障害厚生年金の年金額は「基本年金額」に「配偶者の加算額」が加算された額になります。原則、老齢厚生年金の報酬比例額の算式で計算した額となりますが、額の計算の基礎となる被保険者期間の月数が300月に満たない場合、「300月とみなして」計算します。
原則の障害厚生年金の額
条文を見てみよう
障害厚生年金の額は、第43条第1項(報酬比例部分)の規定の例により計算した額とする。この場合において、当該障害厚生年金の額の計算の基礎となる被保険者期間の月数が300に満たないときは、これを300とする。
報酬比例部分の額は「総報酬制」が導入された後と前でそれぞれ計算して足し合わせます。
報酬比例部分の計算について詳しくはこちら
給付乗率の読替えは行わない
老齢厚生年金の額の計算には、昭和21年4 月1日以前生まれの者は、生年月日に応じて給付乗率を読替える経過措置があります。
昭和21年4 月1日以前生まれの者 | |
---|---|
平成15年4月以後 | 1,000分の5.481→1,000分の5.562~7.308 |
平成15年3月以前 | 1,000分の7.125→1,000分の7.23~9.5 |
障害厚生年金の基本年金額は、生年月日に応じた給付乗率の読替えは行わず1,000分の5.481又は1,000分の7.125の定率で計算します。
300月みなし
障害厚生年金の額の計算の基礎となる「被保険者期間」ですが、被保険者期間の月数が300月に満たない場合は「300月」とみなして計算します。
若いうちに障害状態になると、厚生年金保険の被保険者期間が短いので年金額が低くなってしまいます。そこで被保険者期間の月数を300月(25年)とみなして計算します。
障害等級による年金額の違い
障害厚生年金は、障害の程度に応じて重度のものから1級、2級及び3級まであります。障害等級による額の違いをみていきましょう。
条文を見てみよう
2 障害の程度が障害等級の1級に該当する者に支給する障害厚生年金の額は、前項の規定にかかわらず、同項に定める額の100の125に相当する額とする。
3 障害厚生年金の給付事由となつた障害について国民年金法による障害基礎年金を受けることができない場合において、障害厚生年金の額が国民年金法第33条第1項に規定する障害基礎年金の額に4分の3を乗じて得た額(その額に50円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、50円以上100円未満の端数が生じたときは、これを100円に切り上げるものとする。)に満たないときは、当該額をこれらの項に定める額とする。
障害の程度が障害等級の1級又は2級に該当する者に支給する障害厚生年金の額は、受給権者によつて生計を維持しているその者の65歳未満の配偶者があるときは、前条の規定にかかわらず、同条に定める額に加給年金額を加算した額とする。
2 前項に規定する加給年金額は、224,700円に改定率を乗じて得た額(その額に50円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、50円以上100円未満の端数が生じたときは、これを100円に切り上げるものとする。)とする。
3 受給権者がその権利を取得した日の翌日以後にその者によつて生計を維持しているその者の65歳未満の配偶者を有するに至つたことにより第1項に規定する加給年金額を加算することとなつたときは、当該配偶者を有するに至つた日の属する月の翌月から、障害厚生年金の額を改定する。
条文から読み取ると障害等級ごとの年金額は以下のとおりです。
障害等級 | 年金額 |
---|---|
1級 | 報酬比例の年金額✕1.25+配偶者加給年金 |
2級 | 報酬比例の年金額+配偶者加給年金 |
3級 | 報酬比例の年金額(最低保証あり) |
3級には最低保証がある
第50条3項には「障害厚生年金の給付事由となつた障害について国民年金法による障害基礎年金を受けることができない場合」とあります。障害基礎年金は1級と2級しかありません。つまり国民年金法による障害基礎年金を受けることができない場合とは、障害等級3級の障害厚生年金のことです。
障害厚生年金の額が、障害基礎年金の額に4分の3を乗じた額に満たないときは、780,900円✕改定率✕3/4(100円未満の端数処理)が最低保証されます。
