目的
法1条目的条文です。厚生年金保険法は政府管掌の年金制度で被保険者の種別ごとに実施機関が定められています。労働者と、その遺族に対して保険給付を行います。
条文を見てみよう
- 第1条(目的)
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この法律は、労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い、労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。
- 第2条(管掌)
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厚生年金保険は、政府が、管掌する。
- 第2条の2(年金額の改定)
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この法律による年金たる保険給付の額は、国民の生活水準、賃金その他の諸事情に著しい変動が生じた場合には、変動後の諸事情に応ずるため、速やかに改定の措置が講ぜられなければならない。
法律において重要な「目的条文」になります。特に国民年金法との違いを意識して記憶するのが良いでしょう。
国民年金法(1条)
国民年金制度は、日本国憲法第25条第2項に規定する理念に基き、老齢、障害又は死亡によつて国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によつて防止し、もつて健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする。
厚生年金保険法(1条)
この法律は、労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い、労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。
法律が定められた目的ですので目的条文を理解することは重要です。また理解することで学習がスムーズに進むようになります。厚生年金保険法には「労働者及びその遺族」がポイントです。会社員や公務員等の制度なので、「労働者」がキーワードです。また世帯の生活保障の役割もあるので、労働者本人だけでなく遺族の生活の安定と福祉の向上についても書かれています。国民年金法には「労働者」は書かれていませんよね。
第2条の2(年金額の改定)の特徴は、やはり「賃金」という言葉が含まれていることですね。
国民年金法(4条)
この法律による年金の額は、国民の生活水準その他の諸事情に著しい変動が生じた場合には、変動後の諸事情に応ずるため、速やかに改定の措置が講ぜられなければならない。
厚生年金保険法(2条2)
この法律による年金たる保険給付の額は、国民の生活水準、賃金その他の諸事情に著しい変動が生じた場合には、変動後の諸事情に応ずるため、速やかに改定の措置が講ぜられなければならない。
国民年金法と比べてもらいたいのですが、まず国年が「年金の額」であるのに対し、厚年は「年金たる保険給付」です。国年には保険の原則である保険料を払ってない人にも給付がありますので「年金の額」、厚年は「年金たる保険給付」。また厚年には「賃金」が含まれていますので労働者が意識されています。厚生年金保険法は、国年との違いを抑えるのがとても重要になります。
実施機関
被保険者の種別
厚生年金保険の被保険者は4つに区分されます。
第1号厚生年金被保険者 | 第2号~第4号以外の厚生年金保険の被保険者 |
第2号厚生年金被保険者 | 国家公務員共済組合の組合員たる厚生年金保険の被保険者 |
第3号厚生年金被保険者 | 地方公務員共済組合の組合員たる厚生年金保険の被保険者 |
第4号厚生年金被保険者 | 私立学校教職員共済法の規定による私立学校教職員共済制度の加入者たる厚生年金保険の被保険者 |
第1号厚生年金被保険者は「企業に勤める会社員」のことですね。この区分された被保険者ごとに実施機関が分かれて厚生年金保険の事務が行われます。
実施機関とは?
