【厚生年金保険法】遺族厚生年金の要件(死亡した者)

遺族厚生年金の要件

遺族厚生年金は、厚生年金保険の被保険者または被保険者であった者が死亡したとき、その者によって生計を維持されていた遺族に支給される公的年金です。遺族年金は、死亡した人と、年金が支給される残された遺族の双方の要件が必要になります。それぞれの要件を、しっかりと学び遺族基礎年金との違いを意識しましょう。

目次

死亡した者の要件

条文を見てみよう

第58条(受給権者)

遺族厚生年金は、被保険者又は被保険者であつた者が次の各号のいずれかに該当する場合に、その者の遺族に支給する。

ただし、第一号又は第二号に該当する場合にあつては、死亡した者につき、死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間があり、かつ、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2に満たないときは、この限りでない。


 被保険者(失踪の宣告を受けた被保険者であつた者であつて、行方不明となつた当時被保険者であつたものを含む。)が、死亡したとき。


 被保険者であつた者が、被保険者の資格を喪失した後に、被保険者であつた間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して5年を経過する日前に死亡したとき。


 障害等級の1級又は2級に該当する障害の状態にある障害厚生年金の受給権者が、死亡したとき。


 老齢厚生年金の受給権者保険料納付済期間保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者に限る。)又は保険料納付済期間保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者が、死亡したとき。

 

遺族厚生年金は、被保険者又は被保険者であった者が次の各号のいずれかに該当する場合に、その者の遺族に支給する。

 

遺族厚生年金にも国民年金の遺族基礎年金と同じ「短期要件」と「長期要件」があります。一号と二号と三号が短期要件で四号が長期要件です。それぞれ見ていきます。

 

死亡者の要件(保険料納付要件あり

  • 被保険者が死亡
  • 被保険者であった者が、その資格を喪失した後に、被保険者であった間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して5年を経過する日前に死亡

この二つは「保険料納付要件」が必要です。

 

第一号又は第二号に該当する場合にあつては、死亡した者につき、死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間があり、かつ、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2に満たないときは、この限りでない。

 

死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間があり、かつ、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2以上」おなじみの保険料納付要件です。問われる被保険者期間は「国民年金の被保険者期間」ですので注意しましょう。厚生年金保険の保険料は会社に納付義務があるので未払いは基本的に起こりませんので。

65歳未満だと「死亡日が令和8年4月1日前の場合は、死亡日の属する月の前々月までの1年間に保険料滞納期間がないこと」で保険料納付要件を満たす特例もあります。

死亡者の要件(保険料納付要件なし

  • 障害等級の1級又は2級に該当する障害の状態にある障害厚生年金の受給権者が、死亡
  • 老齢厚生年金の受給権者保険料納付済期間保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者に限る。)又は保険料納付済期間保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者が、死亡

こちらは保険料納付要件が問われないグループです。障害厚生年金1級と2級の受給権者に限られ、3級は対象となりません。老齢厚生年金の受給権者も対象ですが「保険料納付済期間保険料免除期間とを合算した期間が25年以上」ある者に限られます。また老齢厚生年金の受給権者でなくても「保険料納付済期間保険料免除期間とを合算した期間が25年以上」あれば対象です。

 

なぜ25年(300月)以上なのか?

現在、老齢厚生年金の受給資格期間は「10年以上」です。実は平成29年8月前までは「25年以上」でした。老齢基礎年金や老齢厚生年金については、無年金者を救済する為に、受給資格期間の短縮が行われたのですが、遺族厚生年金の受給資格までは短縮されずに残っている訳です。

老齢厚生年金の受給資格期間は本則では保険料納付済期間保険料免除期間に限定していますが、合算対象期間も含めて、受給資格期間を満たす者とみなされます。(法附則14条)

厚生年金保険法で登場する保険料納付済期間は、基本的には国民年金法の保険料納付済期間の定義と同じなので25年に満たない者でも25年以上あるものとしてみなす特例が存在します。↓

 

 

受給資格期間の特例(昭和5年4月1日以前生まれ)

旧国民年金法が施行された昭和36年4月1日の時点で30歳を超えている人は、60歳までの被保険者期間中に25年(長期要件)を満たすことは困難です。そこで受給資格期間の特例として、以下の生年月日の方は、期間に応じて25年にみなす制度が定められています。

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受給資格期間の特例

 

被用者年金各法の特例(昭和31年4月1日以前生まれ

旧国民年金法が施行された昭和36年4月1日の時点で、被用者年金制度(旧厚生年金など)は、既に施行済です。旧法時代の被用者年金制度の老齢年金の受給資格期間は20年だっため、新法施行年度中(昭和61年)に35歳以上となる昭和27年4月1日以前生まれの者については、旧法時代の20年と同じ受給資格期間で満たすことにしました。そこで以下の生年月日の方は、期間に応じて25年にみなす制度が定められています。

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生年月日期間
昭和27年4月1日生以前20年
昭和27年4月2日生~昭和28年4月1日生21年
昭和28年4月2日生~昭和29年4月1日生22年
昭和29年4月2日生~昭和30年4月1日生23年
昭和30年4月2日生~昭和31年4月1日生24年
被用者年金各法の特例

