【国民年金法】老齢基礎年金の繰下げ

老齢基礎年金の繰下げとは?

「老齢基礎年金は、保険料納付済期間保険料免除期間とを合算した期間が10年以上あるものが、65歳に達したときに支給する」と法26条にあるように、受給開始年齢は、原則65歳です。しかし本人の希望で66歳以降75歳の間に遅らせることが出来ます。これを支給の繰下げといいます。

条文を見てみよう

第28条1項(支給の繰下げ)

老齢基礎年金の受給権を有する者であつて66歳に達する前に当該老齢基礎年金を請求していなかつたものは、厚生労働大臣に当該老齢基礎年金の支給繰下げ申出をすることができる。ただし、その者が65歳に達したときに、他の年金たる給付(他の年金給付(付加年金を除く。)又は厚生年金保険法による年金たる保険給付(老齢を支給事由とするものを除く。)以下同じ。)をいう。の受給権者であつたとき、又は65歳に達した日から66歳に達した日までの間において他の年金たる給付の受給権者となつたときは、この限りでない。

1項を要約すると

  • 老齢基礎年金の受給権を有する人で66歳に達するまで裁定請求していない
  • 65歳に達したときに、他の年金たる給付(付加年金除く)又は厚生年金法による保険給付(老齢を支給事由とするものを除く)の受給権者でない
  • 65歳に達した日から66歳に達した日までの間で、他の年金たる給付(付加年金除く)又は厚生年金法による保険給付(老齢を支給事由とするものを除く)の受給権者でない

65歳に達して老齢基礎年金の受給権を得たら最低1年間はあけてから(66歳)繰下げの申出が出来ます。受給権は発生してますので請求でななく申出ですね。請求により受給権を発生させる繰上げとの違いです。

65歳に達したとき、または65歳に達した日から66歳に達した日までの間に「国民年金法又は厚生年金保険法の障害又は遺族に係る年金給付の受給権」があると繰下げの申出は出来ません。障害基礎年金とか遺族基礎年金、障害厚生年金、遺族厚生年金ですね。他の年金を貰いながら、老齢基礎年金は繰下げして増額可能にすると不公平だからです。

老齢を支給事由とする受給権は有していても繰下げ申出は可能です。付加年金老齢厚生年金です。

60歳台前半の老齢厚生年金(特別支給の老齢厚生年金)と寡婦年金は、65歳に達すると受給権が消滅するので、繰下げの申出が可能

平成19年4月1日より繰下げのルールが変更となり、老齢基礎年金老齢厚生年金別々に繰下げ可能となりました。もちろん同時に繰下げても大丈夫です。

繰上げ請求は、同時にしないといけません↓



繰下げ申出のみなし適用

第28条2項(支給の繰下げ)

 66歳に達した日後に次の各号に掲げる者が前項の申出をしたときは、当該各号に定める日において、前項の申出があつたものとみなす。

 75歳に達する日前に他の年金たる給付の受給権者となつた者 他の年金たる給付を支給すべき事由が生じた日

 75歳に達した日後にある者(前号に該当する者を除く。) 75歳に達した日


65歳に達したとき、または65歳に達した日から66歳に達した日までの間に「他の年金たる給付」の受給権があると繰下げの申出は出来ません

では、66歳に達した日後に、他の年金たる給付を支給すべき事由が生じたらどうなるのか?が一号に記されています。この場合は他の年金たる給付を支給すべき事由が生じた日に繰下げの申出があったものとみなされます

75歳に達した日後に繰下げの申出をしたら75歳に達した日に遡って申出があったものとみなされます。例えば77歳に繰下げ申出したら75歳に達した日に申出があったものとみなされて、75歳到達月の翌月分から支給されます。



65歳に達した日後に受給資格期間を満たしたとき

いままでの話は、65歳到達時に老齢基礎年金の受給権が生じる原則の場合です。では65歳に達した後に老齢基礎年金の受給権を有した場合の繰下げの規定はどうなっているのでしょうか?

