当しなくなった(常時使用される被保険者数が50人以下になった)適用事業所に使用される特定4分の3未満短時間労働者は、引き続き被保険者となります。
ただし、次の1又は2に掲げる場合に応じ、それぞれ同意を得て実施機関に(厚生労働大臣及び日本私立学校振興・共済事業団に限る)申出をした場合、申出が受理された日の翌日に当該特定4分の3未満短時間労働者は、厚生年金保険の被保険者の資格を喪失します。
- 当該事業主の1又は2以上の適用事業所に使用される厚生年金保険の被保険者及び70歳以上の使用される者(以下「4分の3以上同意対象者」という)の4分の3以上で組織する労働組合があるとき は当該労働組合の同意
- 労働組合がないときは当該事業主の1又は2以上の適用事業所に使用される4分の3以上同意対象者の 4 分の 3 以上を代表する者の同意、又は当該事業主の1 又は2以上の適用事業所に使用される4分の3以上同意対象者の4分の3以上の同意
任意特定適用事業所
特定適用事業所以外の適用事業所の事業主は、次の1又は2に掲げる場合に応じ、それぞれ同意を得て実施機関に(厚生労働大臣及び日本私立学校振興・共済事業団に限る)特定4分の3未満短時間労働者を厚生年金保険の被保険者とする申出をした場合、申出が受理された日に当該特定4分の3未満短時間労働者は、厚生年金保険の被保険者の資格を取得します。
- 当該事業主の1又は2以上の適用事業所に使用される厚生年金保険の被保険者及び70歳以上の使用される者及び特定4分の3未満短時間労働者(以下「2分の1以上同意対象者」という)の過半数で組織する労働組合があるとき は当該労働組合の同意
- 労働組合がないときは当該事業主の1又は2以上の適用事業所に使用される2分の1以上同意対象者の 過半数を代表する者の同意、又は当該事業主の1 又は2以上の適用事業所に使用される2分の1以上同意対象者の2分の1以上の同意
任意加入被保険者
適用事業所に使用される70歳未満の者は、適用除外に該当する者を除き当然に被保険者となります。では任意加入の種類と要件を見ていきます。
種類と要件
任意加入の種別 | 要件 |
---|---|
任意単独被保険者 | 適用事業所以外の事業所に使用される70歳未満の者で、厚生労働大臣の認可を受ける(事業主の同意必要) |
高齢任意加入被保険者 | 適用事業所又は適用事業所以外の事業所に使用される70歳以上の者で、老齢年金の受給権を有していない |
第4種被保険者 | 旧法時代に存在した退職後の任意加入制度。昭和16年4月1日以前に生まれた者で、一定の要件を満たす被保険者 廃止されているが、経過措置で残されている |
任意単独被保険者
条文を見てみよう
- 第10条(取得)
-
1 適用事業所以外の事業所に使用される70歳未満の者は、厚生労働大臣の認可を受けて、厚生年金保険の被保険者となることができる。
2 前項の認可を受けるには、その事業所の事業主の同意を得なければならない。
- 第11条(喪失)
-
前条の規定による被保険者は、厚生労働大臣の認可を受けて、被保険者の資格を喪失することができる。
70歳未満の者が適用事業所以外の事業所で働いている場合、被保険者にはなりませんが、希望により任意加入することが出来ます。ただし、事業所が適用事業所以外である為、必ず「事業主の同意」が必要になります。
事業主が同意すると任意単独被保険者に係る届出義務が発生し、保険料の半額負担と納付義務が生じます。そもそも適用事業所以外の事業所なので社会保険に加入させる義務はありませんが、事業主は保険料の折半と納付義務を負うことになります。なので「事業主の同意」が必要なんですね。
任意加入するために事業主の同意を得る
認可があった日に任意単独被保険者の資格を取得する
事業主は当該任意単独被保険者の保険料の半分を負担
喪失
任意単独被保険者は、厚生労働大臣の認可を受けて、被保険者の資格を喪失することができます。
この時の手順としては、事業主に申し出たうえで自身で「厚生年金保険任意単独被保険者資格喪失申請書」を提出することになります。
論点はずばり
- 事業主の同意は必要ない
- 事業主が資格喪失届を提出する必要がない
加入するときは「事業主の同意」は必須でしたが、喪失するときは「事業主の同意不要」です。加入する時は保険料の納付義務や届出等が発生しますので同意必要ですが、喪失する時は同意の必要はありません。良いか悪いかは別として、保険料の納付義務が無くなりますので・・・
特定4分の3未満短時間労働者は任意加入できる?
