【厚生年金保険法】定時決定

定時決定

厚生年金保険や健康保険の標準報酬月額は、被保険者の報酬月額に基づいて決定され、保険料や給付額の計算に用いられます。標準報酬月額を決定・改定するタイミングとして、定時決定資格取得時決定随時改定などがあります。実務的には、報酬月額算定基礎届や月額変更届を日本年金機構(健康保険組合に加入している事業主は併せて健康保険組合)へ提出して決定・改定されます。

目次

標準報酬月額の決定と改定

標準報酬月額が決定・改定されるタイミングは5つあります。

  • 毎年7月1日現在での定時決定
  • 被保険者資格を取得した際の決定
  • 随時改定
  • 育児休業終了時の改定
  • 産前産後休業終了時の改定

また、報酬月額の算定が困難であるとき(随時改定の場合を除く)、 算定されたものが著しく不当であると認めるとき(随時改定の場合を含む)は、保険者算定が行われます。この場合、実施機関が算定する額が当該被保険者の報酬月額になります。

 

定時決定とは?

原則毎年7月1日現在に、その事業所で使用されるすべての被保険者について標準報酬月額の見直しを行うため、休職中の従業員であっても、報酬月額算定基礎届を提出します。厚生年金保険の資格を喪失する70歳以上であっても、在職老齢年金の仕組みによる支給停止の対象になる為、対象になります。

条文を見てみよう

第21条(定時決定)

実施機関は、被保険者が毎年7月1日現に使用される事業所において同日前3月間(その事業所で継続して使用された期間に限るものとし、かつ、報酬支払の基礎となつた日数が17日厚生労働省令で定める者にあつては、11日随時改定育児休業等を終了した際の改定産前産後休業を終了した際の改定において同じ。)未満である月があるときは、その月を除く。)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を決定する。


2 前項の規定によつて決定された標準報酬月額は、その年の9月から翌年の8月までの各月の標準報酬月額とする。


3 第1項の規定は、6月1日から7月1日までの間に被保険者の資格を取得した者及び随時改定育児休業等を終了した際の改定産前産後休業を終了した際の改定により7月から9月までのいずれかの月から標準報酬月額を改定され、又は改定されるべき被保険者については、その年に限り適用しない

毎年7月1日現在で使用されている被保険者について定時決定は行われます。同日前3月間とは、4月・5月・6月のことで、この3月間の報酬の総額を「その期間の月数」で除した額が報酬月額になります。なぜ3で除さないで「その期間の月数」かというと報酬支払の基礎となった日数が17日未満の月は除くからです。

 報酬支払基礎日数は月給制の場合、通常「各月の暦日の日数」を記入しますが欠勤等があったときは、就業規則等で規定されている勤務日数から欠勤日数を控除した日数を記入します。そして17日未満の月があれば、その月の報酬と月数を除いて算定します。分母は3とは限らず、2や1になるとこがあるということです。

 

4分の3基準を満たさない短時間労働者は?

厚生労働省令で定める者にあっては、17日11日となり報酬支払の基礎となった日数が11日未満の月は除かれます。厚生労働省令で定める者とは、短時間労働者(4分の3基準を満たさない短時間労働者)のことです。

 

4分の3基準を満たす短時間労働者は?

原則は、「報酬支払基礎日数」が17日未満の月がある場合には、その月を除いて算出しますが、短時間就労者4分の3基準を満たす短時間労働者)の定時決定は、支払基礎日数が15日以上の月も対象に含めるなど、算定方法に違いがあります。

①3カ月のうち報酬支払基礎日数が17日以上の月が1カ月以上ある
→17日以上の該当月の報酬総額の平均値
②3カ月のうち報酬支払基礎日数がいずれも17日未満
a.15日以上17日未満の月が1カ月以上あるb.3カ月とも15日未満
a. →15日以上の該当月の報酬総額の平均値b. →従前の標準報酬月額で決定

定時決定には一時帰休に伴う休業手当など、通達による判断基準が多くあり出題もされていますので、日本年金機構の事例集を読み込んで対策しましょう。

日本年金機構:標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集

 

定時決定が行われないもの

決定された標準報酬月額の有効期間は、その年の9月から翌年の8月までです。毎年7月1日現在で使用されている被保険者について定時決定は行われますが、定時決定が行われない者もいます。

定時決定が行われない者
  • 6月1日から7月1日までの間に被保険者の資格を取得した者
  • 7月から9月までのいずれかの月に随時改定育児休業等を終了した際の改定又は産前産後休業を終了した際の改定が行われる者

 

6月1日から7月1日までの間に被保険者の資格を取得した者

定時決定は、毎年7月1日現在で使用されている、すべての被保険者について適用されます。よって7月2日以後に被保険者の資格を取得したものには適用されず対象外です。また報酬月額の算定は「4月、5月、6月に支払われた報酬」で決定しますので、翌月払いの事業所は「3月、4月、5月の報酬」となります。

6月1日以後に資格を取得したものについては、「4月、5月、6月に支払われた報酬」の平均で算定せずに、資格取得時決定で標準報酬月額を決定します。よって「6月1日から7月1日までの間に被保険者の資格を取得した者」については、7月1日現在で使用されている被保険者であっても、その年に限り定時決定は行われません。

 

