【厚生年金保険法】育児休業等終了時改定、産前産後休業終了時改定

育児休業等終了時改定

育児休業や産前産後休業から復帰後、時短勤務や労働時間の短縮による報酬の変動が生じたりします。例えば、育児との両立を図るためにフルタイムからパートタイム勤務に変更したり、時短勤務を選ぶ場合、報酬が大幅に減少することがあります。そこで定時決定を待たずに、標準報酬月額を改定できる制度が、育児休業等終了時改定産前産後休業終了時改定です。社会保険料の負担をすぐに軽くしてくれる制度ですね。

随時改定との違いを意識して学びましょう。

 

目次

育児休業等終了時改定とは?

 

条文を見てみよう

第23条の2(育児休業等を終了した際の改定)

 実施機関は、育児休業等を終了した被保険者が、当該育児休業等を終了した日(以下この条において「育児休業等終了日」という。)において、当該育児休業等に係る3歳に満たないものを養育する場合において、その使用される事業所の事業主を経由して主務省令で定めるところにより実施機関に申出をしたときは、第21条(定時決定)の規定にかかわらず、育児休業等終了日の翌日が属する月以後3月間(育児休業等終了日の翌日において使用される事業所で継続して使用された期間に限るものとし、かつ、報酬支払の基礎となつた日数が17日未満である月があるときは、その月を除く。)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を改定する。ただし、育児休業等終了日の翌日に次条第1項に規定する産前産後休業を開始している被保険者は、この限りでない。


2 前項の規定によつて改定された標準報酬月額は、育児休業等終了日の翌日から起算して2月を経過した日の属する月の翌月からその年の8月(当該翌月が7月から12月までのいずれかの月である場合は、翌年の8月)までの各月の標準報酬月額とする。


3 第2号厚生年金被保険者及び第3号厚生年金被保険者について、第1項の規定を適用する場合においては、同項中「その使用される事業所の事業主を経由して主務省令」とあるのは、「主務省令」とする。

 

大前提として、被保険者の申出です。標準報酬月額が低く改定されると、傷病手当金の額に影響がでる為、申出になっています。強制ではないため注意しましょう。

論点を整理します。

  • 育児休業等を終了した被保険者が、事業主を経由して実施機関に申出(第2号厚生年金被保険者及び第3号厚生年金被保険者については直接)
  • 育児休業等に係る3歳に満たない子を養育していること
  • 育児休業等終了日の翌日が属する月以後3月間に受けた報酬の総額を、その期間の月数で除して得た額を報酬月額とする(報酬支払の基礎となった日数が17日未満である月を除く
  • 改定された標準報酬月額は、育児休業等終了日の翌日から起算して2月を経過した日の属する月の翌月から適用される

 

要件は?

育児介護休業法に規定する育児休業等に係る3歳に満たない子を養育している被保険者が、以下の2点を満たしたときに事業主を経由して申出できます。

  • 従前の標準報酬月額と変動後の標準報酬月額に1等級以上の差が生じること
  • 育児休業終了後の3カ月のうち、少なくとも1カ月における報酬支払基礎日数が17日以上ある

随時改定は、従前と2等級以上の差があり継続した3カ月間、報酬支払基礎日数が17日以上ないと要件を満たせませんでしたが、育児休業等終了時改定は、「1等級以上の差」で「報酬支払基礎日数が17日以上ある月が1カ月」でもあれば要件を満たせます。17日未満の月は除いて計算します。なお17日の要件は、短時間労働者は11日となります。

 

報酬月額の算定方法

育児休業等終了日の翌日が属する月以後3月間に受けた報酬の総額を、その期間の月数で除して得た額を報酬月額とします。

育児休業等終了日の翌日とは、言い換えれば「復帰日」ですね。例えば5月31日に育児休業が終了したなら、その翌日の6月1日が属する月、つまり6月、7月、8月の3カ月間の報酬の平均で算定します。