 

厚生年金保険の中高齢者の特例(昭和26年4月1日以前生まれ

旧厚生年金法では、男性は40歳以降(女性は35歳)に15年以上加入していれば老齢年金の受給期間を満たす特例がありました。そこで新法施行年度中(昭和61年)に40歳以上となる昭和22年4月1日以前生まれの者については、旧法時代と同じ40歳以後(女性は35歳)の厚生年金被保険者期間(第1号厚生年金被保険者期間に限る)が15年あれば、受給資格期間を満たすことにしました。(この期間のうち、7年6か月以上は、第4種被保険者又は船員任意継続被保険者以外の被保険者期間でなければいけません。)

 

また、旧厚生年金保険には第3種被保険者(船員・坑内員)又は船員任意継続被保険者としての被保険者期間が35歳以降15年以上加入していれば老齢年金の受給期間を満たす特例があり、これについても中高齢者の特例となります。(10年以上が、船員任意継続被保険者以外の被保険者期間である場合に限ります。)

以下の生年月日の方は、期間に応じて25年にみなす制度が定められています。

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生年月日期間
昭和22年4月1日生以前15年
昭和22年4月2日生~昭和23年4月1日生16年
昭和23年4月2日生~昭和24年4月1日生17年
昭和24年4月2日生~昭和25年4月1日生18年
昭和25年4月2日生~昭和26年4月1日生19年
厚生年金保険の中高齢者の特例

 

まとめて整理します。

保険料納付済期間保険料免除期間とを合算した期間が25年に満たない者でも25年以上あるものとしてみなす特例は、3つあります。

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受給資格期間の特例保険料納付済期間と保険料免除期間と合算対象期間を合算した期間が生年月日に応じて21年から24年ある
被用者年金各法の特例厚生年金保険及び船員保険の被保険者期間を合算した期間が生年月日に応じて20年から24年ある
厚生年金保険の中高齢者の特例40歳(女性は35歳)以後の厚生年金被保険者期間(第1号厚生年金被保険者期間に限る)が生年月日に応じて15年から19年ある(第4種被保険者及び船員任意継続被保険者以外の被保険者期間が7年6か月以上ある場合に限る。)

35歳以後の第3種被保険者(船員・坑内員)又は船員任意継続被保険者としての被保険者期間が、生年月日に応じて15年から19年ある(船員任意継続被保険者以外の被保険者期間が10年以上ある場合に限る。)

 

短期要件と長期要件

遺族基礎年金と同じく遺族厚生年金にも短期要件長期要件に分かれます。遺族基礎年金の短期要件と長期要件は、保険料納付要件を問われるか、問われないかの違いでした。

遺族厚生年金の短期要件と長期要件は額の計算方法が違います。これについては別の記事で説明します。

短期要件

  • 被保険者が死亡
  • 被保険者であった者が、その資格を喪失した後に、被保険者であった間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して5年を経過する日前に死亡
  • 障害等級の1級又は2級に該当する障害の状態にある障害厚生年金の受給権者が、死亡

長期要件

  • 老齢厚生年金の受給権者保険料納付済期間保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者に限る。)又は保険料納付済期間保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者が、死亡

 

保険料納付要件が問われるパターンと短期要件長期要件の違いは必ずおさえましょう。短期要件は「300月(25年)」みなしで計算します。長期要件は「実期間」で計算します。額の計算については別の記事で詳しく説明します。

まとめると

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死亡した者保険料納付要件短期or長期
被保険者必要短期要件
(300月みなし)
被保険者であった者が、その資格を喪失した後に、被保険者であった間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して5年を経過する日前
障害等級の1級又は2級に該当する障害の状態にある障害厚生年金の受給権者不要
老齢厚生年金の受給権者保険料納付済期間保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者に限る。)又は保険料納付済期間保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者長期要件
(実期間)

この表は確実に抑えましょう。

死亡の推定

第59条2項(死亡の推定)

船舶が沈没し、転覆し、滅失し、若しくは行方不明となつた際現にその船舶に乗つていた被保険者若しくは被保険者であつた者若しくは船舶に乗つていてその船舶の航行中に行方不明となつた被保険者若しくは被保険者であつた者の生死が3月間わからない場合又はこれらの者の死亡が3月以内に明らかとなり、かつ、その死亡の時期がわからない場合には、遺族厚生年金の支給に関する規定の適用については、その船舶が沈没し、転覆し、滅失し、若しくは行方不明となつた日又はその者が行方不明となつた日に、その者は、死亡したものと推定する。

航空機が墜落し、滅失し、若しくは行方不明となつた際現にその航空機に乗つていた被保険者若しくは被保険者であつた者若しくは航空機に乗つていてその航空機の航行中に行方不明となつた被保険者若しくは被保険者であつた者の生死が3月間わからない場合又はこれらの者の死亡が3月以内に明らかとなり、かつ、その死亡の時期がわからない場合にも、同様とする。