当分の間、適用事業所以外の事業所に使用される特定4分の3未満短時間労働者については、厚生年金保険法10条1項(任意単独被保険者)及び附則4条の5第1項(高齢任意加入被保険者)の規定にかかわらず、厚生年金保険の被保険者としない(年金機能強化法附則17条3)
適用事業所以外の事業所に使用される特定4分の3未満短時間労働者は、任意単独被保険者、高齢任意加入被保険者になるとこはできないということです。
高齢任意加入被保険者
適用事業所又は適用事業所以外の事業所に使用される70歳以上の者で、老齢年金の受給権を有していない場合、一定の要件のもと任意加入できます。論点が多いですので別記事にて解説しています。↓
それでは過去問いきましょう
問1 適用事業所に使用される70歳未満の者であって、2か月以内の期間を定めて臨時に使用される者(船舶所有者に使用される船員を除く。)であって、当該定めた期間を超えて使用されることが見込まれないものは、厚生年金保険法第12条第1号に規定する適用除外に該当せず、使用される当初から厚生年金保険の被保険者となる。
過去問 令和4年 厚生年金保険法
✕ 適用除外の問題です。臨時に使用されるものの適用除外は2つありましたね。
臨時に使用される者であって、次に掲げるものは適用除外
・ 日々雇い入れられる者
・ 2月以内の期間を定めて使用される者で、当該定めた期間を超えて使用されることが見込まれない者
ただし書きも重要です。
ただし、日々雇い入れられる者は、1 月を超えて引き続き使用されるに至った場合、該当するに至った日に被保険者となります。
ただし、2月以内の期間を定めて使用される者は、所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合、該当するに至った日に被保険者となります。
問2 臨時的事業の事業所に使用される者であって、その者が継続して6か月を超えない期間使用される場合、厚生年金保険の被保険者とならない。
過去問 平成25年 厚生年金保険法
〇 臨時に使用されるものと、「臨時的事業」に使用されるものは別物ですから気を付けて下さい。臨時的事業は被保険者とならない。ただし、継続して6月を超えて使用されるべき場合は、その当初から被保険者となる。でしたね。例えば7カ月の臨時的事業に使用される場合は、最初から被保険者になるという意味です。
つまり、6カ月の期間に限り使用される予定だったが「たまたま」継続して6カ月を超えて使用されても被保険者にはなりません。
これは季節的業務に使用される者も同様の論点です。
問3 特定適用事業所に該当しなくなった適用事業所に使用される特定4分の3未満短時間労働者は、事業主が実施機関に所定の申出をしない限り、厚生年金保険の被保険者とならない。
過去問 令和4年 厚生年金保険法
✕ 特定適用事業所に該当しなくなった(常時使用される被保険者数が50人以下になった)適用事業所に使用される特定4分の3未満短時間労働者は、引き続き被保険者となります。適用事業所に使用される4分の3以上同意対象者の4分の3以上の同意を得て喪失させることが出来ます。
問4 適用事業所以外の事業所に使用される70歳未満の特定4分の3未満短時間労働者については、厚生年金保険法第10条第1項に規定する厚生労働大臣の認可を受けて任意単独被保険者となることができる。
過去問 令和2年 厚生年金保険法
✕ 適用事業所以外の事業所に使用される特定4分の3未満短時間労働者は、任意単独被保険者、高齢任意加入被保険者になるとこはできません。経過措置で法附則に定めてあります。
問5 特定4分の3未満短時間労働者に対して厚生年金保険が適用されることとなる特定適用事業所とは、事業主が同一である1又は2以上の適用事業所であって、当該1又は2以上の適用事業所に使用される労働者の総数が常時100人を超える事業所のことである。
過去問 令和5年 厚生年金保険法
✕ この問題は間違える人が多数いると思います。細かい論点をついていますね。特定適用事業所の定義は、2024年10月1日から「100人超→50人超」になりますが、この人数は「労働者の総数」ではありません。「特定労働者」の総数です。
特定労働者とは70歳未満のうち適用除外のいずれにも該当しない者で、特定4分の3未満短時間労働者以外の者です。
問6 特定適用事業所で使用されている甲(所定内賃金が月額88,000円以上、かつ、学生ではない。)は、雇用契約書で定められた所定労働時間が週20時間未満である。しかし、業務の都合によって、2か月連続で実際の労働時間が週20時間以上となっている。引き続き同様の状態が続くと見込まれる場合は、実際の労働時間が週20時間以上となった月の3か月目の初日に、甲は厚生年金保険の被保険者資格を取得する。
過去問 令和5年 厚生年金保険法
〇 所定労働時間が週20時間未満である者が、業務の都合等により恒常的に実際の労働時間が週20時間以上となった場合は、連続する2月において引き続き同様の状態が続いている又は続くことが見込まれる状況となれば、実際の労働時間が週20時間以上となった月の3月目の初日に被保険者の資格を取得します。
特定適用事業所は、社会保険適用拡大の重要な論点です。特定4分の3未満短時間労働者の実務よりな事例に沿った問題も考えられます。厚生労働省のQ&Aの事例で内容を把握することも必要になります。
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