昭和60年 法附則18条5項

老齢基礎年金の受給権を有する者であってその受給権を取得した日から起算して1年を経過した日(以下「1 年を経過した日」という)前に当該老齢基礎年金を請求していなかったものは、厚生労働大臣に当該老齢基礎年金の支給繰下げの申出をすることができる。
ただし、その者が当該老齢基礎年金の受給権を取得したときに、他の年金たる給付の受給権者であったとき、又は当該老齢基礎年金の受給権を取得した日から1年を経過した日までの間において他の年金たる給付の受給権者となったときは、この限りでない。

1年を経過した日がキーワードですね。原則の65歳到達時に老齢基礎年金の受給権が生じた人は66歳以降でないと繰下げ申出が出来ませんでした。つまり1年はがまんして下さいという意味です。65歳に達した後に老齢基礎年金の受給権を有したひとも1年が経過しないと繰下げの申出はできません。

第28条2項75歳に達する日前に他の年金たる給付の受給権者となった者は、他の年金たる給付を支給すべき事由が生じた日に、75歳に達した日後にある者は75歳に達した日に繰下げの申出があったものとみなす規定がありました。65歳到達時に老齢基礎年金の受給権が生じた人は、75歳到達時に申出みなし。つまり10年後です。

1年を経過した日後に支給繰下げの申出をした場合も申出があったものとみなす規定があります。キーワードは10年を経過した日

① 老齢基礎年金の受給権を取得した日から起算して10年を経過した日前他の年金たる給付の受給権者となったもの
他の年金たる給付を支給すべき事由が生じた日に繰下げ申出があったものとみなす
② 10年を経過した日後にあるもの(①に該当するものを除く)
10年を経過した日に繰下げ申出があったものとみなす



政令で定める額を加算した額とは?


第28条3項4項(支給の繰下げ)

 第1項の申出をした者に対する老齢基礎年金の支給は、当該申出のあつた日の属する月の翌月から始めるものとする。

 第1項の申出をした者に支給する老齢基礎年金の額は、同条に定める額に政令で定める額を加算した額とする。

支給繰下げの申出をし、遅く年金を貰おうとすると増額されて生涯にわたり支給されます。どれくらい増額されるのでしょうか?

老齢基礎年金の支給繰下げ申出をしたら、本来の老齢基礎年金の年金額に増額率を乗じた額に増額されます。「増額率」とは、1,000分の7受給権を取得した日の属するから支給繰下げを申出した日の属する月の前月までの月数を乗じて得た率をいいます。(120月が限度)

例えば75歳に達した日の属する月に繰下げの申出をし、65歳到達時に受給権を得たとすると、75歳到達日の前月までの月数は120月となりますので増額率は、120×0.007=0.84となり84%増額されます。

増額率は12月(8.4%)から120月(84%)の範囲になりますね。

増額率

0.007✕老齢基礎年金の受給権取得から繰下げ申出日の前月までの月数

なお繰下げ原則75歳まで可能になったのは令和4年4月1日の法改正です。改正前は70歳まででした。この「繰下げ月数の上限120月」が適用されるのは、令和4年4月1日の前日において70歳に達していない人になります。つまり昭和27年4月2日以降生まれの人に限定されます。


繰下げ申出せずに本来受給の老齢基礎年金を選択

たとえば65歳到達時に老齢基礎年金の受給権が発生した人が、68歳になり繰下げ申出をせず、本来の老齢基礎年金を選択することも可能です。この場合は過去3年分の年金を遡っていったん一括支給され、増額されない年金の支給が開始されます。

年金の支分権の時効は5年です。法改正前の繰下げ可能月数60月(70歳)と時は問題なかったのですが、令和4年4月1日施行から120月(75歳)に引き上げられたことにより、70歳到達後に繰下げ申出をせずに遡って年金を受け取ることを選択した場合に5年の時効で一部消滅する問題が発生しました。

そこで令和5年4月1日より「特例的な繰下げみなし増額制度」が施行されました。


この改正で、70歳到達後に繰下げ申出をせずに遡って年金を受け取ることを選択した場合、5年前の日繰下げ申出したとみなされて、増額された年金の5年分を一括して受け取ることができるようになり、その後も増額された老齢基礎年金が支給されます。

特例的な繰下げみなし増額制度

70歳以降80歳未満の間で年金を請求して、本来受給を選択した場合、5年前に繰下げ申出があったものとみなし、増額された年金が支給



支給繰下げを申し出すると・・・

支給繰下げを申出したときの、付随論点です。

  • 振替加算は、繰下げ申出した日の翌月から支給され増額されない
  • 付加年金は、支給繰下げと同時に繰下げられ増額率も同じ
  • 特別支給の老齢厚生年金の支給を受けていたものでも繰下げ申出できる

それでは過去問いきましょう

問1. 65歳に達し老齢基礎年金の受給権を取得した者であって、66歳に達する前に当該老齢基礎年金を請求しなかった者が、65歳に達した日から66歳に達した日までの間において障害基礎年金の受給権者となったときは、当該老齢基礎年金の支給繰下げの申出をすることができない。

過去問 令和元年 国民年金法

←正解はこちら
問1. 〇 65歳到達時に老齢基礎年金の受給権を取得したものは、66歳に達する前に他の年金たる給付の受給権者となったときは繰下げの申出はできません。なお、老齢厚生年金は「障害基礎年金の受給権者」になっても繰下げ申出可能です。この論点と引っ掛けてきたのかな?

