障害手当金をざっくりと説明すると、障害等級3に達しない一定の障害の場合に、一時金で支給される制度です。厚生年金保険法だけの制度で年金では無く一時金である点に注意です。支給要件と支給されない場合を抑えていきましょう。
支給要件
条文を見てみよう
障害手当金は、疾病にかかり、又は負傷し、その傷病に係る初診日において被保険者であつた者が、当該初診日から起算して5年を経過する日までの間におけるその傷病の治つた日において、その傷病により政令で定める程度の障害の状態にある場合に、その者に支給する。
2 第47条第1項ただし書(保険料納付要件)の規定は、前項の場合に準用する。
障害厚生年金と同じ「初診日において被保険者」です。初診日要件は重要な論点です。
初診日から起算して5年を経過する日までに、傷病が治らないといけません。傷病が治るとは「症状が固定」した場合も含まれます。治らないと、3級に該当する可能性がある為です。
傷病が治った日において、その傷病により政令で定める程度の障害の状態でないといけません。第3級より軽い障害で「傷病が治ったものであって、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものとする」と定められています。
初診日の前日において初診日の前々月までに、国民年金の被保険者期間があり、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2以上なければいけません。
初診日から5年以内に治って、政令で定める程度の障害(第3級より軽い)状態であることが特徴的ですね。他の要件は障害厚生年金と同じです。
支給されない場合
前条の規定により障害の程度を定めるべき日において次の各号のいずれかに該当する者には、同条の規定にかかわらず、障害手当金を支給しない。
一 年金たる保険給付の受給権者(最後に障害等級に該当する程度の障害の状態(以下この条において「障害状態」という。)に該当しなくなつた日から起算して障害状態に該当することなく3年を経過した障害厚生年金の受給権者(現に障害状態に該当しない者に限る。)を除く。)
二 国民年金法による年金たる給付の受給権者(最後に障害状態に該当しなくなつた日から起算して障害状態に該当することなく3年を経過した障害基礎年金の受給権者(現に障害状態に該当しない者に限る。)その他の政令で定める者を除く。)
三 当該傷病について国家公務員災害補償法、地方公務員災害補償法若しくは同法に基づく条例、公立学校の学校医、学校歯科医及び学校薬剤師の公務災害補償に関する法律若しくは労働基準法の規定による障害補償、労働者災害補償保険法の規定による障害補償給付若しくは障害給付又は船員保険法による障害を支給事由とする給付を受ける権利を有する者
厚生年金保険法・国民年金法の年金の受給権者には障害手当金は支給されません。年金ですので老齢年金、障害年金、遺族年金の全てが対象です。
カッコ書きで障害年金に例外がある
障害年金(障害厚生年金・障害基礎年金)の受給権者でも、最後に障害状態に該当しなくなつた日から起算して3年を経過した受給権者(現に障害状態に該当しないもの)には、障害手当金が支給されます。
同一の傷病について障害を支払事由とする給付を受ける権利がある
同一の傷病について以下の給付を受ける権利を有するものには、障害手当金は支給されません。
- 国家公務員災害補償法、地方公務員災害補償法等の公務災害補償
- 労働基準法の規定による障害補償
- 労働者災害補償保険法の規定による障害(補償)給付、複数事業労働者障害給付
- 船員保険法による障害を支給事由とする給付
障害手当金の支給額
障害手当金の額は、第50条第1項(障害厚生年金の額)の規定の例により計算した額の100分の200に相当する額とする。
ただし、その額が同条第3項(最低保証額)に定める額に2を乗じて得た額に満たないときは、当該額とする。
第50条1項(障害厚生年金の額)の規定の例により計算した額とは、なんでしょう?
