【厚生年金保険法】老齢厚生年金 支給の繰上げ

老齢厚生年金繰上げ支給

原則65歳から受け取ることが出来る老齢厚生年金を、希望すれば60歳から65歳になるまでの間に受給を繰り上げて開始することが出来ます。この制度を老齢厚生年金の繰上げ受給といいます。繰上げ請求すると年金額が減額されたり、老齢基礎年金と同時に請求する必要があったりと一定のルールがあります。

目次

老齢厚生年金の繰上げ受給の請求

老齢厚生年金の支給の繰上げは、本則ではなく法附則で定められています。つまり「当分の間」の措置となります。要件等を条文で確認しましょう。

 

条文を見てみよう

法附則7条の3(老齢厚生年金の支給の繰上げ)

当分の間、次の各号に掲げる者であつて、被保険者期間を有し、かつ、60歳以上65歳未満であるもの(国民年金法附則第5条第1項の規定(任意加入)による国民年金の被保険者でないものに限る。)は、政令で定めるところにより、65歳に達する前に、実施機関に当該各号に掲げる者の区分に応じ当該者の被保険者の種別に係る被保険者期間に基づく老齢厚生年金の支給繰上げの請求をすることができる。ただし、その者が、その請求があつた日の前日において、第42条第2号(受給資格期間を満たす)に該当しないときは、この限りでない。

一 男子又は女子(第2号厚生年金被保険者であり、若しくは第2号厚生年金被保険者期間を有する者、第3号厚生年金被保険者であり、若しくは第3号厚生年金被保険者期間を有する者又は第4号厚生年金被保険者であり、若しくは第4号厚生年金被保険者期間を有する者に限る。)であつて昭和36年4月2日以後に生まれた者(第三号及び第四号に掲げる者を除く。)

二 女子(第1号厚生年金被保険者であり、又は第1号厚生年金被保険者期間を有する者に限る。)であつて昭和41年4月2日以後に生まれた者(次号及び第四号に掲げる者を除く。)

三 鉱業法第4条に規定する事業の事業場に使用され、かつ、常時坑内作業に従事する被保険者(以下「坑内員たる被保険者」という。)であつた期間と船員として船舶に使用される被保険者(以下「船員たる被保険者」という。)であつた期間とを合算した期間が15年以上である者であつて、昭和41年4月2日以後に生まれたもの(次号に掲げる者を除く。)

四 特定警察職員等(警察官若しくは皇宮護衛官又は消防吏員若しくは常勤の消防団員(これらの者のうち政令で定める階級以下の階級である者に限る。)である被保険者又は被保険者であつた者のうち、附則第8条各号のいずれにも該当するに至つたとき(そのときにおいて既に被保険者の資格を喪失している者にあつては、当該被保険者の資格を喪失した日の前日)において、引き続き20年以上警察官若しくは皇宮護衛官又は消防吏員若しくは常勤の消防団員として在職していた者その他これらに準ずる者として政令で定める者をいう。以下同じ。)である者で昭和42年4月2日以後に生まれたもの

2 前項の請求は、国民年金法に規定する支給繰上げの請求を行うことができる者にあつては、これらの請求と同時に行わなければならない。

 

老齢厚生年金の支給繰上げの要件

厚生年金保険の被保険者期間を有し、かつ、60歳以上65歳未満であるものは、65歳に達する前に、実施機関に対し老齢厚生年金の支給繰上げの請求をすることができます。

厚生年金保険の被保険者期間は1カ月以上あればよく、また国民年金の任意加入被保険者は、繰上げ支給の請求はできません。老齢厚生年金の支給繰上げは、老齢基礎年金の繰上げと同時に請求しなければいけないからです。

 

区分に応じた被保険者の種別に係る被保険者期間

被保険者の種別に応じて一号から四号まで要件が定められています。特別支給の老齢厚生年金は65歳未満で受給開始しますので、「65歳に達する前に、実施機関に対し老齢厚生年金の支給繰上げの請求することができる」規定がおかれた法附則7条の3からは除外しています。
※特別支給の老齢年金の開始年齢前に繰上げ支給を請求できる特例は、別の法附則で定められています。

男子又は女子(女子は第1号厚生年金被保険者以外)で昭和36年4月2日以後に生まれた者

特別支給の老齢厚生年金は段階的に廃止されており、昭和36年4月2日以後に生まれた者については、原則65歳からの本来支給の老齢厚生年金のみが支給されます。よって原則、昭和36年4月2日以後に生まれた者が対象となります。

 

