障害厚生年金の支給停止事由は2つ、失権事由は4つあります。基本的に障害基礎年金と同じですので違いも含めておさえましょう。
支給停止
支給停止の事由は「労働基準法の規定による障害補償」を受けるときと、障害の程度が「障害等級に該当しなくなったとき」の2つです。
障害補償による支給停止
障害厚生年金は、その受給権者が当該傷病について労働基準法第77条の規定による障害補償を受ける権利を取得したときは、6年間、その支給を停止する。
受給権者が障害厚生年金の支給事由と同一の傷病について「労働基準法による障害補償」を受ける権利を取得したら6年間支給が停止されます。障害基礎年金の支給停止と全く同じ条文ですね。
同一の傷病で、使用者から労働基準法の障害補償を受けるときは、労働基準法の障害補償が優先されます。「同一の傷病」ですので、障害厚生年金の支給事由となった傷病以外の傷病により障害補償を受けたとしても障害厚生年金は、支給停止されません。
同一の傷病による障害について、労働者災害保険法に基づき障害補償年金を受給する場合には、障害厚生年金は支給停止にならないので注意です。この場合は、障害厚生年金が満額支給され、労災側が調整されます。
同一の傷病で労働基準法による障害補償を受ける権利を取得すると6年間支給停止
障害等級に該当しなくなったとき
2 障害厚生年金は、受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなつたときは、その障害の状態に該当しない間、その支給を停止する。
ただし、その支給を停止された障害厚生年金の受給権者が疾病にかかり、又は負傷し、かつ、その傷病に係る初診日において被保険者であつた場合であつて、当該傷病によりその他障害の状態にあり、かつ、当該傷病に係る障害認定日以後65歳に達する日の前日までの間において、当該障害厚生年金の支給事由となつた障害とその他障害(その他障害が2以上ある場合は、すべてのその他障害を併合した障害)とを併合した障害の程度が障害等級の1級又は2級に該当するに至つたときは、この限りでない。
「受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなったときは、その障害の状態に該当しない間、その支給を停止する」とあります。障害厚生年金は1級と2級、そして3級まであります。「障害の状態に該当しない」ということは、3級未満ということです。
1級の人が軽快して2級の状態になると額の改定が行われます。2級の人が軽快して3級の障害状態になると、障害基礎年金が支給停止(配偶者加給年金が加算されている場合は当該加算も停止)になります。「障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなったとき」というのは3級不該当になった場合です。
その障害の状態に該当しない間、支給停止となります。障害の状態に該当しない間、支給停止なので再び悪化して3級以上に該当すると支給停止は解除されます。失権してしまうと受給権者で無くなりますので第54条2項は適用されません。
ただし書き以降
その他障害による併合改定が行われたら支給停止が解除される旨が記述されています。その他障害のポイントは理解していますか?
- その他障害が発生し65歳に達する日の前日までに先発の障害と併合して2級以上
- 後発のその他障害に対して、初診日要件と保険料納付要件を満たす必要がある
- 先発の障害は2級以上、後発の障害は3級以下
- 先発の障害は受給権取得当時に1級または2級に該当していれば良く、軽減して3級に改定され又は3級不該当となり停止されていても併合改定は行われる
事後重症・基準障害・併合認定・併合改定(その他障害)は、複雑で理解するのに時間を要します。違いが良く出題されますし、実務上も避けては通れません。重要論点です。
失権
障害厚生年金の受給権は、第48条第2項(併合認定)の規定によつて消滅するほか、受給権者が次の各号のいずれかに該当するに至つたときは、消滅する。
一 死亡したとき。
二 障害等級に該当する程度の障害の状態にない者が、65歳に達したとき。ただし、65歳に達した日において、障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなつた日から起算して障害等級に該当する程度の障害の状態に該当することなく3年を経過していないときを除く。
三 障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなつた日から起算して障害等級に該当する程度の障害の状態に該当することなく3年を経過したとき。ただし、3年を経過した日において、当該受給権者が65歳未満であるときを除く。
失権には4つの事由があります。
- 併合認定(従前消滅)
- 死亡
- 障害等級に該当する程度の障害の状態にない者が、65歳に達したとき
- 障害等級に該当する程度の障害の状態に該当することなく3年を経過
3と4の失権事由である「ただし書き」が、重要論点です。
- ①障害等級に該当する程度の障害の状態にない者が、65歳に達したとき
-
→ただし、65歳に達した日において、障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなつた日から起算して障害等級に該当する程度の障害の状態に該当することなく3年を経過していないときを除く。
- ②障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなつた日から起算して障害等級に該当する程度の障害の状態に該当することなく3年を経過
-
→ただし、3年を経過した日において、当該受給権者が65歳未満であるときを除く。
分かりづらいので図でイメージしましょう。