実施機関とは、保険料その他この法律の規定による徴収金並びに保険料に係る運用に関する事務を行う機関のことです。被保険者の資格、標準報酬、事業所及び被保険者期間、保険給付、当該保険給付の受給権者、基礎年金拠出金の負担や納付等です。実施機関は、被保険者の種別に応じて定められています。
第1号厚生年金被保険者 | 厚生労働大臣 |
第2号厚生年金被保険者 | 国家公務員共済組合及び国家公務員共済組合連合会 |
第3号厚生年金被保険者 | 地方公務員共済組合、全国市町村職員共済組合連合会及び地方公務員共済組合連合会 |
第4号厚生年金被保険者 | 日本私立学校振興・共済事業団 |
適用事業所
厚生年金保険は、事業所単位で適用されていて、適用事業所(健康保険・厚生年金保険に加入が義務のある事業所)で常時的使用関係にある人は健康保険と厚生年金保険の被保険者となります。
適用事業所は「強制適用事業所」と「任意適用事業所」に大別されます。
強制適用事業所
以下の条件にあてはまる事業所又は船舶は厚生年金保険法の強制適用事業所になります。
- 適用業種である事業所又は事務所であって常時5人以上の従業員を使用するもの
- 国、地方公共団体又は法人の事業所又は事務所であって、常時従業員を使用するもの
- 船員法第 1 条に規定する船員として船舶所有者に使用される者が乗り組む船舶
適用業種
「適用業種」は、法定17業種ともいいますが以下の17業種です。
- 物の製造、加工、選別、包装、修理又は解体の事業
- 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業
- 鉱物の採掘又は採取の事業
- 電気又は動力の発生、伝導又は供給の事業
- 貨物又は旅客の運送の事業
- 貨物積みおろしの事業
- 焼却、清掃又はと殺の事業
- 物の販売又は配給の事業
- 金融又は保険の事業
- 物の保管又は賃貸の事業
- 媒介周旋の事業
- 集金、案内又は広告の事業
- 教育、研究又は調査の事業
- 疾病の治療、助産その他医療の事業
- 通信又は報道の事業
- 社会福祉法に定める社会福祉事業及び更生保護事業法に定める更生保護事業
- 弁護士、公認会計士その他政令で定める者が法令の規定に基づき行うこととされている法律又は会計に係る業務を行う事業
法人であれば常時1人でも従業員がいれば強制適用事業所ですが、個人経営は上記法定17業種で常時5人以上従業員がいれば強制適用事業所になります。
この法定17業種を覚えることは困難ですよね。なので個人経営で何人いても適用事業所にならない「逆」の業種(非適用業種)を覚えれば良いです。
非適用業種
- 農林水産
- 畜産業
- 接客娯楽業(旅館、飲食店、映画館、理容業等)
- 宗務業(寺社・寺院・教会等)
ぐっと少なくなりましたね。個人経営の上記業種は、5人以上従業員がいたとしても強制適用事業所にはなりません。なので、非適用業種以外の個人経営が出題されたら、常時5人以上従業員がいるかどうかで、強制適用事業所になるか判断します。
個人経営 | 法人 | |||
---|---|---|---|---|
従業員の数 | 5人以上 | 5人未満 | 1人以上 | |
業種 | 法定17業種 | |||
非適用業種 |
法人の事業所は、法定17 業種であるか否かを問わず、また、使用する従業員数にかかわらず強制適用事業所となりますので、社長1人でも強制適用事業所となり健康保険・厚生年金保険に加入しないといけません。
任意適用事業所
条文を見てみよう
- 第6条3項(適用申請)
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3 第1項の事業所以外の事業所の事業主は、厚生労働大臣の認可を受けて、当該事業所を適用事業所とすることができる。
4 前項の認可を受けようとするときは、当該事業所の事業主は、当該事業所に使用される者(適用除外に規定する者を除く)の2分の1以上の同意を得て、厚生労働大臣に申請しなければならない。
強制適用事業所以外の事業所の事業主は、使用される者の2分の1以上の同意を得て、厚生労働大臣に申請して認可されたら任意適用事業所となります。
強制適用事業所以外の事業所とは、上記表1の✕の事業所のことです。
- 事業主が任意適用の申請をする場合、事業所に使用される者の2分の1以上の同意が必要
- 従業員が希望しても、事業主には任意適用の申請をする義務はない
- 厚生労働大臣に申請して認可をうける
- 事業主の方から、任意適用の取り消しの申請をする場合は、被保険者の4分の3以上の同意が必要
事業主が任意適用事業所の申請する時は、使用される者の2分の1以上の同意が必要で、事業主の方から任意適用の取り消しの申請をする場合は、被保険者の4分の3以上の同意が必要です。
従業員が希望しても、事業主には任意適用の申請をする義務はなく、被保険者から申出があったとしても、事業主は任意適用の取り消しの申請をする義務もありません。
任意適用事業所の認可があったら、反対した人(不同意)も含めて「認可のあった日」に、被保険者の資格を取得します。また適用事業所の取り消しの認可があったときは、脱退することに反対した人(不同意)も含めて「認可のあった日の翌日」に、被保険者の資格を喪失します。
擬制任意適用
擬制とは船舶以外の強制適用事業所が、事業内容の変更又は従業員数の減少等で、強制要件に該当しなくなったときは、その事業所について任意適用の認可があったものとみなされます。
個人事業所の従業員の数が5人未満になったり、法人の事業所が個人の事業所になったときに、強制適用事業所の要件に該当しなくなったとしましょう。
そのときは、「任意適用の認可があったものとみなす」という扱いになるので、認可の申請をしなくても、引き続き厚生年金保険の適用事業所のままになり、これを擬制任意適用といいます。
適用事業所の一括
条文を見てみよう
- 第8条の2(適用事業所の一括)
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1 2以上の適用事業所(船舶を除く)の事業主が同一である場合には、当該事業主は、厚生労働大臣の承認を受けて、当該2以上の事業所を一の適用事業所とすることができる。
2 前項の承認があったときは、当該2以上の適用事業所は、第6条の適用事業所でなくなったものとみなす。
この一括の承認が得られると、全体がひとつの適用事業所になります。なので労働者が別の県に転勤しても、被保険者の得喪は生じません。厚生労働大臣の承認です。届出でも認可でもありませんので注意して下さい。
船舶は?