 

生死が3月間わからない場合又は死亡が3月以内に明らか

船舶が沈没し、転覆し、滅失し、若しくは行方不明となった又はその者が行方不明となった
航空機が墜落し、滅失し、若しくは行方不明となったた又はその者が行方不明となった

死亡したものと推定

死亡の推定は保険料納付要件、生計維持を見る際に重要になります。

失踪宣告

失踪宣告とは、行方不明となった日から7年を経過した日に死亡とみなされる民法の規定です。利害関係者が請求し、家庭裁判所が宣告します。

行方不明となった日から7年を経過した日に死亡とみなされますが、遺族の生計維持を見る際は「行方不明となった当時」で判断します。

 

それでは過去問いきましょう

問1 遺族厚生年金は、障害等級1級又は2級に該当する程度の障害の状態にある障害厚生年金の受給権者が死亡したときにも、一定の要件を満たすその者の遺族に支給されるが、その支給要件において、その死亡した者について保険料納付要件を満たすかどうかは問わない。
過去問 令和5年 厚生年金保険法

〇 保険料納付要件を問われるか?問われないか?重要な論点です。死亡した者の要件は大きく4つありました。

 

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死亡した者保険料納付要件短期or長期
被保険者必要短期要件
被保険者であった者が、その資格を喪失した後に、被保険者であった間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して5年を経過する日前
障害等級の1級又は2級に該当する障害の状態にある障害厚生年金の受給権者不要
老齢厚生年金の受給権者保険料納付済期間保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者に限る。)又は保険料納付済期間保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者長期要件

 

死亡者要件と保険料納付要件、短期か長期か?おさえましょう。

問2 船舶が行方不明となった際、現にその船舶に乗っていた被保険者若しくは被保険者であった者の生死が3か月間分からない場合は、遺族厚生年金の支給に関する規定の適用については、当該船舶が行方不明になった日に、その者は死亡したものと推定される。
過去問 令和5年 厚生年金保険法

〇 死亡日の推定は「船舶が行方不明になった日」となります。

船舶が沈没し、転覆し、滅失し、若しくは行方不明となつた際現にその船舶に乗つていた被保険者若しくは被保険者であつた者若しくは船舶に乗つていてその船舶の航行中に行方不明となつた被保険者若しくは被保険者であつた者の生死が3月間わからない場合又はこれらの者の死亡が3月以内に明らかとなり、かつ、その死亡の時期がわからない場合には、遺族厚生年金の支給に関する規定の適用については、その船舶が沈没し、転覆し、滅失し、若しくは行方不明となつた日又はその者が行方不明となつた日に、その者は、死亡したものと推定する。

死亡日を決めてあげないと、要件を見る際に困りますので推定しないといけません。

問3 被保険者であった者が、被保険者の資格を喪失した後に、被保険者であった間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して5年を経過する日前に死亡したときは、死亡した者が遺族厚生年金の保険料納付要件を満たしていれば、死亡の当時、死亡した者によって生計を維持していた一定の遺族に遺族厚生年金が支給される。
過去問 令和2年 厚生年金保険法

〇 「被保険者であった者が、その資格を喪失した後に、被保険者であった間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して5年を経過する日前に死亡」は死亡した者の要件のひとつでした。この場合は「短期要件」に該当し「保険料納付要件」が問われます。

問4 老齢厚生年金の受給権者(保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上ある者とする。)が行方不明になり、その後失踪の宣告を受けた場合、失踪者の遺族が遺族厚生年金を受給するに当たっての生計維持に係る要件については、行方不明となった当時の失踪者との生計維持関係が問われる。
過去問 令和2年 厚生年金保険法

〇 失踪宣告とは、行方不明となった日から7年を経過した日に死亡とみなされる民法の規定です。行方不明となった日から7年を経過した日に死亡とみなされますが、遺族の生計維持を見る際は「行方不明となった当時」で判断します。

問5 障害等級1級又は2級に該当する障害の状態にある障害厚生年金の受給権者が死亡したときは、遺族厚生年金の支給要件について、死亡した当該受給権者の保険料納付要件が問われることはない。
過去問 令和元年 厚生年金保険法

〇 障害等級1級又は2級に該当する障害の状態にある障害厚生年金の受給権者が死亡した場合は「短期要件」に該当し「保険料納付要件」は問われません。死亡した者は「短期要件」か「長期要件」、「保険料納付要件」を問われるか?事例で判断できるようにしましょう。

 

遺族厚生年金は「死亡した者」と「遺族」両者の要件が問われます。短期要件と長期要件のどちらに該当するのか?その際、保険料納付要件はとわれるのか?長期要件だと25年を満たすのか?それぞれ要件を判断できないといけません。
死亡した被保険者又は被保険者であった者が、「短期要件・長期要件」のどちらにも該当するときは、その遺族が別段の申出をした場合を除き短期要件にのみ該当するものとして扱われます。実際には請求の際、額の計算をして多い方を教えてくれますので長期要件が有利であれば遺族が選択する形となります。

 

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