最低保証
780,900円✕改定率✕3/4(100円未満の端数処理)
配偶者加給年金
障害の程度が障害等級の1級又は2級に該当する者に支給する障害厚生年金の額は、受給権者によつて生計を維持しているその者の65歳未満の配偶者があるときは、加給年金額が加算されます。
- 65歳未満の配偶者のみが対象で子については加算が行われない
- 加給年金額は「224,700円×改定率」
- 障害等級は1級又は2級で3級は加算がない
ここで障害基礎年金と加給年金について対比しておきましょう。
増額改定
「障害等級1・2級の障害厚生年金の額は、生計を維持している65歳未満の配偶者があるときは、加給年金額を加算した額とする」
これは、障害厚生年金の受給権を取得した後でも婚姻により配偶者を有し、その配偶者との間に生計維持関係があれば加給年金額の加算が行われることを意味しています。
従来の条文は、「その権利を取得した当時、生計を維持していた65歳未満の配偶者があるとき」と規定されていました。受給権取得時に配偶者がいなければ、その後結婚しても加算は行われていなかったのです。
受給権者がその権利を取得した日の翌日以後にその者によって生計を維持しているその者の65歳未満の配偶者を有するに至ったことにより加給年金額を加算することとなったときは、当該配偶者を有するに至った日の属する月の翌月から、障害厚生年金の額を改定する。
なお、老齢厚生年金の配偶者加給年金にには「特別加算」が上乗せされますが、障害厚生年金の加給年金額には特別加算は行われません。
減額改定
加給年金額が加算された障害厚生年金については、配偶者が次のいずれかに該当するに至ったときは、その者に係る加給年金額を加算しないものとし、次のいずれかに該当するに至った月の翌月から、年金の額を改定する。
配偶者の加給年金額が停止され減額改定される事由は、配偶者が以下の要件に該当したときです。
- 死亡しとき
- 受給年者による生計維持の状態がやんだとき
- 離婚又は婚姻の取消しをしたとき
- 65歳に達したとき(大正15年4月1日以前生まれを除く)
受給権者の配偶者が大正15年4月1日以前生まれの者であるときは、65歳以上であっても加給年金額が加算され続けます。
支給停止
加給年金額の支給停止は、第46条6項に規定する老齢厚生年金の加給年金額の支給停止が準用されています。
その者について加算が行われている配偶者が、老齢若しくは退職又は障害を支給事由とする給付であつて政令で定めるものの支給を受けることができるときは、その間、同項の規定により当該配偶者について加算する額に相当する部分の支給を停止する。
配偶者の加給年金額が支給停止される事由は、配偶者が以下の老齢若しくは退職又は障害を支給事由とする給付を受けることができるときです。
- 年金額の計算の基礎となる被保険者期間の月数が240以上の老齢厚生年金※
- 障害厚生年金
- 国民年金法による障害基礎年金
※中高齢の特例による場合は240に満たなくても240とみなされます
計算の基礎となる被保険者期間
第50条第1項に定める障害厚生年金の額については、当該障害厚生年金の支給事由となつた障害に係る障害認定日の属する月後における被保険者であつた期間は、その計算の基礎としない。
重要論点です。計算の基礎となる被保険者期間ですが、老齢厚生年金と違いがあります。
老齢厚生年金の額については、受給権者がその権利を取得した月以後における被保険者であった期間は、その計算の基礎としない。(第43条2項)
障害厚生年金は
障害厚生年金の額については、当該障害厚生年金の支給事由となった障害に係る障害認定日の属する月後における被保険者であった期間は、その計算の基礎としない。
年金 | 年金額の算定の基礎となる被保険者期間 |
---|---|
老齢厚生年金 | 受給権を取得した月は含まれず受給権を取得した月の前月まで計算の基礎とする |
障害厚生年金 | 障害認定日の属する月まで計算の基礎とする |
障害の年金に配慮してギリギリまで計算の基礎として算入されます。
年金額の改定
実施機関は、障害厚生年金の受給権者について、その障害の程度を診査し、その程度が従前の障害等級以外の障害等級に該当すると認めるときは、その程度に応じて、障害厚生年金の額を改定することができる。
