老齢厚生年金は、「雇用保険法」による給付との調整があります。具体的には「基本手当」と「高年齢雇用継続給付」です。ここでは「基本手当」との調整について見ていきます。基本手当は64歳(一般被保険者)までに離職した際に給付を受けられる制度です。65歳以後(高年齢被保険者)の離職の場合は、一時金の高年齢求職者給付金となります。
結論を先にいうと、基本手当を受給する為に、求職の申込をしたら翌月から老齢厚生年金は全額支給停止されます。事後清算の仕組みとあわせて攻略しましょう。
基本手当との調整
基本手当は一般被保険者(64歳未満)の給付なので、調整の対象となる老齢厚生年金は「特別支給の老齢厚生年金」と「繰上げ支給の老齢厚生年金」です。65歳以上の人には、基本手当は支給されませんので関係の無い話となります。
なお、65歳以後(高年齢被保険者)の離職の場合は、一時金(高年齢求職者給付金)となり老齢厚生年金との調整は行われず併給されます。
条文を見てみよう
繰上げ支給の老齢厚生年金は、その受給権者(雇用保険法に規定する受給資格を有する者であつて65歳未満であるものに限る。)が求職の申込みをしたときは、当該求職の申込みがあつた月の翌月から次の各号のいずれかに該当するに至つた月までの各月において、その支給を停止する。
一 当該受給資格に係る雇用保険法に規定する受給期間が経過したとき。
二 当該受給権者が当該受給資格に係る雇用保険法に規定する所定給付日数に相当する日数分の基本手当の支給を受け終わつたとき(延長給付を受ける者にあつては、当該延長給付が終わつたとき。)。
法附則第7条の4(繰上げ支給の老齢厚生年金と基本手当等との調整)の規定は、特別支給の老齢厚生年金について準用する。
繰上げ支給の老齢厚生年金、特別支給の老齢厚生年金は、基本手当の受給資格者が求職の申込をしたら、申込があった翌月から一定の期間(調整対象期間)支給が停止されます。
いつまで停止される?
繰上げ支給の老齢厚生年金、特別支給の老齢厚生年金は、雇用保険の求職の申込みをしたときは、求職の申込みがあった月の翌月から
- 受給資格にかかる受給期間が経過した月
- 所定給付日数に相当する日数分の基本手当を受け終わった月
までの各月において支給停止されます。
支給停止の解除
調整対象期間の各月において老齢厚生年金は支給停止されますが、調整されない場合があります。
調整対象期間の各月について、次のいずれかに該当する月があったときは、その月の分の老齢厚生年金については、適用しない。
一 その月において、厚生労働省令で定めるところにより、当該老齢厚生年金の受給権者が基本手当の支給を受けた日とみなされる日及びこれに準ずる日として政令で定める日がないこと。
二 その月の分の老齢厚生年金について、在職老齢年金の規定により、その全部又は一部の支給が停止されていること。
調整対象期間の各月について「基本手当の支給を受けたとみなされる日」「これに準ずる日として政令で定める日」が1日もない場合には、その月については老齢厚生年金は支給されます。逆に、「基本手当の支給を受けたとみなされる日」「これに準ずる日として政令で定める日」が1日でもあれば支給停止されると言うことです。
一号から見ていきます。
基本手当の支給を受けた日とみなされる日
「基本手当の支給を受けた日とみなされる日」とは、失業の認定日において失業していることについての認定を受けた日のうち、基本手当の支給に係る日の日数に相当する日数分の当該失業の認定日の直前の各日をいいます。
ちょっと何を言っているのか意味が分かりませんよね?
