【厚生年金保険法】3歳未満の子を養育する被保険者等の標準報酬月額の特例

3歳未満の子を養育する被保険者等の標準報酬月額の特例

育児休業や産前産後休業から復帰後、時短勤務や時間外労働の制限により、報酬が大幅に減少することがあります。そこで定時決定を待たず又は随時改定の要件に該当しなくても、標準報酬月額を改定できる制度が、育児休業等終了時改定産前産後休業終了時改定でした。

将来受け取る年金額は、標準報酬月額に基づいて計算されるので標準報酬月額が下がれば将来の年金額が下がるのが原則です。

「3歳未満の子を養育する被保険者等の標準報酬月額の特例」とは、3歳未満の子を養育する被保険者が、時短勤務等で働き、それに伴って標準報酬月額が低下した場合、従前(低下する前)の標準報酬月額に基づく年金額を受け取ることができる制度です。

 

目次

標準報酬月額が低下しても将来の年金額は低下しない

子3歳に達するまでの養育期間中に標準報酬月額が低下した場合、養育期間中の報酬の低下が将来の年金額に影響しないよう、その子を養育する前の標準報酬月額に基づく年金額を受け取ることができる仕組みです。

支払う社会保険料は育児休業等終了時改定等により低下した保険料額ですが、年金額計算時には、従前の標準報酬月額をその期間の標準報酬月額とみなして計算します

 

引用:厚生労働省リーフレット

  

条文を見てみよう

第26条(3歳に満たない子を養育する被保険者等の標準報酬月額の特例)

3歳に満たない子を養育し、又は養育していた被保険者又は被保険者であつた者が、主務省令で定めるところにより実施機関に申出(被保険者にあつては、その使用される事業所の事業主を経由して行うものとする。)をしたときは、当該子を養育することとなつた日(厚生労働省令で定める事実が生じた日にあつては、その日)の属する月から次の各号のいずれかに該当するに至つた日の翌日の属する月の前月までの各月のうち、その標準報酬月額が当該子を養育することとなつた日の属する月の前月(当該月において被保険者でない場合にあつては、当該月前1年以内における被保険者であつた月のうち直近の月。以下この条において「基準月」という。)の標準報酬月額(この項の規定により当該子以外の子に係る基準月の標準報酬月額が標準報酬月額とみなされている場合にあつては、当該みなされた基準月の標準報酬月額。以下この項において「従前標準報酬月額」という。)を下回る月(当該申出が行われた日の属する月前の月にあつては、当該申出が行われた日の属する月の前月までの2年間のうちにあるものに限る。)については、従前標準報酬月額を当該下回る月の第43条第1項に規定する平均標準報酬額の計算の基礎となる標準報酬月額とみなす。

一 当該子が3歳に達したとき。
二 第14条各号のいずれかに該当するに至つたとき。
三 当該子以外の子についてこの条の規定の適用を受ける場合における当該子以外の子を養育することとなつたときその他これに準ずる事実として厚生労働省令で定めるものが生じたとき。
四 当該子が死亡したときその他当該被保険者が当該子を養育しないこととなつたとき。
五 当該被保険者に係る第81条の2第1項の規定の適用を受ける育児休業等を開始したとき。
六 当該被保険者に係る第81条の2の2第1項の規定の適用を受ける産前産後休業を開始したとき。

カッコ書きを除いて見てみます。

3歳に満たない子を養育し、又は養育していた被保険者又は被保険者であつた者が、主務省令で定めるところにより実施機関に申出をしたときは、当該子を養育することとなつた日の属する月から次の各号のいずれかに該当するに至つた日の翌日の属する月の前月までの各月のうち、その標準報酬月額が当該子を養育することとなつた日の属する月の前月の標準報酬月額を下回る月については、従前標準報酬月額を当該下回る月の第43条第1項に規定する平均標準報酬額の計算の基礎となる標準報酬月額とみなす。

対象期間は、子を養育することとなった日の属するから、「次の各号のいずれか」に該当するの至った日の翌日の属する月の前月までです。この期間について、当該子を養育することとなつた日の属する月の前月の標準報酬月額を下回る月については、年金額計算時には、従前の標準報酬月額をその期間の標準報酬月額とみなして計算します。