女子(第1号厚生年金被保険者)で昭和41年4月2日以後に生まれた者

第1号厚生年金被保険者の期間を持つ女子は、男子より5歳遅れの昭和41年4月1日以前生まれまで、特別支給の老齢厚生年金が支給されます。よって第1号厚生年金被保険者の期間を持つ女子は、昭和41年4月2日以後に生まれた者が対象です。良く「1号女子」と言われています。

 

坑内員船員の特例適用者で昭和41年4月2日以後に生まれた者

坑内員船員としての期間を合算して15年以上ある者は、昭和41年4月1日以前生まれまで、特別支給の老齢厚生年金が支給されます。よって昭和41年4月2日以後に生まれた者が対象です。

 

特定警察職員等で昭和42年4月2日以後に生まれた者

特定警察職員等とは、引き続き20年以上勤務した警察職員や消防職員の一定の者は、昭和42年4月1日以前生まれまで、特別支給の老齢厚生年金が支給されます。よって昭和42年4月2日以後に生まれた者が対象です。

 

支給開始はいつ?

 

請求があったときは、その請求があった日の属する月から、その者に老齢厚生年金を支給する

請求があった日の属するから老齢厚生年金を支給する」は請求することで受給権(基本権)が発生することを意味します。実際に年金が支払われる(支分権)のは、その翌月からとなります。

基本権基本的な権利)支分権(支給を受ける権利)のおさらいはこちら↓

 

繰上げ支給は生涯にわたり減額される

報酬比例部分の額の規定にかかわらず、当該計算した額から政令で定める額を減じた額とする。

減額率は1,000分の4請求日の属するから65歳に達する日の属する月の前月までの月数を乗じた率となります。

例えば60歳に達した日の属する月に繰上げの請求をすると、65歳に達する日の属する月の前月までの月数は60月となりますので減額率は、60×0.004=0.24となり24%減額されます。

減額率は1月(0.4%)から60月(24%)の範囲になりますね。

0.004✕繰上げ請求から65歳到達月の前月までの月数

 

なお減額率に使用されている1,000分の4は令和4年4月1日に法改正された数字ですので、この規定が適用されるのは、令和4年4月1日の前日において60歳に達していない人になります。(昭和37年4月2日以後生まれの人)

法改正前は1,000分の5ですので、昭和37年4月1日以前生まれの人については、1,000分の5となります。

 

65歳に達したら・・・

支給繰上げの老齢厚生年金を受給している間に、厚生年金保険の被保険者期間を有したら年金額は増加するのでしょうか?

 

法附則7条の3 5項

5 支給繰上げの老齢厚生年金の受給権者であって、当該請求があつた日以後の被保険者期間を有するものが65歳に達したときは、65歳に達した日の属する月前における被保険者であつた期間を当該老齢厚生年金の額の計算の基礎とするものとし、65歳に達した日の属する月の翌月から、年金の額を改定する。

 

繰上げ支給の老齢厚生年金を受給し、65歳になる前に厚生年金保険の被保険者期間を有した場合、その期間分は65歳に到達した時に年金額が再計算されます。

 例えば、61歳で老齢厚生年金を繰上げて受給し、その後、64歳まで厚生年金保険の被保険者だった場合は、その期間分は、65歳到達時に再計算され、65歳に達した日の属する月の翌月から、年金の額が改定されます。

 

ポイント
  • 65歳到達前に、退職しても退職時改定は行われない
  • 65歳到達時に在職中であっても改定される
  • 新たに増額される給付については減額の対象とはならない

繰上げ支給の老齢厚生年金を受給中の人が65歳到達前に、退職しても退職時改定は行われませんが、「特別支給の老齢厚生年金」を受給中の人が65歳到達前に退職したら、退職時改定は行われますので注意して下さい。

繰上げ支給は、請求によって繰り上げて受給権を得ていますが、特別支給の老齢厚生年金は、支給開始年齢に達したら当然に受給権を得ていますので違いがあります。

年金額の改定は事例問題を作りやすいので重要です。

 

加給年金も繰上げされる?

結論からいうと、加給年金は繰り上がりません。

 

法附則7条の3 6項

6 支給繰上げによる老齢厚生年金の額について、加給年金の規定を適用する場合には、老齢厚生年金の額は、支給繰上げによる老齢厚生年金の受給権者が65歳に達した当時その者によって生計を維持していたその者の65歳未満の配偶者又は子があるときは、これらの規定に定める額に加給年金額を加算するものとし、65歳に達した日の属する月の翌月から、年金の額を改定する。

 

繰上げ受給をした請求した場合、加給年金までを繰り上げて加算されず、65歳到達月の翌月からの年金に反映されます。なお、繰下げ受給の場合は、老齢厚生年金を繰り下げている間は、加給年金は加算されません。

生計維持は原則、65歳に達した当時で判断しますが、65歳に達した当時に被保険者期間が240月未満だった場合は、在職定時改定や退職時改定で240月以上となった当時で判断し、当該月数が240月以上となるに至った月から、年金の額が改定されます。

 

加算対象の配偶者が繰上げ受給を請求したら?

