障害補償による支給停止
障害基礎年金の支給停止は、主に業務上の傷病による支給停止と症状が軽快したときの支給停止があります。保険料を納付していることを前提にしているので、所得の多さで支給停止にはなりません。なお初診日が20歳前にある20歳前傷病による障害基礎年金は、保険料を納付していない福祉的な年金の為、所得による制限があります。しっかりと区別しましょう。20歳前傷病はこちら↓
条文を見てみよう
第36条(支給停止)
障害基礎年金は、その受給権者が当該傷病による障害について、労働基準法の規定による障害補償を受けることができるときは、6年間、その支給を停止する。
2 障害基礎年金は、受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなつたときは、その障害の状態に該当しない間、その支給を停止する。ただし、その支給を停止された障害基礎年金の受給権者が疾病にかかり、又は負傷し、かつ、その傷病に係る初診日において第30条第1項各号のいずれかに該当した場合であつて、当該傷病によりその他障害の状態にあり、かつ、当該傷病に係る障害認定日以後65歳に達する日の前日までの間において、当該障害基礎年金の支給事由となつた障害とその他障害(その他障害が2以上ある場合は、すべてのその他障害を併合した障害)とを併合した障害の程度が障害等級に該当するに至つたときは、この限りでない。
3 第30条第1項ただし書の規定は、前項ただし書の場合に準用する。(保険料納付要件)
1項の規定は、労働基準法との調整規定です。同一の傷病による障害について、労働基準法の規定による障害補償を受けることができるときは、6年間その支給を停止します。同一の傷病で、使用者から労働基準法の障害補償を受けるときは、労働基準法の障害補償が優先されます。
同一の傷病による障害について、労働者災害保険法に基づき障害補償年金を受給する場合には、障害基礎年金は支給停止にならないので注意です。この場合は、障害基礎年金が満額支給され、労災側が調整されます。
6年間支給停止されるのは、同一の傷病で使用者から労働基準法の障害補償を受けるときです。
障害の程度が軽減した時の支給停止
2項を見てみましょう。「受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなったときは、その障害の状態に該当しない間、その支給を停止する」とあります。障害基礎年金は1級と2級でした。1級の人が軽快して2級の状態になると額の改定が行われます。2級の人が軽快して3級の障害状態になると、その障害の状態に該当しない間、支給停止となります。
ポイントは、障害の状態に該当しない間、支給停止です。年齢は関係ありません。65歳を過ぎても障害状態に増進したら支給停止が解除されます。国民年金法ですから、ここでいう障害状態とは1級、2級のことです。受給権を持っていて支給停止されているだけなので失権とは違います。
65歳を過ぎても障害の状態に該当したら支給停止は解除される
その他障害との併合
2項ただし書きを見ましょう。
ただし、その支給を停止された障害基礎年金の受給権者が疾病にかかり、又は負傷し、かつ、その傷病に係る初診日において第30条第1項各号(※1)のいずれかに該当した場合であつて、当該傷病によりその他障害の状態にあり、かつ、当該傷病に係る障害認定日以後65歳に達する日の前日までの間において、当該障害基礎年金の支給事由となつた障害とその他障害(その他障害が2以上ある場合は、すべてのその他障害を併合した障害)とを併合した障害の程度が障害等級に該当するに至つたときは、この限りでない。
障害の状態に該当しなくなり支給停止されている受給権者が、新たな傷病(その他障害)により、支給を停止されている障害と、その他障害を併合して障害等級に該当するときは、支給停止は解除されます。
ただし条件があります。
- 初診日において被保険者であること又は被保険者であった者であって、日本国内に住所を有し、かつ、60歳以上65歳未満であること。(※1 第30条第1項各号)
- その他障害の障害認定日以後、65歳に達する日の前日までの間において併合した障害の程度が障害等級に該当すること
- その他障害における保険料納付要件を満たしていること(第36条3項)
なお、その他障害との併合は繰上げ支給の老齢基礎年金の受給権者には適用されません。(つまり支給停止の解除は行われない)繰上げしてしまうと65歳に達したとみなされるからですね。
- 65歳に達する日の前日までに、併合した障害の程度が障害等級に該当
- その他障害との併合は、繰上げ支給の老齢基礎年金の受給権者には適用しない
失権
失権とは、権利を失うことで原則、受給権を失います。受給権者が死亡したら失権して受給権を失いますが、条文で確認してみましょう。
第35条(失権)