問2. 第1号被保険者期間中に15年間付加保険料を納付していた68歳の者(昭和27年4月2日生まれ)が、令和2年4月に老齢基礎年金の支給繰下げの申出をした場合は、付加年金額に25.9%を乗じた額が付加年金額に加算され、申出をした月の翌月から同様に増額された老齢基礎年金とともに支給される。

過去問 令和2年 国民年金法

←正解はこちら
問2. ✕ 老齢基礎年金を繰下げ申出したら同時に付加年金も繰下げされ増額率も同じです。「0.007✕老齢基礎年金の受給権取得月から繰下げ申出日の前月までの月数」
4月2日生まれなので65歳到達日は4月1日で4月
繰下げ申出日の「前月」は3月
よって平成29年4月から令和2年3月までの36月について増額されますので、0.007×36=0.252となり25.2%増額されます。

問3. 65歳に達した日後に老齢基礎年金の受給権を取得した場合には、その受給権を取得した日から起算して1年を経過した日前に当該老齢基礎年金を請求していなかったもの(当該老齢基礎年金の受給権を取得したときに、他の年金たる給付の受給権者でなく、かつ当該老齢基礎年金の受給権を取得した日から1年を経過した日までの間において他の年金たる給付の受給権者となっていないものとする。)であっても、厚生労働大臣に当該老齢基礎年金の支給繰下げの申出をすることができない。

過去問 平成30年 国民年金法

←正解はこちら
問3. ✕ 65歳に達した日後に老齢基礎年金の受給権を取得した場合でも「1年を経過した日」前に当該老齢基礎年金を請求していなければ繰下げ申出可能です。
ただし、当該老齢基礎年金の受給権を取得したときに、他の年金たる給付の受給権者でなく、かつ当該老齢基礎年金の受給権を取得した日から1年を経過した日までの間において他の年金たる給付の受給権者となっていないものに限ります。

問4. 振替加算は、老齢基礎年金の支給繰上げの請求をした場合は、請求のあった日の属する月の翌月から加算され、老齢基礎年金の支給繰下げの申出をした場合は、申出のあった日の属する月の翌月から加算される。

過去問 平成30年 国民年金法

←正解はこちら
問4. ✕ 振替加算は老齢基礎年金の支給繰上げの請求をしても65歳に達しないと支給されません。支給繰下げの申出をした場合は、設問の通り申出のあった日の属する月の翌月から加算されます。なお繰上げしても繰下げしても、振替加算は減額も増額もされません。

問5. 老齢厚生年金を受給中である67歳の者が、20歳から60歳までの40年間において保険料納付済期間を有しているが、老齢基礎年金の請求手続きをしていない場合は、老齢基礎年金の支給の繰下げの申出をすることで増額された年金を受給することができる。なお、この者は老齢基礎年金及び老齢厚生年金以外の年金の受給権を有していたことがないものとする。

過去問 令和元年 国民年金法

←正解はこちら
問5. 〇 繰上げと違い繰下げは、老齢厚生年金と老齢基礎年金を別々に申出できますので、老齢厚生年金を受給中であっても「66歳に達する前に老齢基礎年金を請求」していなかったものは繰下げの申出が出来ます。
なお設問に前提条件として「老齢基礎年金及び老齢厚生年金以外の年金の受給権を有していたことがないもの」とありますので、「その者が65歳に達したときに、他の年金たる給付の受給権者であったとき、又は65歳に達した日から66歳に達した日までの間において他の年金たる給付の受給権者となったときは、この限りでない。」もクリアしています。

支給繰上げは、請求によって受給権を発生させ65歳より前に、老齢基礎年金を受給する制度でした。支給繰下げは「受給権」を有していますので、請求では無く「申出」で行います。増額率は「老齢基礎年金の受給権取得から繰下げ申出日の前月までの月数」ですので事例問題が出題されたときは注意して下さい。

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