【国民年金法】遺族基礎年金の支給停止・失権

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遺族基礎年金の支給停止

遺族基礎年金の遺族の範囲は「子のある配偶者」又は「」です。つまり子がいないと支給されません。遺族基礎年金がいることが前提で、子のための年金でした。

条文を見てみよう

第41条 (支給停止)

遺族基礎年金は、当該被保険者又は被保険者であつた者の死亡について、労働基準法の規定による遺族補償が行われるべきものであるときは、死亡日から6年間、その支給を停止する。

 子に対する遺族基礎年金は、配偶者が遺族基礎年金の受給権を有するとき(配偶者に対する遺族基礎年金が第20条の2第1項(配偶者の申し出)若しくは第2項又は次条第1項(配偶者の行方不明)の規定によりその支給を停止されているときを除く。)、又は生計を同じくするその子の父若しくは母があるときは、その間、その支給を停止する。

1項の規定は、労働基準法との調整規定です。業務上の事由で死亡し、労働基準法の規定による遺族補償が行われるときは、6年間その支給を停止します。

一方、労働者災害保険法に基づき遺族補償年金を受給する場合には、遺族基礎年金は支給停止にならないので注意です。この場合は、遺族基礎年金が満額支給され、労災側が調整されます。

6年間支給停止されるのは、同一の事由で使用者から労働基準法の遺族補償を受けるときです。

障害基礎年金にも似た規定がありましたね。障害基礎年金の支給停止はこちら↓


配偶者が遺族基礎年金の受給権を有するとき

2項を見ていきます。

に対する遺族基礎年金は、配偶者が遺族基礎年金の受給権を有するときは、その間、支給を停止します。言い換えれば配偶者に遺族基礎年金が支給されている間は、の遺族基礎年金は支給停止、子を養育するのは配偶者なので、配偶者が受け取けとっているイメージです。

条文に「除く」と例外がありますね。第20条の2第1項(配偶者の申し出)と第41条の2(配偶者の行方不明)です。詳しく見ていきます。

第20条の2第1項(配偶者の申し出
年金は、受給権者の申出による支給停止が可能です。そんな人いるんですかね?

第20条の2(受給権者の申出による支給停止)

年金給付(この法律の他の規定又は他の法令の規定によりその全額につき支給を停止されている年金給付を除く。)は、その受給権者の申出により、その全額の支給を停止する。ただし、この法律の他の規定又は他の法令の規定によりその額の一部につき支給を停止されているときは、停止されていない部分の額支給を停止する。

 前項ただし書のその額の一部につき支給を停止されている年金給付について、この法律の他の規定又は他の法令の規定による支給停止が解除されたときは、前項本文の年金給付の全額の支給を停止する。

 第1項の申出は、いつでも、将来に向かつて撤回することができる。

申出による支給停止は、「全額」が支給停止されます。遺族基礎年金の受給権者である「配偶者」も、この規定により、申出支給停止が可能です。

に対する遺族基礎年金は、配偶者に遺族基礎年金が支給されている間は、その間、支給を停止されますが、配偶者が申し出ることによって、配偶者の遺族基礎年金が支給停止になっている場合は、子の遺族基礎年金は支給されます。遺族基礎年金は「子」のための年金ですので、配偶者が「年金は要らない」と申出したら、子の支給停止解除されます。

第41条の2(配偶者の行方不明
配偶者が所在不明の場合は子の申請で支給停止できます。

第40条の2 

配偶者に対する遺族基礎年金は、その者の所在が1年以上明らかでないときは、遺族基礎年金の受給権を有するの申請によつて、その所在が明らかでなくなつた時に遡つて、その支給を停止する。

 配偶者は、いつでも、前項の規定による支給の停止の解除を申請することができる。

遺族基礎年金の受給権を有する配偶者の所在が1年以上明らかでないとき、遺族基礎年金の受給権を有するは、所在が明らかでなくなった時に遡って、支給停止の申請が可能です。