では、加算の対象となる配偶者が老齢厚生年金を繰上げ受給したらどうなるでしょうか?この場合、年金額の計算の基礎となる被保険者期間の月数が240月以上あれば加給年金は停止されますが、240月未満であれば停止されません。

たとえば対象となる配偶者が、計算の基礎となる被保険者期間の月数を235月ある状態で繰上げ受給したとします。そして65歳になる前に適用事業所で、厚生年金保険の被保険者として勤務し5カ月経過したら加給年金は停止されるのでしょうか?

在職中に、繰上げ受給している人の年金額が改定されるのは、65歳到達時です。その際、被保険者期間が再計算されますので、65歳到達までは235月のままとなり加給年金は停止されません。

 

それでは過去問いきましょう

問1 昭和38年4月1日生まれの男性が老齢厚生年金の支給繰上げの請求を行い、60歳0か月から老齢厚生年金の受給を開始する場合、その者に支給する老齢厚生年金の額の計算に用いる減額率は24パーセントとなる。
過去問 令和4年 厚生年金保険法

〇 減額率は1,000分の4請求日の属するから65歳に達する日の属する月の前月までの月数を乗じた率です。60歳0カ月に繰上げ支給の請求をしたら、5年間(60月)となり最大の減額率0.004✕60=24%となります。

問2 老齢厚生年金の支給繰上げの請求は、老齢基礎年金の支給繰上げの請求を行うことができる者にあっては、その請求を同時に行わなければならない。
過去問 令和4年 厚生年金保険法

〇 老齢厚生年金の支給の繰上げの請求は、老齢基礎年金の支給繰上げの請求を行うことができる者にあっては、同時に行わないといけません。なお、支給の繰下げは別々に申出できます。

問3 繰上げ支給の老齢厚生年金を受給している者であって、当該繰上げの請求があった日以後の被保険者期間を有する者が65歳に達したときは、その者が65歳に達した日の属する月前における被保険者であった期間を当該老齢厚生年金の額の計算の基礎とするものとし、65歳に達した日の属する月の翌月から、年金の額を改定する。
過去問 平成30年 厚生年金保険法

〇 繰上げ支給の老齢厚生年金を受給し、65歳になる前に厚生年金保険の被保険者期間を有した場合、その期間分は65歳に到達した時に年金額が再計算され翌月から、年金の額が改定されます。なお繰上げ支給の老齢厚生年金は退職時改定はされませんので、65歳に到達する前に退職しても年金額が改定されるのは65歳に達した日の属する月の翌月になります。

問4 特定警察職員等であったことがなく、かつ、第三種被保険者期間を有していたことがない者で、1か月以上の厚生年金保険の被保険者期間を有する昭和38年4月1日生まれの男子が、60歳になった場合、その者が、老齢厚生年金の受給資格を満たし、かつ国民年金の任意加入被保険者でないときは、65歳に達する前に実施機関に老齢厚生年金の支給繰上げの請求をすることができる。
過去問 平成19年 厚生年金保険法

〇 厚生年金保険の被保険者期間を有し、かつ、60歳以上65歳未満であるものは、65歳に達する前に、実施機関に対し老齢厚生年金の支給繰上げの請求をすることができます。受給資格を満たし、1カ月以上の厚生年金保険の被保険者期間を有し、国民年金の任意加入被保険者でないのが要件です。原則の生年月日は、昭和36年4月2日以後に生まれた者が対象ですが、第三種被保険者期間を有する一定の者は、昭和41年4月2日以後に生まれた者、特定警察職員等で一定の者は昭和42年4月2日以後に生まれた者となります。

問5 老齢厚生年金における加給年金額の加算対象となる配偶者が、繰上げ支給の老齢基礎年金の支給を受けるときは、当該配偶者に係る加給年金額は支給が停止される。
過去問 令和5年 厚生年金保険法

✕ 年金額の計算の基礎となる厚生年金保険の被保険者期間の月数が240以上である老齢厚生年金を受けることができるときは加給年金は停止されますが、繰上げ支給の老齢基礎年金を受けても支給は停止されません。

 

支給繰上げは、請求によって受給権を発生させ65歳より前に、老齢厚生年金を受給する制度です。なお支給繰下げは、すでに「受給権」を有していますので、請求では無く「申出」で行います。減額率は「繰上げ請求から65歳到達月の前月までの月数」ですので事例問題が出題されたときはカウントに注意して下さい。なお繰上げ支給の老齢厚生年金を受給して被保険者になると、在職老齢年金が適用されます。

 

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