「初診日において被保険者であること」が絶対条件となる障害厚生年金。厚生年金保険の被保険者が疾病にかかり、又は負傷し、その疾病や負傷が原因で一定の障害が残ると障害厚生年金が支給される可能性があります。障害基礎年金と対比して要件をおさえていきましょう。
3つの要件
障害厚生年金も障害基礎年金と同じで、3つの要件を満たす必要があります。
- 初診日要件
- 保険料納付要件
- 障害認定日要件
条文を見てみよう
障害厚生年金は、疾病にかかり、又は負傷し、その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病(以下「傷病」という。)につき初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(以下「初診日」という。)において被保険者であつた者が、当該初診日から起算して1年6月を経過した日(その期間内にその傷病が治つた日(その症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至つた日を含む。以下同じ。)があるときは、その日とし、以下「障害認定日」という。)において、その傷病により次項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態にある場合に、その障害の程度に応じて、その者に支給する。
ただし、当該傷病に係る初診日の前日において、当該初診日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間があり、かつ、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2に満たないときは、この限りでない。
2 障害等級は、障害の程度に応じて重度のものから1級、2級及び3級とし、各級の障害の状態は、政令で定める。
初診日要件
初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日のことを「初診日」といいます。初診日要件とは、疾病や負傷で初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日に厚生年金保険の被保険者である必要があります。国民年金の障害基礎年金とは違い、初診日において被保険者でなければ、障害厚生年金の要件は満たせず支給される事はありません。
障害認定日要件
障害認定日とは「初診日から起算して1年6月を経過した日」のことです。条文カッコ書きにありますが、その期間中に傷病が治った場合は、治った日が障害認定日となります。治った日とは、症状が固定して治療の効果が期待できない状態を含みます。
初診日から起算して1年6か月経過した日(障害認定日)に、一定の障害状態に該当する必要があります。また初診日から1年6か月経過するまでに症状が固定したら症状固定日を障害認定日として判断します。
保険料納付要件
初診日の前日において初診日の前々月までに、国民年金の被保険者期間があり、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2以上なければいけません。
障害基礎年金でも登場した、おなじみの保険料納付要件です。「初診日の前日において初診日の前々月」のワードは重要でしたね。
障害厚生年金の保険料納付要件にも障害基礎年金と同じ特例があります。
初診日が平成38年(令和8年)4月1日前にある傷病による障害について厚生年金保険法第47条第1項ただし書の規定を適用する場合においては、同法第47条第1項ただし書中「3分の2に満たないとき」とあるのは、「3分の2に満たないとき(当該初診日の前日において当該初診日の属する月の前々月までの1年間のうちに保険料納付済期間及び保険料免除期間以外の国民年金の被保険者期間がないときを除く。)」とする。ただし、当該障害に係る者が当該初診日において65歳以上であるときは、この限りでない。
「保険料納付済期間及び保険料免除期間以外の国民年金の被保険者期間がない」とは簡単にいうと「未納(滞納)期間がない」という意味です。
令和8年4月1日前にある傷病については、保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が国民年金被保険者期間の3分の2以上に満たないときでも、初診日の前日において当該初診日の属する月の前々月までの1年間に未納がなければ保険料納付要件を満たせるということになります。初診日において65歳未満の人限定の特例です。
障害等級は?