 

次の各号のいずれか

一 当該子が3歳に達したとき。

二 第14条各号のいずれかに該当するに至つたとき。
 (事業所に使用されなくなったなど、被保険者の資格喪失です。)

三 当該子以外の子についてこの条の規定の適用を受ける場合における当該子以外の子を養育することとなつたときその他これに準ずる事実として厚生労働省令で定めるものが生じたとき。

四 当該子が死亡したときその他当該被保険者が当該子を養育しないこととなつたとき。

五 当該被保険者に係る第81条の2第1項の規定の適用を受ける育児休業等を開始したとき。
(育児休業期間中の保険料の免除のことです)

六 当該被保険者に係る第81条の2の2第1項の規定の適用を受ける産前産後休業を開始したとき。
(産前産後休業期間中の保険料の免除のことです)

子を養育することとなった日の属するから、各号に該当するの至った日の翌日の属する月の前月まで

から3歳に達した日の翌日の属する月の前月まで」です。過去に選択式(平成30年)で出題もあり重要です。

五号、六号の育児休業期間中の保険料の免除の適用を受ける育児休業等を開始したときと、産前産後休業期間中の保険料の免除の適用を受ける産前産後休業を開始したときですが、例えば第1子を養育中に第2子を出生して「新たな産前産後休業育児休業等」を開始したときです。

保険料の免除の適用を受ける育児休業等を開始したとき又は、産前産後休業を開始した場合は、養育期間の従前標準報酬月額のみなし特例は適用されません

  

子を養育することとなった日の属する月の前月において被保険者でない場合

原則、子の養育開始月の前月の標準報酬月額が従前標準報酬月額となります。しかし退職して子を出産、再就職した場合、子を養育することとなった日の属する月の前月において被保険者ではありません・・・が

子を養育することとなった日の属する月の前月(出生の前月)に被保険者でない場合は、出生の月より前の1年間のうちの「直近」の標準報酬月額が従前標準報酬月額となります。

子を養育することとなった日の属する月の前月を「基準月」といいますが、 当該月において被保険者でない場合にあっては、当該月前 1 年以内における被保険者であった月のうち直近の月が基準日となります。

なお、その月前1年以内に被保険者期間がない場合は、養育期間の従前標準報酬月額のみなし特例は受けられません。

 

 

遡及できる期間は?

条文にカッコ書きで「当該申出が行われた日の属する月前の月にあつては、当該申出が行われた日の属する月の前月までの2年間のうちにあるものに限る。」とあります。

被保険者の申出があった日よりも前に養育期間がある場合、養育期間のうち申出日が含まれる月の前月までの2年間について、さかのぼって特例措置が認められます。

 

2025年1月1日から添付書類が省略

特例措置を受けるには被保険者が「厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書」を事業主を経由して日本年金機構に提出します。「申出者と子の身分関係および子の生年月日を証明できるもの」として「戸籍謄(抄)本または戸籍記載事項証明書」の原本(コピー不可)、「住民票の写し」が添付書類として必要です。

しかし厚生年金保険法施行規則の改正により、2025年1月1日から「事業主による確認欄が設けられ、その確認を受けた場合には、当該子と申出者との身分関係を明らかにすることができる、市町村長その他相当な機関の証明書又は戸籍の抄本の添付を不要とする」という決定がなされ添付書類が不要になります。

参考:厚生年金保険法施工規則等の一部を改正する省令の公布について

 

それでは過去問いきましょう

問1 3歳に満たない子を養育している被保険者又は被保険者であった者が、当該子を養育することとなった日の属する月から当該子が3歳に達するに至った日の翌日の属する月の前月までの各月において、年金額の計算に使用する平均標準報酬月額の特例の取扱いがあるが、当該特例は、当該特例の申出が行われた日の属する月前の月にあっては、当該特例の申出が行われた日の属する月の前月までの3年間のうちにあるものに限られている。
過去問 令和3年 厚生年金保険法

