遺族の範囲と順位は重要論点です。労災保険法の遺族の範囲と混同しないようにしましょう。労災保険では、最先順位者が死亡等により失権した場合は、次順位者に繰り下げて年金の支給をする「転給」がありましたが、遺族厚生年金には「転給」はありません。生計維持と年齢に注意しましょう。
遺族の範囲
条文を見てみよう
遺族厚生年金を受けることができる遺族は、被保険者又は被保険者であつた者の配偶者、子、父母、孫又は祖父母(以下単に「配偶者」、「子」、「父母」、「孫」又は「祖父母」という。)であつて、被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時(失踪の宣告を受けた被保険者であつた者にあつては、行方不明となつた当時。以下この条において同じ。)その者によつて生計を維持したものとする。ただし、妻以外の者にあつては、次に掲げる要件に該当した場合に限るものとする。
一 夫、父母又は祖父母については、55歳以上であること。
二 子又は孫については、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか、又は20歳未満で障害等級の1級若しくは2級に該当する障害の状態にあり、かつ、現に婚姻をしていないこと。
遺族厚生年金の遺族の範囲に「兄弟姉妹」は含まれない。
基本論点ですので、ここは必ず抑えましょう。
遺族の範囲は「配偶者、子、父母、孫又は祖父母」です。妻には年齢制限はありません。
夫、父母又は祖父母については、55歳以上である必要があります。労災保険法の遺族(補償)年金と同じですが、遺族が「一定の障害状態」であっても年齢要件が問われる点に違いがあります。また60歳に達するまで支給停止(若年停止)されます。支給停止については別記事で説明します。
子又は孫については、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか、20歳未満で障害等級の1級若しくは2級に該当する障害の状態でなければいけません。また「婚姻」していないことが条件です。
生計維持
対象となる遺族は、被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時、その者によって生計を維持されている必要があります。
生計維持の認定は、原則として前年の年収が850万円未満であること、又は前年の所得が655万5千円未満であることです。また定年退職等により「近い将来(おおむね5年以内)年収が850万円未満又は所得が655万5千円未満」となると認められる場合は要件を満たします。
原則の生計維持は「死亡の当時」でみますが、失踪の宣告を受けた被保険者であった者にあっては、行方不明となつた当時で判断されます。
遺族の順位
2 父母は、配偶者又は子が、孫は、配偶者、子又は父母が、祖父母は、配偶者、子、父母又は孫が遺族厚生年金の受給権を取得したときは、それぞれ遺族厚生年金を受けることができる遺族としない。
59条2項には遺族の順位が書かれています。転給の制度が無い為、先順位者が受給権を取得したら、後順位者は遺族厚生年金を受けることができる遺族としません。つまり後順位者は受給権者となる資格を喪失します。
順位は以下の通りとなります。
- 第1順位:配偶者(夫は55歳以上)又は子(18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか、または20歳未満で障害等級の1級若しくは2級に該当する障害の状態にあり、かつ、現に婚姻をしていないこと)
- 第2順位:父母(55歳以上)
- 第3順位:孫(18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか、または20歳未満で障害等級の1級若しくは2級に該当する障害の状態にあり、かつ、現に婚姻をしていないこと)
- 第4順位:祖父母(55歳以上)
第1順位は「配偶者」又は「子」です。
第1順位は配偶者と子ですが、配偶者が受給権を持っていると子は支給停止されます。なので配偶者が死亡等で失権したら、子の支給停止が解除されます。これは転給では無いので注意して下さい。労災の遺族(補償)年金は転給の制度があり受給権者が失権したら受給資格者に受給権が移動しますが、遺族厚生年金には転給の制度は無く、最先順位者のみが受給権を取得し後順位者は遺族厚生年金は受けられません。第1順位が配偶者と子の2者だから配偶者が失権すると子の支給停止が解除されるしくみです。
胎児が生まれた時
3 被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時胎児であつた子が出生したときは、第1項の規定の適用については、将来に向つて、その子は、被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時その者によつて生計を維持していた子とみなす。