5月20日に育児休業が終了したなら、その翌日の5月21日が属する月、つまり5月、6月、7月の3カ月間の報酬の平均で算定しますと言いたいのですが、この事例では「5月」の報酬支払基礎日数が「17日以上ない」為、6月、7月の2か月間報酬の平均で算定します。

  

随時改定との対比

スクロールできます
随時改定育児休業等終了時改定
固定的賃金が変動固定的賃金が変動しなくてよい
2等級以上の差が必要1等級の差でよい
継続した3カ月間、報酬支払基礎日数が17日以上必要1月でも報酬支払基礎日数が17日以上あればよい

定時決定を待たずに早く標準報酬月額を改定する制度が「随時改定」でした。その要件を緩くして標準報酬月額を改定する制度が「育児休業等終了時改定」です。対比して整理しましょう。

 

標準報酬月額の有効期間

育児休業等終了日の翌日から起算して2月を経過した日の属する月の翌月からその年の8月(当該翌月が7月から12月までのいずれかの月である場合は、翌年の8月)までの各月の標準報酬月額となります。

言い換えれば「職場復帰日」から2カ月経過した月の翌月です。5月31日が育児休業終了日なら、6月1日が職場復帰日となり2月を経過した翌月の9月から改定されます。

引用:厚生労働省リーフレット

 

届出

被保険者からの申出を受けた事業主が「育児休業等終了時報酬月額変更届」を速やかに日本年金機構又は健康保険組合へ提出します。随時改定と同じですね。「月変すみやか」です。

 

産前産後休業終了時改定

育児休業を取らずに職場へ復帰する場合は「産前産後休業終了時改定」となります。条件は「育児休業等終了時改定」と同じですので、ここでは条文だけ記載します。

条文をみてみよう

第23条の3(産前産後休業を終了した際の改定)

 実施機関は、産前産後休業(出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定日)以前42日(多胎妊娠の場合においては、98日)から出産の日後56日までの間において労務に従事しないこと(妊娠又は出産に関する事由を理由として労務に従事しない場合に限る。)を終了した被保険者が、当該産前産後休業を終了した日(以下この条において「産前産後休業終了日」という。)において当該産前産後休業に係る子を養育する場合において、その使用される事業所の事業主を経由して主務省令で定めるところにより実施機関に申出をしたときは、第21条の規定(定時決定)にかかわらず、産前産後休業終了日の翌日が属する月以後3月間(産前産後休業終了日の翌日において使用される事業所で継続して使用された期間に限るものとし、かつ、報酬支払の基礎となつた日数が17日未満である月があるときは、その月を除く。)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を改定する。ただし、産前産後休業終了日の翌日に育児休業等を開始している被保険者は、この限りでない。


2 前項の規定によつて改定された標準報酬月額は、産前産後休業終了日の翌日から起算して2月を経過した日の属する月の翌月からその年の8月(当該翌月が7月から12月までのいずれかの月である場合は、翌年の8月)までの各月の標準報酬月額とする。


3 第2号厚生年金被保険者及び第3号厚生年金被保険者について、第1項の規定を適用する場合においては、同項中「その使用される事業所の事業主を経由して主務省令」とあるのは、「主務省令」とする。

産前産後休業後、引き続き育児休業を開始

産休が終わってそのまま育児休業を開始したときは、標準報酬月額の改定は行われません。育児休業を開始すると報酬が発生しないことがほとんどで保険料も免除されるので、改定する意味がありません。

それでは過去問いきましょう

問1 育児休業を終了した被保険者に対して昇給があり、固定的賃金の変動があった。ところが職場復帰後、育児のために短時間勤務制度の適用を受けることにより労働時間が減少したため、育児休業等終了日の翌日が属する月以後3か月間に受けた報酬をもとに計算した結果、従前の標準報酬月額等級から2等級下がることになった場合は、育児休業等終了時改定には該当せず随時改定に該当する。
過去問 令和3年 厚生年金保険法