障害基礎年金は1級又は2級ですが、障害厚生年金は1級、2級及び3級です。各級の障害の状態は、政令で定められています。
1級 | 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものとする。この日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度とは、他人の介助を受けなければほとんど自分の用を弁ずることができない程度のものである。 |
2級 | 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。この日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度とは、必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度のものである。 |
3級 | 労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。 |
こまかい認定基準については日本年金機構のページにPDFがあるので一読しておきましょう。
日本年金機構:障害認定基準
なお、精神の障害も対象です。
それでは過去問いきましょう
問1 厚生年金保険の被保険者であった18歳のときに初診日のある傷病について、その障害認定日において障害等級3級の障害の状態にある場合にその者が20歳未満のときは、障害厚生年金の受給権は20歳に達したときに発生する。
過去問 令和6年 厚生年金保険法
✕ 障害厚生年金の重要な要件、初診日において被保険者。国民年金の第1号被保険者と違い、厚生年金保険は初診日において被保険者であれば良いので、年齢は問いません。設問の人は、「厚生年金保険の被保険者であった18歳のときに初診日」がありますので、障害認定日において障害等級3級の障害の状態にある場合は、障害認定日に、障害厚生年金3級の受給権を取得します。ちなみに国民年金の第2号被保険者ですので、もし障害等級2級の障害状態にあれば障害基礎年金も支給されます。20歳前傷病による障害基礎年金と混同しないようにしましょう。
問2 厚生年金保険の被保険者であった者が資格を喪失して国民年金の第1号被保険者の資格を取得したが、その後再び厚生年金保険の被保険者の資格を取得した。国民年金の第1号被保険者であった時に初診日がある傷病について、再び厚生年金保険の被保険者となってから障害等級3級に該当する障害の状態になった場合、保険料納付要件を満たしていれば当該被保険者は障害厚生年金を受給することができる。
過去問 令和2年 厚生年金保険法
✕ こちらも障害厚生年金の重要な要件、初診日において被保険者。です。障害厚生年金は初診日において被保険者でなければ絶対に支給されません。設問の人は、国民年金の第1号被保険者であった時に初診日がありますので、その後、厚生年金保険の被保険者となり障害等級に該当しても障害厚生年金が支給されることはありません。
問3 71歳の高齢任意加入被保険者が障害認定日において障害等級3級に該当する障害の状態になった場合は、当該高齢任意加入被保険者期間中に当該障害に係る傷病の初診日があり、初診日の前日において保険料の納付要件を満たしているときであっても、障害厚生年金は支給されない。
過去問 令和2年 厚生年金保険法
✕ 厚生年金保険の被保険者は70歳に達すると資格を喪失します。高齢任意加入被保険者とは、老齢年金の受給資格期間を満たしていない人が、当該受給資格期間を満たすまで加入できる制度です。設問の人は「高齢任意加入被保険者期間中に当該障害に係る傷病の初診日」がありますので、初診日において厚生年金保険の被保険者に該当し、他の要件を満たすかぎり障害厚生年金が支給されます。
問4 障害厚生年金の支給に係る保険料納付要件の特例として、令和8年4月1日前に初診日がある傷病により障害等級に該当する障害の状態になった場合に、当該初診日の前日において、当該初診日の属する月の前々月までの1年間のうちに保険料納付済期間及び保険料免除期間以外の国民年金の被保険者期間がないときは、障害厚生年金の支給に係る保険料納付要件を満たしていることになるが、この特例は、当該障害に係る者が当該初診日において、65歳以上であるときは、適用されない。
過去問 平成21年 厚生年金保険法
〇 障害厚生年金等の支給要件の特例の問題です。原則の保険料納付要件は、初診日の前日において初診日の前々月までに、国民年金の被保険者期間があり、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2以上なければいけません。令和8年4月1日前に初診日がある傷病に限って特例があります。初診日の前日において当該初診日の属する月の前々月までの1年間に未納がなければ保険料納付要件を満たせるものでした。なお、この特例は初診日において65歳以上であるときは、適用されません。
問5 「精神又は神経系統に、労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの」は、厚生年金保険の障害等級3級の状態に該当する。
過去問 平成28年 厚生年金保険法
〇 障害等級の認定基準は政令で定められています。3級は「労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。」です。精神の障害も対象です。
障害厚生年金の障害の発生要因は、私傷病でも業務上でもかまいません。「初診日において被保険者」が重要な論点です。よって70歳以上の高齢任意加入被保険者でも支給される可能性があります。まずは、3つの要件を確実に抑えて支給されうるのか?の判断ができるようにしましょう。
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