条文をもう一度見て下さい。
その月において、厚生労働省令で定めるところにより、当該老齢厚生年金の受給権者が基本手当の支給を受けた日とみなされる日及びこれに準ずる日として政令で定める日がないこと。
「その月において」基本手当の支給を受けた日とみなされる日がないことです。
失業の認定は日ごとに行い、4週間に1回ずつ直前の28日の各日について行います。例えば2月7日が失業の認定日だと、直前の28日(1月10日から2月6日)について失業の認定を行います。そこで1月10日の1日だけ失業の認定が行われたら、2月は「その月において」基本手当の支給を受けた日が無いことになり老齢厚生年金が支給されてしまいます。
そこで「基本手当の支給を受けた日とみなされる日」の登場です。
「基本手当の支給を受けた日とみなされる日」とは、失業の認定日において失業していることについての認定を受けた日のうち、基本手当の支給に係る日の日数に相当する日数分の当該失業の認定日の直前の各日をいいます。
この条文によって、1月10日の基本手当の支給を受けた日は、失業の認定日の直前の各日、つまり2月6日が基本手当の支給を受けた日とみなされる日となり、「その月において」基本手当の支給を受けた日とみなされる日がありますので2月の老齢厚生年金は支給停止です。
なお、この例で1月10日から2月6日の全ての日について失業の認定を受けたら、1月10日から2月6日の全ての日が基本手当の支給を受けた日とみなされる日となります。
これに準ずる日として政令で定める日
これに準ずる日として政令で定める日とは以下の場合です。
- 待期期間
- 就職拒否や職業指導拒否に係る給付制限期間
- 離職理由による給付制限期間
ポイントは、基本手当を受けて無い待期期間や給付制限期間であっても、支給停止されるということです。求職の申込をしたら翌月から老齢厚生年金は全額支給停止されるですね。
二号を見ていきます。
「在職老齢年金の規定により、その全部又は一部の支給が停止されていること。」の意味ですが、在職老齢年金の支給停止は「前月から引き続き被保険者であること」が条件の為、資格取得月は調整の対象とならず資格喪失月の翌月までが「全部又は一部の支給が停止」となります。
月のなかばで退職し、すぐ求職の申込をしたら翌月から老齢厚生年金が支給停止されますが、在職老齢年金の規定により「全部又は一部の支給が停止されている」場合は、基本手当との調整は行いません。
支給停止解除のまとめ
「基本手当を1日も貰っていない月」は、調整対象期間であっても「その月」は老齢厚生年金が支給されると考えて良いです。ただし、「これに準ずる日」つまり、待期期間や給付制限期間は、基本手当を1日も貰っていませんが支給停止は解除されませんので気を付けて下さい。
事後清算
繰上げ支給の老齢厚生年金、特別支給の老齢厚生年金は、基本手当の受給資格者が求職の申込をしたら、申込があった翌月から原則、全額支給停止です。求職の申込をしたら、待期期間や給付制限期間で基本手当を受給してなくても、また基本手当を1日分だけ受給したとしても、その月分の老齢厚生年金は支給されないんです。
そこで「事後清算」で、停止しすぎた老齢厚生年金を実際の基本手当の受給日数に応じて遡って支給停止を解除する制度があります。
調整対象期間終了後の事後清算
調整対象期間に基本手当との調整により、老齢厚生年金の支給が停止された月(以下「年金停止月」という)の数から当該老齢厚生年金の受給権者が基本手当の支給を受けた日とみなされる日の数を30で除して得た数(1未満の端数が生じたときは、これを1に切り上げるものとする)を控除して得た数が1以上であるときは、年金停止月のうち、当該控除して得た数に相当する月数分の直近の各月については、老齢厚生年金の支給停止が行われなかったものとみなす。
老齢厚生年金の支給が停止された月から、基本手当の支給を受けた日とみなされる日の数を30で除して得た数を控除して得た数が1以上。
基本手当は「日」ごとに支給されます。例えば自己都合で退職し、所定給付日数が90日ある人が、基本手当との調整で特別支給の老齢厚生年金が8カ月支給停止されました。
事後計算の計算式は、
基本手当の支給を受けた日とみなされる日の数は90日です。30で割ると3
8カ月(年金停止月数)ー3=5となり、支給停止解除月数は5カ月となります。
支給停止が解除(正確には支給停止が行われなかったものとみなす)されて、5カ月分の特別支給の老齢厚生年金が遡って事後清算により支給されます。実際に受けた基本手当を、1月に30日受けたとみなしてギュッと詰め込んだイメージです。
大事な論点として、基本手当と老齢厚生年金の調整においては、「待期期間や離職理由による給付制限期間等」がある月は老齢厚生年金が支給停止になります。「基本手当の支給を受けたとみなされる日及びこれに準ずる日」でしたね。
事後清算の仕組みでは「当該老齢厚生年金の受給権者が基本手当の支給を受けた日とみなされる日」しか登場しません。つまり「待期期間や離職理由による給付制限期間等」は計算に入れず、支給停止した月数から、「基本手当の支給を受けた日とみなされる日の数を30で除して得た数」だけを控除して、精算すべき月数を求めます。
その他の論点
- 65歳以後(高年齢被保険者)の離職の場合は、基本手当では無く一時金の高年齢求職者給付金ですので、調整は行われず老齢厚生年金と完全併給されます。