支給停止の申請を行うことにより、配偶者の受給権が所在不明時に遡って、支給停止となり子の受給権の支給停止が、所在不明時に遡って解除されます。

に対する遺族基礎年金は、配偶者が遺族基礎年金の受給権を有するときは、その間、支給を停止しますが、例外で支給停止されない(子に支給される)事由を整理します。

  • 配偶者の申出による支給停止
  • 配偶者1年以上行方不明


子が行方不明の場合

配偶者の所在が1年以上明らかかでないときは、の申請により所在が明らかでなくなった時に遡って、その支給を停止します。

では、子が行方不明になった時の規定も見ておきましょう。

第42条 

遺族基礎年金の受給権を有する子が2人以上ある場合において、その子のうち1人以上の子の所在が1年以上明らかでないときは、その子に対する遺族基礎年金は、他の子の申請によつて、その所在が明らかでなくなつた時にさかのぼつて、その支給を停止する。

 前項の規定によつて遺族基礎年金の支給を停止された子は、いつでも、その支給の停止の解除を申請することができる。

子が2人以上ある場合の、その子のうち1人以上の子の所在が1年以上不明の場合の規定です。その場合は、他の子の申請により行方不明となっている子の受給権を所在が明らかでなくなったた時にさかのぼつて支給停止します。

配偶者が受給権を持っており、子が2人以上ある場合の、その子のうち1人以上の子の所在が不明なときは「子と生計を同じくしなくなった」に該当し減額改定です。区別しましょう。


生計を同じくするその子の父若しくは母があるとき

に対する遺族基礎年金は、両親のうち一方の死亡によって受給権が発生しますが、配偶者が遺族基礎年金の受給権を有するときは支給停止でした。「生計を同じくするその子の父若しくは母があるとき」も子に対する遺族基礎年金は支給停止されます。違いはなんでしょう?

この事例において、死亡した夫の実子で養育費等で生計維持されていましたので、子に遺族基礎年金受給権が発生します。しかし「生計を同じくするその子の母」があるときに該当し、子の遺族基礎年金は支給停止となります。


この事例において、夫の死亡により配偶者(後妻)と子(前妻との子)に遺族基礎年金の受給権が発生しましたが、子が前妻(実母)と同居を始めたので「生計を同じくするその子の母」があるときに該当し、子の遺族基礎年金は支給停止となります。なお、配偶者(後妻)の受給権は「子と生計を同じくしなくなった」ので消滅します。

遺族基礎年金の失権

遺族基礎年金の失権は、「配偶者と子」共通の失権事由と、「配偶者」と「子」それぞれ別々の失権事由があります。しっかり整理しましょう。

「配偶者と子」共通の失権

第40条 (共通の失権)

遺族基礎年金の受給権は、受給権者が次の各号のいずれかに該当するに至つたときは、消滅する。

 死亡したとき。

 婚姻をしたとき。

 養子となつたとき(直系血族又は直系姻族の養子となつたときを除く。)。

配偶者と子の共通の遺族基礎年金の受給権消滅事由は

  • 死亡
  • 婚姻
  • 養子(直系血族・直系姻族以外)

直系血族とは、自分の祖父母、父母、子、孫などで世代が上下に直線的に連なる血縁者のことです。

直系姻族とは、配偶者の祖父母、父母、子、孫などです。

配偶者の失権


第40条2項 (配偶者の失権)
 配偶者の有する遺族基礎年金の受給権は、前項の規定によつて消滅するほか、第39条第1項(加算額)に規定する子が1人であるときはそのが、同項に規定する子が2人以上であるときは同時に又は時を異にしてその全ての子が、同条第3項各号(減額改定すべき事由)のいずれかに該当するに至つたときは、消滅する。

配偶者の遺族基礎年金の受給権消滅事由は、配偶者と子の共通の消滅事由のほか

  • すべての子が遺族基礎年金の加算額の加算対象から除かれたときは、妻の有する遺族基礎年金の受給権は消滅します。

配偶者の遺族基礎年金は子があることが前提となり、必ず子の加算額が加算されます。加算事由に該当する全ていなくなった場合は、遺族基礎年金の受給権は消滅します。

言い換えれば、1人でも加算額の対象となる子がいれば消滅しません。

子の失権


第40条3項 (子の失権)
 子の有する遺族基礎年金の受給権は、第1項の規定によつて消滅するほか、子が次の各号のいずれかに該当するに至つたときは、消滅する。

 離縁によつて、死亡した被保険者又は被保険者であつた者の子でなくなつたとき。

 18歳に達した日以後の最初の3月31日が終了したとき。ただし、障害等級(1級・2級)に該当する障害の状態にあるときを除く。

 障害等級に該当する障害の状態にある子について、その事情がやんだとき。ただし、その子が18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるときを除く。