障害基礎年金の受給権は、第31条第2項(併合認定)の規定によつて消滅するほか、受給権者が次の各号のいずれかに該当するに至つたときは、消滅する。
一 死亡したとき。
二 厚生年金保険法に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態にない者が、65歳に達したとき。ただし、65歳に達した日において、同項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなつた日から起算して同項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態に該当することなく3年を経過していないときを除く。
三 厚生年金保険法に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなつた日から起算して同項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態に該当することなく3年を経過したとき。ただし、3年を経過した日において、当該受給権者が65歳未満であるときを除く。
まず目につくのが「第31条第2項(併合認定)の規定によつて消滅する」ですが、併合認定とは、障害基礎年金の受給権者に対して更に障害基礎年金を支給すべき事由が生じたときは、前後の障害を併合した障害の程度による障害基礎年金を支給し、前後の障害を併合した障害の程度による障害基礎年金の受給権を取得したときは、従前の障害基礎年金の受給権は、消滅するという規定です。
併合認定についての記事はこちら↓
二号と三号が、条文だと分かりづらいので図でイメージしてみましょう。
厚生年金保険法に規定する障害等級(1級、2級、3級)に該当する程度の障害の状態に該当することなく3年を経過したものが65歳に達したとき
厚生年金保険法に規定する障害等級(1級、2級、3級)に該当する程度の障害の状態に該当することなく65歳に達したあとに3年経過したとき
まとめると、3級に該当することなく3年が経過するか、65歳に達するか、どちらかか遅い方で失権します。少なくとも65歳に達するまでは失権しないというわけです。
それでは過去問いきましょう
問1. 障害基礎年金(いわゆる20歳前の障害に基づくものを除く。)は、その受給権者が当該傷病による障害について、労働者災害補償保険法の規定による障害補償年金を受けることができるときであっても、その支給は停止されない。
過去問 平成20年 国民年金法
問2. 63歳のときに障害状態が厚生年金保険法に規定する障害等級3級に該当する程度に軽減し、障害基礎年金の支給が停止された者が、3級に該当する程度の状態のまま5年経過後に、再び障害状態が悪化し、障害の程度が障害等級2級に該当したとしても、支給停止が解除されることはない。
過去問 平成30年 国民年金法
問3. 老齢基礎年金の繰上げ支給等に関する次の記述は、正しいか
繰上げ支給を受けると、国民年金法第36条第2項ただし書き(その他障害の程度と併せて障害の程度が2級以上に該当したことによる支給停止解除)に係る請求ができなくなる。
過去問 平成23年 国民年金法
問4. 年金たる給付に関する次の記述は、正しいか
障害基礎年金の受給権者が、厚生年金保険法第47条第2項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなった日から起算して同項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態に該当することなく3年を経過した日において、65歳に達していないときでも、当該障害基礎年金の受給権は消滅する。
過去問 令和3年 国民年金法
問5. 障害基礎年金の受給権は、厚生年金保険の障害等級3級以上の障害状態にない者が、その該当しなくなった日から、障害等級3級以上の障害状態に該当することなく5年を経過したとき消滅する。ただし、5年を経過した日においてその者が65歳未満であるときを除く。
過去問 平成26年 国民年金法
障害基礎年金の支給停止は「受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなったときは、その障害の状態に該当しない間、その支給を停止する」をしっかりと理解して下さい。受給権は持っているので、65歳を超えても障害の状態に該当したら支給停止が解除されます。国民年金法ですから障害の状態とは「1級、2級」の事を指します。受給権を持っていない事後重症、基準障害は、65歳に達する前日までに、受給権は有しているけど後発の「その他障害(等級不該当)」と併合する場合も65歳に達する前日までに障害状態に該当しないといけません。繰上げ支給を受けると「65歳に達したとみなされます」ので注意です。
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