✕ 設問の事例では随時改定は行われず、育児休業等終了時改定を行います。随時改定の知識も無いと解けない複合問題ですね。随時改定は、変動原因(固定的賃金)と変動結果が同じベクトルでないと適用されません。固定的賃金の変動があり「昇給」したにもかかわらず、変動結果は「低下」しています。よって育児休業等終了時改定に該当します。要件大事ですね。

問2 育児休業等を終了した際の標準報酬月額の改定若しくは産前産後休業を終了した際の標準報酬月額の改定を行うためには、被保険者が現に使用される事業所において、育児休業等終了日又は産前産後休業終了日の翌日が属する月以後3か月間の各月とも、報酬支払の基礎となった日数が17日以上でなければならない。
過去問 令和3年 厚生年金保険法

✕ 育児休業等を終了した際の標準報酬月額の改定若しくは産前産後休業を終了した際の標準報酬月額の改定は、報酬支払の基礎となった日数が17日未満である月があるときは、その月を除くとされていますので、1月だけ報酬支払の基礎となった日数が17日以上あれば、1月の報酬で報酬月額とします。

問3 月給制である給与を毎月末日に締め切り、翌月10日に支払っている場合、4月20日に育児休業から職場復帰した被保険者の育児休業等終了時改定は、5月10日に支払った給与、6月10日に支払った給与及び7月10日に支払った給与の平均により判断する。
過去問 令和元年 厚生年金保険法

✕ 育児休業等終了日の翌日が属する月以後3月間受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を改定します。設問の事例では4月19日が育児休業等終了日で4月20日が職場復帰日ですので、4月に支払った給与と5月に支払った給与、そして6月に支払った給与の平均を算出します。
しかし「末日締め翌月10日」支払いの為、4月10日は給与の支払いがありません。5月10日の給与は4月分で、「報酬支払基礎日数が17日未満」ですので算入しません。

よって6月10日に支払った給与のみで判断します。

問4 平成28年5月31日に育児休業を終えて同年6月1日に職場復帰した3歳に満たない子を養育する被保険者が、育児休業等終了時改定に該当した場合、その者の標準報酬月額は同年9月から改定される。また、当該被保険者を使用する事業主は、当該被保険者に対して同年10月に支給する報酬から改定後の標準報酬月額に基づく保険料を控除することができる。
過去問 平成29年 厚生年金保険法

〇 育児休業等終了日の翌日から起算して2月を経過した日の属する月の翌月から改定されます。設問の事例では、6月1日から起算して2カ月経過した8月の翌月である9月から改定されます。

また事業主が源泉徴収する被保険者の負担すべき保険料は、原則として、前月の報酬から控除することができると規定されていますので、この点も正しいです。

問5 育児休業等を終了した際の標準報酬月額の改定の要件に該当する被保険者の報酬月額に関する届出は、当該育児休業等を終了した日から5日以内に、当該被保険者が所属する適用事業所の事業主を経由して、所定の事項を記載した届書を日本年金機構又は健康保険組合に提出することによって行う。
過去問 令和4年 健康保険法

✕ 被保険者からの申出を受けた事業主が「育児休業等終了時報酬月額変更届」を速やかに日本年金機構又は健康保険組合へ提出します。「月変すみやか」ですよ~。

 

育児休業等終了日の翌日が属する月以後3月間とか言い回しが独特ですよね。脳内で「職場復帰日」と言い換えて、事例問題にも対応できること。随時改定の要件に該当しなくても標準報酬月額の改定が出来る制度です。固定的賃金の変動がなくても対象となり、1等級でも差が生じれば対象です。随時改定との違いを意識して理解しましょう。

また、「3歳未満の子を養育する被保険者の年金額算定の特例」があり従前の標準報酬月額より下がっても「将来の年金額の計算」には、従前の標準報酬月額とみなして計算する特例もあります。つまり、標準報酬月額が下がることで、将来の受取年金は減額されないという意味です。別記事で解説しますね。

 

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