 20歳に達したとき。

の遺族基礎年金の受給権消滅事由は、配偶者と子の共通の消滅事由のほか

  • 離縁によって死亡したものの子でなくなった
  • 18歳到達年度の末日が終了(障害等級1級、2級に該当する障害の状態にあるときを除く)
  • 障害等級の1級、2級に該当する子が、18歳到達年度の末日が終了した後に、その事情がやんだとき
  • 障害等級の1級、2級に該当する子が、20歳に達したとき

「遺族の範囲」に該当する子でなくなったら失権となります。遺族の範囲とは?↓


それでは過去問いきましょう

問1. 夫の死亡により妻と子に遺族基礎年金の受給権が発生し、子の遺族基礎年金は支給停止となっている。当該妻が再婚した場合、当該妻の遺族基礎年金の受給権は消滅し、当該子の遺族基礎年金は、当該妻と引き続き生計を同じくしていたとしても、支給停止が解除される。

過去問 平成30年 国民年金法

←正解はこちら
問1. ✕ 配偶者の遺族基礎年金は「婚姻」で失権します。子は「配偶者が遺族基礎年金の受給権を有するとき」は支給停止です。配偶者が失権していますが、設問の子は「生計を同じくするその子の父若しくは母があるとき」に該当しますので、引き続き支給停止です。

問2. 夫が死亡し、その死亡の当時胎児であった子が生まれ、妻に遺族基礎年金の受給権が発生した場合、当該受給権の発生日は当該夫の死亡当時に遡ることとなり、当該遺族基礎年金は当該子が出生するまでの期間、支給停止され、当該子の出生により将来に向かって支給停止が解除される。なお、当該子以外に子はいないものとする。

過去問 平成30年 国民年金法

←正解はこちら
問2. ✕ 夫の死亡時に、母親のお腹にまだ生まれていない子ども(胎児)いて、その後生まれたら、「将来に向かって」死亡の当時その者によって生計を維持していたものとみなす規定です。将来に向かってですので死亡の当時にさかのぼって遺族基礎年金の受給権は発生しません。

問3. 配偶者に対する遺族基礎年金が、その者の1年以上の所在不明によりその支給を停止されているときは、子に対する遺族基礎年金もその間、その支給を停止する。

過去問 令和3年 国民年金法

←正解はこちら
問3. ✕ 配偶者の所在が1年以上明らかかでないときは、子の申請により所在が明らかでなくなった時に遡って、その支給が停止されます。その場合、子の受給権の支給停止が、所在不明時に遡って解除されます。

問4. 遺族基礎年金の受給権を有する配偶者と子のうち、すべての子が直系血族又は直系姻族の養子となった場合、配偶者の有する遺族基礎年金の受給権は消滅するが、子の有する遺族基礎年金の受給権は消滅しない。

過去問 令和5年 国民年金法

←正解はこちら
問4. 〇 配偶者の遺族基礎年金の受給権は、加算事由に該当する子が「すべて」いなくなった場合に消滅します。設問では、すべての子が「配偶者以外の者の養子」になっていますね。一方、子の遺族基礎年金の受給権は、養子となったら消滅しますが、「直系尊属、直系姻族の養子」は除かれていますので消滅しません。

問5. 遺族基礎年金の受給権者である子が、死亡した被保険者の兄の養子となったとしても、当該子の遺族基礎年金の受給権は消滅しない。

過去問 令和元年 国民年金法

←正解はこちら
問5. ✕ 配偶者と子の共通の遺族基礎年金の失権事由に「養子となったたとき(直系血族又は直系姻族の養子となつたときを除く。)」とあります。死亡し者の兄は「傍系血族」ですので消滅します。直系尊属とは自分の祖父母、父母、子、孫などで世代が上下に直線的に連なる血縁者のことです。

支給停止と失権は「養子」や「連れ子」で複雑になります。簡単な相関図を書いて状況を把握するのがおすすめです。「配偶者と子」共通の失権事由なのか?「配偶者のみ」の失権事由なのか?ごっちゃにならないように整理しましょう。また、遺族基礎年金ための年金ですので、配偶者が要らないと申出ると子に対しては支給されますが、遺族厚生年金世帯のための年金の意味合いが強い為、配偶者が要らないと申出ると世帯で停止されます。

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