✕ これは分かりやすい数字の間違いですね。3年間ではなく、当該特例の申出が行われた日の属する月の前月までの2年間のうちにあるものに限られているです。

問2 被保険者の配偶者が出産した場合であっても、所定の要件を満たす被保険者は、厚生年金保険法第26条に規定する3歳に満たない子を養育する被保険者等の標準報酬月額の特例の申出をすることができる。
過去問 平成30年 厚生年金保険法

〇 被保険者の配偶者が出産した場合でも、夫が他の要件を満たす限り、特例措置を受けられます。条文の始まりが「3歳に満たない子を養育し、又は養育していた被保険者又は被保険者であつた者が・・・」と、出産したものに限られていません。

問3 3歳未満の子を養育する期間中の各月の標準報酬月額が、子の養育を開始した月の前月の標準報酬月額を下回る場合には、被保険者の申出に基づいて、年金額の計算に際しては、その標準報酬月額が低下した期間については、従前の標準報酬月額がその期間の標準報酬月額とみなされる。
過去問 平成17年 厚生年金保険法

〇 子の養育を開始した月の前月の標準報酬月額より、3歳未満の子を養育する期間中の各月の標準報酬月額が下回る場合は、従前の標準報酬月額がその期間の標準報酬月額とみなされます。

被保険者の申出なので任意です。

問4 厚生年金保険法第26条に規定する3歳に満たない子を養育する被保険者等の標準報酬月額の特例(以下本問において「本特例」という。)に関する次の記述のうち、正しいか否か。

甲は、第1号厚生年金被保険者であったが、令和4年5月1日に被保険者資格を喪失した。その後、令和5年6月15日に3歳に満たない子の養育を開始した。更に、令和5年7月1日に再び第1号厚生年金被保険者の被保険者資格を取得した。この場合、本特例は適用される。
過去問 令和5年 厚生年金保険法

✕ 「被保険者であったもの」が適用されるには、子を養育することとなった日の属する月前から「1年以内」に被保険者期間が必要です。被保険者期間がない場合は、養育期間の従前標準報酬月額のみなし特例は受けられません。

設問の人は、令和5年6月15日に子の養育を開始していますので、令和5年5月以前1年間に被保険者期間がありません。(令和4年5月1日に被保険者資格を喪失) よって適用されません。

問5 厚生年金保険法第26条に規定する3歳に満たない子を養育する被保険者等の標準報酬月額の特例(以下本問において「本特例」という。)に関する次の記述のうち、正しいか否か。

本特例についての実施機関に対する申出は、第1号厚生年金被保険者又は第4号厚生年金被保険者はその使用される事業所の事業主を経由して行い、第2号厚生年金被保険者又は第3号厚生年金被保険者は事業主を経由せずに行う。
過去問 令和5年 厚生年金保険法

〇 原則、申出は事業主を経由して日本年金機構へ提出することになります。第1号厚生年金被保険者又は第4号厚生年金被保険者が該当します。ただし第2号厚生年金被保険者又は第3号厚生年金被保険者(公務員)は、事業主を経由しません。

問6 厚生年金保険法第26条に規定する3歳に満たない子を養育する被保険者等の標準報酬月額の特例(以下本問において「本特例」という。)に関する次の記述のうち、正しいか否か。

本特例が適用される場合には、老齢厚生年金の額の計算のみならず、保険料額の計算に当たっても、実際の標準報酬月額ではなく、従前標準報酬月額が用いられる。
過去問 令和5年 厚生年金保険法

✕ 支払う社会保険料は育児休業等終了時改定等により低下した保険料額ですが、老齢厚生年金額計算時には、従前の標準報酬月額をその期間の標準報酬月額とみなして計算します

 

3歳未満の子を養育する被保険者等の標準報酬月額の特例は、申出なので被保険者の判断でしなくてもかまいません。育児休業等から復帰しても時短等が無く、標準報酬月額が低下しなければ、この特例も適用されませんが、子が3歳に達するまでに標準報酬月額が低下する可能性もある為、申出しておいた方が良いと思います。

ちなみにこの特例は、要件を満たせば育児や時間勤務に関係ない理由で報酬が低下しても適用されます。

 

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