2 障害厚生年金の受給権者は、実施機関に対し、障害の程度が増進したことによる障害厚生年金の額の改定を請求することができる。
3 前項の請求は、障害厚生年金の受給権者の障害の程度が増進したことが明らかである場合として厚生労働省令で定める場合を除き、当該障害厚生年金の受給権を取得した日又は第1項の規定による実施機関の診査を受けた日から起算して1年を経過した日後でなければ行うことができない。
2級の障害が重くなり1級に該当した場合、障害厚生年金は2級から1級に額の改定が行われます。実施機関が、その障害の程度を診査したり受給権者が実施機関に対し、障害の程度が増進したことによる障害厚生年金の額の改定を請求することもできます。
3級の障害が重くなり2級に該当した場合は、障害厚生年金は3級から2級に額の改定が行われますが、障害基礎年金は受給権を有していたわけではありませんので「事後重症」になります。このあたりは国民年金法の対比で理解を深めておきたい論点です。
3項は極めて重要な論点です。
受給権者が、実施機関に対し、障害の程度が増進したことによる障害厚生年金の額の改定を請求する場合は「受給権を取得した日又は実施機関の診査を受けた日から起算して1年を経過した日後」でないと行えません。認められなかったからと数カ月単位で請求するなといったイメージでしょうか。
また「増進したことが明らかである場合」は1年を経過していなくても大丈夫です。増進が明らかですので1年も待っていられないですよね。
65歳以上は要注意
第52条7項が過去に何度も問われていて重要です。
7 第1項から第3項まで及び前項の規定は、65歳以上の者であつて、かつ、障害厚生年金の受給権者(当該障害厚生年金と同一の支給事由に基づく国民年金法による障害基礎年金の受給権を有しないものに限る。)については、適用しない。
「障害厚生年金と同一の支給事由に基づく国民年金法による障害基礎年金の受給権を有しないもの」とは、受給権を取得した当時から一度も障害等級1級又は2級に該当したことがないという意味です。
簡単にいうと、これまでに一度も障害等級1級又は2級に該当したことがない障害厚生年金3級の受給権者は65歳以後に、障害の程度が増進しても年金額の改定は行われません。
ただ、この場合は65歳に達したら、基礎年金部分のない障害厚生年金3級よりも「老齢厚生年金と老齢基礎年金」を選択した方が額が多くなると思います。
逆に、過去1級又は2級に該当したことがあり、軽減して3級となっている人(障害基礎年金の受給権を有しており支給停止状態)が、65歳以後に再び障害の程度が増進したら、障害等級1級又は2級の障害基礎年金及び障害厚生年金の支給が行われます。
支給繰上げと障害厚生年金の関係
老齢厚生年金(老齢基礎年金)の支給繰上げの請求をすると「65歳に達した」とみなされます。よって65歳未満であっても老齢年金の支給繰上げをし老齢基礎年金の受給権が発生した者については第52条7項が適用されます。
ただし、同一の支給事由に基づく国民年金法による障害基礎年金の受給権を有しないものに限られていますので、過去1級又は2級に該当したことがあり、軽減して3級となっている人は支給繰上げを請求し老齢基礎年金の受給権が発生していても上位等級への額の改定は行われます。
- 最初からずっと3級だった人は65歳に達したら額の改定は行われない
- 支給繰上げをしたら65歳に達したとみなされる
- 障害基礎年金の受給権(1級、2級)があると65歳に達しても額の改定は行われる
それでは過去問いきましょう
問1 障害厚生年金の給付事由となった障害について、国民年金法による障害基礎年金を受けることができない場合において、障害厚生年金の額が障害等級2級の障害基礎年金の額に2分の1を乗じて端数処理をして得た額に満たないときは、当該額が最低保障額として保障される。なお、配偶者についての加給年金額は加算されない。
過去問 令和5年 厚生年金保険法
✕ 「国民年金法による障害基礎年金を受けることができない場合」とは障害厚生年金3級のことでしたね。その場合の最低保証は障害基礎年金(2級)の額 × 4分の3です。金額は780,900円✕改定率✕3/4(100円未満の端数処理)となります。なお配偶者についての加給年金額は1級と2級だけですので3級には加算されません。