被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時、配偶者のおなかに胎児がいた場合、生まれたときに受給権が発生します。条文を確認すると、胎児であった子が出生したとき、その者によって「将来に向かって生計を維持していた子」とみなすと規定されています。
つまり出生した時に「将来に向かって受給権が発生」し、死亡の当時に「さかのぼって」受給権が発生するわけではありません。
それでは過去問いきましょう
問1 遺族厚生年金について次の記述について正しいか否か。なお保険料納付要件については満たしているものとする。
厚生年金保険の被保険者が死亡したときに、被保険者によって生計を維持されていた遺族が50歳の父と54歳の母だけであった場合、父には遺族厚生年金の受給権は発生せず、母にのみ遺族厚生年金の受給権が発生する。
過去問 令和6年 厚生年金保険法
✕ 遺族が「父母」の場合、年齢要件があります。55歳以上ですね。設問は父50歳、母54歳ですのでどちらにも受給権は発生しません。年齢要件がないのは「妻」のみです。
問2 遺族厚生年金は、被保険者の死亡当時、当該被保険者によって生計維持されていた55歳以上の夫が受給権者になることはあるが、子がいない場合は夫が受給権者になることはない。
過去問 令和2年 厚生年金保険法
✕ 遺族基礎年金との混同をさけましょう。遺族厚生年金の遺族である「夫」の要件は55歳以上であること、生計維持されていたことです。子がいる、いないは関係ありません。
問3 被保険者の死亡当時10歳であった遺族厚生年金の受給権者である被保険者の子が、18歳に達した日以後の最初の3月31日が終了したことによりその受給権を失った場合において、その被保険者の死亡当時その被保険者によって生計を維持していたその被保険者の父がいる場合でも、当該父が遺族厚生年金の受給権者となることはない。
過去問 令和2年 厚生年金保険法
〇 遺族の順位は決まっていて先順位者が受給権を取得したら、後順位者は遺族厚生年金を受けることができる遺族としません。つまり「転給」されないということです。
設問の事例で、受給権者である被保険者の子が、18歳に達した日以後の最初の3月31日が終了したことによりその受給権を失った場合は、被保険者の死亡当時その被保険者によって生計を維持していたその被保険者の父がいる場合でも転給はされずに父は受給権を取得しません。
問4 被保険者であった妻が死亡した当時、当該妻により生計を維持していた54歳の夫と21歳の当該妻の子がいた場合、当該子は遺族厚生年金を受けることができる遺族ではないが、当該夫は遺族厚生年金を受けることができる遺族である。
過去問 令和元年 厚生年金保険法
✕ 夫も子も遺族厚生年金の受給権が発生する遺族になりません。
生計維持が前提として
子については、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか、又は20歳未満で障害等級の1級若しくは2級に該当する障害の状態にあり、かつ、現に婚姻をしていないこと。
夫については、55歳以上である必要があります。
問5 被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時胎児であった子が出生したときは、厚生年金保険法第59条第1項に規定する遺族厚生年金を受けることができる遺族の範囲の適用については、将来に向かって、その子は、被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時その者によって生計を維持していた子とみなす。
過去問 平成27年 厚生年金保険法
〇 被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時胎児であった子が出生したときは、「将来に向かって」その子は、被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時その者によって生計を維持していた子とみなします。
出生したときに「将来に向かって生計維持」されていたとみなすので、出生した時に「将来に向かって受給権が発生」し、死亡の当時に「さかのぼって」受給権が発生するわけではありません。
障害厚生年金の遺族については事例問題が多くみうけられます。家族の構成はさまざまです。未婚の妻、夫の連れ子、妻の連れ子など様々な事例が予想されます。過去に出題されたケースは抑えましょう。
遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方が支給される場合も複雑になります。各法律を横断して遺族の範囲を固めていきましょう。
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