2以上の船舶の船舶所有者が同一である場合には、当該2以上の船舶は、一の適用事業所となります。
2以上の船舶については、承認は必要なく、当然に一括されます。「法律上当然に」
それでは過去問いきましょう
問1 厚生年金保険制度は、老齢、障害又は死亡によって国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によって防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的としている。
過去問 平成30年 厚生年金保険法
✕ 国民年金法の目的条文と引っ掛けている問題です。厚生年金保険法は「労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い、労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与すること」が目的でした。労働者と遺族がキーワードですね。
問2 常時5人以上の従業員を使用する個人経営のと殺業者である事業主は、厚生労働大臣の認可を受けることで、当該事業所を適用事業所とすることができる。
過去問 令和元年 厚生年金保険法
✕ まず法人か個人に分けて考えます。法人なら1人以上で強制適用事業所でした。この設問は個人経営ですね。そして「と殺業」です。「と殺業」が法定17業種に入りますか?
農林水産、畜産業、接客娯楽業(旅館、飲食店、映画館、理容業等)、宗務業(寺社・寺院・教会等)以外が法定17業種です。なので「と殺業」は、常時5人以上の従業員を使用すると強制適用事業所となるので厚生労働大臣の認可は不要です。
問3 厚生年金保険の強制適用事業所であった個人事業所において、常時使用する従業員が5人未満となった場合、任意適用の申請をしなければ、適用事業所ではなくなる。
過去問 令和4年 厚生年金保険法
✕ 擬制任意適用の問題ですね。個人事業所の従業員の数が5人未満になったり、法人の事業所が個人の事業所になったときに、強制適用事業所の要件に該当しなくなったら「任意適用の認可があったものとみなす」という扱いになります。したがって任意適用の申請をしなくても引き続き適用事業所です。
問4 任意適用事業所の事業主は、厚生労働大臣の認可を受けることにより当該事業所を適用事業所でなくすることができるが、このためには、当該事業所に使用される者の全員の同意を得ることが必要である。なお、当該事業所には厚生年金保険法第12条各号のいずれかに該当する者又は特定4分の3未満短時間労働者に該当する者はいないものとする。
過去問 令和5年 厚生年金保険法
✕ 事業主の方から任意適用の取り消しの申請をする場合は、被保険者の4分の3以上の同意をとって厚生労働大臣に申請します。また適用事業所の取り消しの認可があったときは、脱退することに反対した人(不同意)も含めて「認可のあった日の翌日」に、被保険者の資格を喪失します。
問5 2以上の船舶の船舶所有者が同一である場合には、当該2以上の船舶を1つの適用事業所とすることができる。このためには厚生労働大臣の承認を得なければならない。
過去問 平成30年 厚生年金保険法
✕ 2以上の船舶の船舶所有者が同一である場合には、当該2以上の船舶は法律上当然に一括されます。したがって厚生労働大臣の承認は不要で1つの適用事業所になります。
目的条文は国民年金法との違いを意識して記憶する。適用事業と被保険者種別は「健康保険法」と同一ですので、どちらから出題されても間違えないようにしましょう。社会保険への加入は労働者にとっても、事業主にとっても重要な論点になりますので、大前提である適用事業所は丁寧におさえる必要があります。
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