7月から9月までのいずれかの月に随時改定育児休業等を終了した際の改定又は産前産後休業を終了した際の改定が行われる者

こちらも「7月1日現在で使用されている被保険者」であっても定時決定が行われない例外になります。定時決定は「4月、5月、6月に支払われた報酬」で算定し、その年の9月から翌年の8月までの各月の標準報酬月額になります。7月から9月までのいずれかの月に随時改定育児休業等を終了した際の改定又は産前産後休業を終了した際の改定が行われる者については、「4月、5月、6月に支払われた報酬」よりも最近の報酬に基づいていますので、定時決定よりも優先されます。 

 

報酬月額算定基礎届

事業主(第1号厚生年金被保険者に係る事業主に限る)は、毎年7月1日から7月10日までに、報酬月額算定基礎届を日本年金機構に提出しないといけません。健康保険組合に加入している場合は健康保険組合にもあわせて提出します。

 

それでは過去問いきましょう

問1 被保険者の報酬月額について、厚生年金保険法第21条第1項の定時決定の規定によって算定することが困難であるとき、又は、同項の定時決定の規定によって算定された被保険者の報酬月額が著しく不当であるときは、当該規定にかかわらず、実施機関が算定する額を当該被保険者の報酬月額とする。
過去問 令和元年 厚生年金保険法

〇 正しいです。原則、定時決定は、毎年7月1日現在で使用されているすべての被保険者について適用しますが・・・

  • 定時決定の規定によって算定することが困難であるとき
  • 被保険者の報酬月額が著しく不当

この場合、保険者算定で実施機関が算定する額を当該被保険者の報酬月額とします。

問2 賞与の支給が、給与規定、賃金協約等の諸規定によって年間を通じて4回以上支給されることが客観的に定められているときは、当該賞与は報酬に該当し、定時決定又は7月、8月若しくは9月の随時改定の際には、7月1日前の1年間に受けた賞与の額を12で除して得た額を、賞与に係る部分の報酬額として算定する。
過去問 平成23年 厚生年金保険法

〇 賞与は労働の対償として受けるすべてのうち、3月超える期間ごとに受けるものです。つまり年3回以内です。賞与の支給が、給与規定、賃金協約等の諸規定によって年間を通じて4回以上支給されることが客観的に定められているときは、当該賞与は報酬に該当します。名目は賞与で支給したとしても、厚生年金保険法上は報酬となります。

問3 特定適用事業所に使用される短時間労働者の被保険者の報酬支払の基礎となった日数が4月は11日、5月は15日、6月は16日であった場合、報酬支払の基礎となった日数が15日以上の月である5月及び6月の報酬月額の平均額をもとにその年の標準報酬月額の定時決定を行う。
過去問 令和3年 健康保険法

✕ 特定適用事業所に使用される短時間労働者は「4分の3基準を満たさない」けど被保険者の資格を持つものです。この場合、4月、5月、6月のいずれも、支払基礎日数11日以上で算定します。設問の事例は、4分の3基準を満たす短時間労働者(短時間就業者)についての説明になります。特定適用事業所と4分の3基準を理解していないと難しい設問です。

問4 7月から9月までのいずれかの月から標準報酬月額が改定され、又は改定されるべき被保険者については、その年における標準報酬月額の定時決定を行わないが、7月から9月までのいずれかの月に育児休業等を終了した際の標準報酬月額の改定若しくは産前産後休業を終了した際の標準報酬月額の改定が行われた場合は、その年の標準報酬月額の定時決定を行わなければならない。
過去問 令和3年 健康保険法

✕ 6月1日から7月1日までの間に被保険者の資格を取得した者と、7月から9月までのいずれかの月に随時改定育児休業等を終了した際の改定又は産前産後休業を終了した際の改定が行われる者は、定時改定は行われません。

問5 一時帰休に伴い、就労していたならば受けられるであろう報酬よりも低額な休業手当等が支払われることとなった場合の標準報酬月額の決定については、標準報酬月額の定時決定の対象月に一時帰休に伴う休業手当等が支払われた場合、その休業手当等をもって報酬月額を算定して標準報酬月額を決定する。ただし、標準報酬月額の決定の際、既に一時帰休の状況が解消している場合は、当該定時決定を行う年の9月以後において受けるべき報酬をもって報酬月額を算定し、標準報酬月額を決定する。
過去問 令和6年 健康保険法

〇 通達:原則、標準報酬の定時決定の対象月に一時帰休に伴う休業手当等が支払われた場合はその休業手当等をもって報酬月額を算定し、標準報酬を決定します。
ただし、標準報酬の決定の際、既に一時帰休の状況が解消している場合は、当該定時決定を行う年の9月以後において受けるべき報酬をもって報酬月額を算定し、標準報酬を決定します。解消するのであれば、低額になる休業手当等で算定する必要もありませんからね。

一時帰休の状況が解消しているかの判断は、7月1日で判断します。7月1日時点で一時帰休が解消しているのであれば、休業手当等が含まれた月は除外して算定します。逆に、7月1日時点で一時帰休が解消していないのであれば、休業手当等が含めて算定します。

 

定時決定とは、7月1日現在で使用している被保険者の4月から6月の3カ月間の報酬月額を、事業主が7月10日までに報酬月額算定基礎届で届出し、厚生労働大臣が毎年1回、決定するものでした。仕組みは健康保険法とほぼ同じなので、健康保険法でも良く問われる論点です。近年では事例にそった問われ方もしますので通達や事例集も把握しておきましょう。


日本年金機構:標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集

日本年金機構:算定基礎届の記入・提出ガイドブック

 

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