- 老齢厚生年金を支給繰上げすると老齢基礎年金も同時に支給繰上げとなりますが、基本手当との調整で停止されるのは「老齢厚生年金」のみです。老齢基礎年金は停止されません。
- 特別支給の老齢厚生年金が「定額部分」も支給されている場合、定額部分も含めて全額支給停止です。
- 老齢厚生年金が調整対象なので障害や死亡を支給事由とする年金給付は調整されません。
それでは過去問いきましょう
問1 60歳台前半の老齢厚生年金の受給権者が同時に雇用保険法に基づく基本手当を受給することができるとき、当該老齢厚生年金は支給停止されるが、同法第33条第1項に規定されている正当な理由がなく自己の都合によって退職した場合などの離職理由による給付制限により基本手当を支給しないとされる期間を含めて支給停止される。
過去問 令和3年 厚生年金保険法
✕ 前段部分に間違いを作っているので、早読みするとうっかり〇にしてしまう問題です。雇用保険法に基づく基本手当を受給することができるときであっても「求職の申込」をしない限り、老齢厚生年金は支給停止されません。繰上げ支給の老齢厚生年金、特別支給の老齢厚生年金は、その受給権者が、基本手当を受給するために求職の申込みをしたときは、当該求職の申込みがあった月の翌月から、所定の月までの各月において、その支給が停止されます。
問2 雇用保険法に基づく基本手当と60歳台前半の老齢厚生年金の調整は、当該老齢厚生年金の受給権者が、管轄公共職業安定所への求職の申込みを行うと、当該求職の申込みがあった月の翌月から当該老齢厚生年金が支給停止されるが、当該基本手当の受給期間中に失業の認定を受けなかったことにより、1日も当該基本手当の支給を受けなかった月が1か月あった場合は、受給期間経過後又は受給資格に係る所定給付日数分の当該基本手当の支給を受け終わった後に、事後精算の仕組みによって直近の1か月について当該老齢厚生年金の支給停止が解除される。
過去問 平成30年 厚生年金保険法
✕ 1日も当該基本手当の支給を受けなかった月が1か月あった場合は、調整対象期間であっても、その月は老齢厚生年金は停止されずに支給されます。事後清算の仕組みで返ってくるものではありません。
調整対象期間中にある月であっても、基本手当の支給を受けたとみなされる日及びこれに準ずる日が1日もない月は、その月分の老齢厚生年金は支給される
※これに準ずる日とは待期期間や給付制限期間の事
問3 60歳台前半において、障害等級2級の障害基礎年金及び障害厚生年金の受給権者が雇用保険の基本手当を受けることができるときは、障害厚生年金のみが支給停止の対象とされる。
過去問 平成27年 厚生年金保険法
✕ 老齢厚生年金が調整対象なので障害や死亡を支給事由とする年金給付は調整されません。
問4 雇用保険の基本手当との調整により老齢厚生年金の支給が停止された者について、当該老齢厚生年金に係る調整対象期間が終了するに至った場合、調整対象期間の各月のうち年金停止月の数から基本手当の支給を受けた日とみなされる日の数を30で除して得た数(1未満の端数が生じたときは、これを1に切り上げるものとする。)を控除して得た数が1以上であるときは、年金停止月のうち、当該控除して得た数に相当する月数分の直近の各月については、雇用保険の基本手当との調整による老齢厚生年金の支給停止が行われなかったものとみなす。
過去問 平成27年 厚生年金保険法
〇 条文そのままですね。正しいです。事後清算の仕組みでは「待期期間や離職理由による給付制限期間等」は計算に入れず、基本手当の支給を受けた日とみなされる日の数を30で除して得た数で計算します。切上げにも注意して事例に対応できるようにしましょう。
問5 60歳台前半の老齢厚生年金は、雇用保険法に基づく基本手当の受給資格を有する受給権者が同法の規定による求職の申し込みをしたときは、当該求職の申し込みがあった月の翌月から月を単位に支給停止される。なお、1日でも基本手当を受けた日がある月については、その月の老齢厚生年金が支給停止されてしまうため、事後精算の仕組みによって、例えば90日の基本手当を受けた者が、4か月間の年金が支給停止されていた場合、直近の1か月について年金の支給停止が解除される。
過去問 平成24年 厚生年金保険法
〇 事例問題ですね。基本手当の支給を受けた日とみなされる日の数は90日です。30で割ると3
4か月(年金停止月数)ー3=1となり、支給停止解除月数は1か月となり、直近の1か月について年金の支給停止が解除されます。端数がでる事例にも対応できるようにしましょう。端数は切上げですよ。
基本手当との調整は、求職の申込をしたら翌月から調整対象期間となり特別支給の老齢厚生年金、繰上げ支給の老齢厚生年金が全額支給停止。事後清算の仕組みで、止めすぎた年金が返ってくる制度でした。事例では、基本手当の支給を受けた日とみなされる日の数を30で除して得た数が2.3とか半端な数字になることが予想されます。その場合は「切り上げて3」となりますので注意して下さい。基本手当は65歳未満でないと支給されませんので、この規定は65歳以上の人には適用されません。
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