3級不該当から3年経過後に65歳到達した場合
①障害等級に該当する程度の障害の状態にない者が、65歳に達したときです。ただし書き(65歳到達時に障害等級に該当する程度の障害の状態に該当することなく3年経過していない)にも該当していませんので65歳到達で失権するパターンとなります。
3級不該当から3年経過後が65歳到達の後だった場合
②障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなつた日から起算して障害等級に該当する程度の障害の状態に該当することなく3年を経過ときです。ただし書き(3年を経過した日において、当該受給権者が65歳未満である)にも該当していませんので3年経過後に失権するパターンとなります。
簡単に説明すると障害等級3級にすら該当することなく、65 歳に達したとき又は3年を経過したときのいずれか遅い方に達したときに、失権します。少なくとも65歳に達するまでは失権しないというわけです。
それでは過去問いきましょう
問1 業務上の傷病により障害等級に該当する程度の障害の状態にある場合に、当該傷病により労働基準法第77条の規定による障害補償を受ける権利を取得したときは、障害厚生年金は6年間、その支給が停止されるが、労働者災害補償保険による障害補償年金を受ける権利を取得したときは、障害厚生年金は支給停止とはならない。
過去問 平成17年 厚生年金保険法
〇 正しいです。労働基準法第77条の規定による障害補償を受ける権利を取得したときは、障害厚生年金は6年間、その支給が停止されます。注意点は「同一の傷病」で「労働基準法の障害補償」ですね。労働者災害補償法による障害補償年金を受給しても障害厚生年金は支給停止されず全額支給されます。この場合は労災法側の障害補償年金が調整されることになります。
問2 障害厚生年金の受給権者が当該障害以外の支給事由によって労働基準法第77条の規定による障害補償を受けた場合であっても、当該障害年金は6年間支給停止される。
過去問 平成16年 厚生年金保険法
✕ 労働基準法第77条の規定による障害補償を受ける権利を取得したときは、障害厚生年金は6年間、その支給が停止されるのは「同一の傷病」であるときに限られます。よって設問のように別の支給事由による障害補償を受けた場合であっても障害厚生年金は停止されません。
問3 甲は、障害等級3級の障害厚生年金の支給を受けていたが、63歳のときに障害等級3級に該当する程度の障害の状態でなくなったために当該障害厚生年金の支給が停止された。その後、甲が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当することなく65歳に達したとしても、障害厚生年金の受給権は65歳に達した時点では消滅しない。
過去問 令和5年 厚生年金保険法
〇 障害等級3級にすら該当することなく、65 歳に達したとき又は3年を経過したときのいずれか遅い方に達したときに失権します。設問の人は63歳のときに障害等級3級に該当する程度の障害の状態でなくなったので65歳に達した時点では失権しません。
問4 障害厚生年金の受給権は、障害等級3級以上の障害の状態に該当しなくなり、そのまま65歳に達した日又は障害の状態に該当しなくなった日から起算してそのまま該当することなく3年経過した日のどちらか早い日に消滅する。
過去問 平成21年 厚生年金保険法
✕ 障害等級3級にすら該当することなく、65 歳に達したとき又は3年を経過したときのいずれか遅い方に達したときに失権します。つまり少なくとも65歳に達するまでは失権しません。
問5 障害等級3級の障害厚生年金の受給権者の障害の状態が障害等級に該当しなくなったため、当該障害厚生年金の支給が停止され、その状態のまま3年が経過した。その後、65歳に達する日の前日までに当該障害厚生年金に係る傷病により障害等級3級に該当する程度の障害の状態になったとしても、当該障害厚生年金は支給されない。
過去問 令和2年 厚生年金保険法
✕ 障害等級3級にすら該当することなく、65 歳に達したとき又は3年を経過したときのいずれか遅い方に達したときに失権します。設問の人は、障害の状態が障害等級に該当しなくなり支給停止となり3年が経過していますので65歳に達したら失権しますが、失権する前(まだ受給権者)に3級に該当する程度の障害の状態に悪化していますので再び支給されます。
受給権者が障害の状態に該当しない間、支給停止なので再び悪化して3級以上に該当すると支給停止は解除されます。
厚生年金保険の被保険者は65歳までは、原則同時に国民年金の第2号被保険者です。つまり障害厚生年金の1級、2級の受給権者は、同時に障害基礎年金の1級、2級の受給権者となりますが、障害厚生年金は3級まで等級が存在します。厚生年金側で支給停止が行われると国民年金側での取り扱いはどうなるのか理解しないといけません。失権について改正前は、3級不該当から3年が経過したら65歳未満であっても失権していました。平成6年11月9日施行の改正で、少なくとも65歳に達するまでは失権させないとされたんです。なお法附則により、「平成6年11月9日(施行日)前に厚生年金保険法による障害厚生年金の受給権を有していたことがある者は、施行日において又は施行日の翌日から65歳に達する日の前日までの間において、障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至ったときは、その者は、施行日から65歳に達する日の前日までの間に、法47条1項の障害厚生年金の支給を請求することができる」とされています。失権した者への救済(経過措置)ですね。
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