問2 障害等級2級の障害厚生年金の額は、老齢厚生年金の例により計算した額となるが、被保険者期間については、障害認定日の属する月の前月までの被保険者期間を基礎とし、計算の基礎となる月数が300に満たないときは、これを300とする。
過去問 令和4年 厚生年金保険法
✕ 計算の基礎となる月数が300に満たないときは300とする点は正しいです。どこに間違いがあるかというと「障害認定日の属する月の前月まで」ではなく、「障害認定日の属する月まで」です。障害厚生年金の額は、第43条第1項(報酬比例部分)の規定の例により計算した額となりますが、障害厚生年金の額については、当該障害厚生年金の支給事由となった障害に係る障害認定日の属する月後における被保険者であった期間は、その計算の基礎としない。と定められています。障害認定日の属する月後は計算の基礎としませんので、障害認定日の属する月までは計算の基礎に入れます。障害に関する年金なので「ギリギリ」まで計算の基礎に入れて少しでも年金額が多くなるように配慮されています。
問3 老齢厚生年金における加給年金額の加算の対象となる配偶者が、障害等級1級若しくは2級の障害厚生年金及び障害基礎年金を受給している間、当該加給年金額は支給停止されるが、障害等級3級の障害厚生年金若しくは障害手当金を受給している場合は支給停止されることはない。
過去問 令和3年 厚生年金保険法
✕ 加給年金額の加算の対象となる配偶者が「障害厚生年金」を受給している間は、当該加給年金額は支給停止されます。障害厚生年金ですので3級でも支給停止です。
他の支給停止条件は
- 年金額の計算の基礎となる被保険者期間の月数が240以上の老齢厚生年金
- 国民年金法による障害基礎年金
でした。なお障害手当金は受給しても支給停止されません。
問4 障害厚生年金の受給権者は、障害の程度が増進した場合には、実施機関に年金額の改定を請求することができるが、65歳以上の者又は国民年金法による老齢基礎年金の受給権者であって障害厚生年金の受給権者である者(当該障害厚生年金と同一の支給事由に基づく障害基礎年金の受給権を有しない者に限る。)については、実施機関が職権でこの改定を行うことができる。
過去問 令和3年 厚生年金保険法
✕ 読み取りにくい設問ですが、年金額の改定は、65歳以上の者又は老齢基礎年金の受給権者だと制限がありました。「障害厚生年金と同一の支給事由に基づく障害基礎年金の受給権を有しない」者は年金額の改定は行われません。受給権者による障害の程度が増進した場合による請求も同様です。
逆に「障害厚生年金と同一の支給事由に基づく障害基礎年金の受給権を有している」場合、つまり過去に一度でも1級又は2級に該当したことがあれば、65歳以上であっても額の改定は行われます。
問5 障害厚生年金の受給権者が障害厚生年金の額の改定の請求を行ったが、診査の結果、その障害の程度が従前の障害の等級以外の等級に該当すると認められず改定が行われなかった。この場合、当該受給権者は実施機関の診査を受けた日から起算して1年6か月を経過した日後でなければ再び改定の請求を行うことはできない。
過去問 令和2年 厚生年金保険法
✕ これは数字の間違いなので簡単にはじけるかと思います。
障害厚生年金の受給権者は、実施機関に対し、障害の程度が増進したことによる障害厚生年金の額の改定を請求することができる。
請求は、障害の程度が増進したことが明らかである場合を除き、障害厚生年金の受給権を取得した日又は実施機関の診査を受けた日から起算して1年を経過した日後でなければ行うことができない。
「増進したことが明らかである場合」は1年を経過していなくても大丈夫です。
障害厚生年金の額は過去に何度も問われている重要論点です。障害基礎年金との違い、1級2級と3級の相違点、年金額の改定など多岐にわたります。原則1級2級に該当すると国民年金法の障害基礎年金も同時に発生しますが、3級だと障害基礎年金の受給権は発生しません。ゆえに障害厚生年金3級の人が2級に増進した場合、障害基礎年金は「事後重症」扱いになります。設問を解くには理解が必要になる箇所ですので丁寧に抑えていきましょう。
この記事が参考になったら応援お願いします。↓
コメント