【第50条1項】
障害厚生年金の額は、第43条第1項(報酬比例部分)の規定の例により計算した額とする。この場合において、当該障害厚生年金の額の計算の基礎となる被保険者期間の月数が300に満たないときは、これを300とする。
報酬比例の年金額のことです。障害厚生年金の額についてはこちら↓
障害手当金の額は、障害厚生年金の額の規定の例により計算した額の100分の200に相当する額ですので簡単にいうと、「報酬比例部分の年金額2年分」となります。
給付乗率の読替えは行わない
老齢厚生年金の額の計算には、昭和21年4 月1日以前生まれの者は、生年月日に応じて給付乗率を読替える経過措置があります。
昭和21年4 月1日以前生まれの者 | |
---|---|
平成15年4月以後 | 1,000分の5.481→1,000分の5.562~7.308 |
平成15年3月以前 | 1,000分の7.125→1,000分の7.23~9.5 |
障害手当金の額は、生年月日に応じた給付乗率の読替えは行わず1,000分の5.481又は1,000分の7.125の定率で計算します。これは障害厚生年金も同様でした。
昭和21年4 月1日以前生まれの者 | |
---|---|
平成15年4月以後 | 1,000分の5.481 |
平成15年3月以前 | 1,000分の7.125 |
300月みなし
障害厚生年金の額の計算の基礎となる「被保険者期間」ですが、被保険者期間の月数が300月に満たない場合は「300月」とみなして計算します。障害手当金の額の計算においても同様です。
障害手当金にも最低保証額がある
障害厚生年金3級には、障害基礎年金の額に4分の3を乗じた額に満たないときは、780,900円✕改定率✕3/4が最低保証されます。障害手当金は、この額に2を乗じて得た額に満たないときは、当該額とするとする最低保証があります。
障害手当金の最低保証
780,900円✕改定率✕3/4✕2
障害厚生年金3級の最低保証額の2倍の額ですね。
一見多いように思えますが、障害手当金は一時金ですので支給されると二度と受け取ることは出来ません。
計算の基礎となる被保険者期間
障害手当金の支給事由となった障害に係る傷病の治った日の属する月後における被保険者であった期間は、その計算の基礎としません。
障害厚生年金の「障害認定日」が、障害手当金だと「傷病の治った日」に置き換わります。
それでは過去問いきましょう
問1 障害手当金は、疾病にかかり又は負傷し、その傷病に係る初診日において被保険者であった者が、保険料納付要件を満たし、当該初診日から起算して5年を経過する日までの間にまだその傷病が治っておらず治療中の場合でも、5年を経過した日に政令で定める程度の障害の状態にあるときは支給される。
過去問 令和6年 厚生年金保険法
✕ 障害手当金は「傷病が治る(症状固定)」ことが条件のひとつです。
- 初診日において被保険者
- 初診日から起算して5年を経過する日までに治る
- 傷病が治った日において政令で定める程度の障害の状態
- 保険料納付要件を満たす
設問の人は、初診日から起算して5年を経過した日に政令で定める程度の障害の状態にあるが「傷病が治っていない」為、支給されません。
問2 障害手当金の額は、厚生年金保険法第50条第1項の規定の例により計算した額の100分の200に相当する額である。ただし、その額が、障害基礎年金2級の額に2を乗じて得た額に満たないときは、当該額が障害手当金の額となる。
過去問 令和5年 厚生年金保険法
✕ 前段部分は正しいですが、最低保証額についての記述が間違っています。
障害手当金の最低保証額は、障害厚生年金3級の最低保障額の2倍です。つまり「障害基礎年金2級の額に4分の3を乗じて得た額」の2倍です。
問3 障害手当金の受給要件に該当する被保険者が、障害手当金の障害の程度を定めるべき日において遺族厚生年金の受給権者である場合は、その者には障害手当金は支給されない。
過去問 令和4年 厚生年金保険法
〇 障害手当金が支給調整される要件のひとつ「遺族厚生年金の受給権者」です。障害手当金は、厚生年金保険法・国民年金法の年金の受給権者には支給されません。年金ですので老齢年金、障害年金、遺族年金の全てが対象です。
障害年金の「最後に障害状態に該当しなくなつた日から起算して3年を経過した受給権者」には支給される例外がありますので注意しましょう。
問4 障害手当金の受給要件に該当する被保険者が、当該障害手当金に係る傷病と同一の傷病により労働者災害補償保険法に基づく障害補償給付を受ける権利を有する場合には、その者には障害手当金が支給されない。
過去問 平成28年 厚生年金保険法
〇 同一の傷病により労働者災害補償保険法に基づく障害補償給付を受ける権利を有する場合、障害手当金が支給されません。他にも支給調整される給付があります。
- 国家公務員災害補償法、地方公務員災害補償法等の公務災害補償
- 労働基準法の規定による障害補償
- 労働者災害補償保険法の規定による障害(補償)給付、複数事業労働者障害給付
- 船員保険法による障害を支給事由とする給付
同一の傷病ですので注意しましょう。
問5 障害手当金の額の計算に当たって、給付乗率は生年月日に応じた読み替えは行わず、計算の基礎となる被保険者期間の月数が300か月に満たないときは、これを300か月として計算する。
過去問 平成27年 厚生年金保険法
〇 障害手当金の額も「300月みなし」が適用されます。また、老齢厚生年金の額の計算には、昭和21年4 月1日以前生まれの者は、生年月日に応じて給付乗率を読替える経過措置がありますが、障害厚生年金・障害手当金の額の計算に当たっては、給付乗率は生年月日に応じた読み替えは行いません。
1,000分の5.481又は1,000分の7.125の定率で計算します。
障害手当金を受ける権利は、その支給すべき事由が生じた日から5年を経過したときは、時効によって消滅します。つまり初診日から起算して5年を経過する日までに、傷病が治り(症状固定)、傷病が治った日から起算して5年以内に請求する必要があります。支給要件と支給されない場合の論点が重要です。
また、一時金であることに注意して、支給額の計算式もおさえましょう。
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