【国民年金法】事後重症・基準障害・併合認定・併合改定

事後重症による障害基礎年金

障害認定日障害等級に該当しなくても、その後、時間とともに悪化して障害等級に該当する場合があります。一定の要件を満たすと事後重症の請求をすることができ、障害基礎年金が支給されます。

条文を見てみよう

第30条の2(事後重症による障害基礎年金)

疾病にかかり、又は負傷し、かつ、当該傷病に係る初診日において30条第1項各号(※1)のいずれかに該当した者であつて、障害認定日において障害等級に該当する程度の障害の状態になかつたものが、同日後65歳に達する日の前日までの間において、その傷病により障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至つたときは、その者は、その期間内に障害基礎年金の支給を請求することができる。

 保険料納付要件の規定は、前項の場合に準用する。

 第1項の請求があつたときは、その請求をした者に同項の障害基礎年金を支給する。

※1 30条1項

  1. 被保険者であること
  2. 被保険者であった者であつて、日本国内に住所を有し、かつ60歳以上65歳未満であること。

事後重症とは障害認定日に障害は残ったが障害等級1,2級)に該当しなかった者が65歳に達する日の前日までに、障害等級に該当したらその期間内に請求が出来る規定です。

障害認定日に障害等級に該当してなくても65歳までに重くなったら支給されるんですね。重要論点は

  • 65歳に達する日の前日
  • その期間内に請求
  • 請求があったら障害厚生年金を支給する

65歳に達する日前日までに障害が悪化して障害等級(1,2級)に該当し「その期間内」に請求すること。つまり障害等級に該当するのも請求するのも65歳に達する日前日までじゃないといけません。「請求があったときは障害基礎年金を支給する」の支給するとは請求によって受給権が発生することを意味しており、さかのぼって支給されることはありません。いわゆる請求年金です。
障害基礎年金は請求のあった翌月から支給が開始されます。


障害厚生年金3級の受給権者は?

国民年金と厚生年金の事後重症は障害認定日に障害等級に該当しなかった人は事後に該当し、初めて受給権を得るという制度です。障害厚生年金3級の人が事後に悪化したら事後重症ではなく額の改定が行われます。一方で国民年金側に目を向けると、1級2級に該当していませんので事後重症扱いとなりますが、どのように取り扱われるのでしょうか?

障害基礎年金と同一の傷病に基づく障害厚生年金3級の受給権者の障害の程度が悪化し、その額が改定されたときは、事後重症による障害基礎年金の請求があったものとみなされます。


繰上げ支給の老齢年金を請求したら?

繰上げ支給(老齢基礎年金、老齢厚生年金)の受給権者になったら65歳に到達したものとみなされて事後重症の請求はできなくなります。

  • 初診日において被保険者であること
  • 初診日において被保険者であつた者であって、日本国内に住所を有し、かつ、60歳以上65歳未満であること。
  • 初診日の前日に於いて初診日の属する月の前々月までの保険料納付要件を満たしていること
  • 障害認定日に障害等級に該当していない
  • 65歳到達日の前日までに障害等級に該当し、請求すること
  • 請求したら受給権が発生し請求があった月の翌月から支給が開始
  • 繰上げしたら請求できない


基準障害による障害基礎年金

障害認定日に障害は残ったが1級または2級に該当しない状態にある者が新たな傷病(基準傷病)にかかり既存の障害と併せて初めて1級または2級になった場合は障害年金が基礎年金が支給されます。

条文を見てみよう

第30条の3(基準障害による障害基礎年金)

 疾病にかかり、又は負傷し、かつ、その傷病(以下「基準傷病」という。)に係る初診日において第30条第1項各号のいずれかに該当した者であつて、基準傷病以外の傷病により障害の状態にあるものが、基準傷病に係る障害認定日以後65歳に達する日の前日までの間において、初めて、基準傷病による障害(以下「基準障害」という。)と他の障害とを併合して障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至つたとき(基準傷病の初診日が、基準傷病以外の傷病(基準傷病以外の傷病が2以上ある場合は、基準傷病以外のすべての傷病)の初診日以降であるときに限る。)は、その者に基準障害他の障害とを併合した障害の程度による障害基礎年金を支給する。

 第30条第1項ただし書(保険料納付要件)の規定は、前項の場合に準用する。

 第1項の障害基礎年金の支給は、当該障害基礎年金の請求があつた月の翌月から始めるものとする。

条文を読み解くと先発の障害が障害等級に該当せず、その後、新たな障害(等級不問)が発生し65歳到達日の前日までに後発の障害認定日以後、併せて初めて障害等級に該当したら障害基礎年金を支給するとなっています。ゆえに基準障害は「初めて1級2級」と言われています。併合して初めて1級2級になる原因となる後発の障害のことを基準障害といい、先発の障害は2以上(複数)あっても構いません。

事後重症と同じで65歳に達する日の前日までに併合して初めて1級または2級に該当しなければなりませんが、条文の1項には「請求」の言葉はなく「障害基礎年金を支給する」と書いてあります。つまり請求しなくても受給権は発生すると言うわけです。ただし請求しないと支給は開始されませんので、請求したら翌月から支給が開始されます。受給権は発生していますので請求は65歳以後でも大丈夫となります。

初診日要件保険料納付要件障害認定日要件基準傷病(後発の障害)についてのみ問われます。これらの支給3要件を満たせば受給権が当然に発生します。請求しないと受給権が発生しない事後重症と違う点ですね。


繰上げ支給の老齢年金を請求したら?

繰上げ支給(老齢基礎年金、老齢厚生年金)の受給権者になったら65歳に到達したものとみなされて基準障害の障害基礎年金は支給されません。

  • 基準傷病(後発)の初診日に於いて被保険者等要件を満たす
  • 基準傷病(後発)の初診日前日に於いて初診日の属する月の前々月までの保険料納付要件を満たしていること。
  • 65歳到達日の前日までに先発の既存障害と基準傷病(後発)を併合して初めて1級または2級に該当したら受給権が発生(請求は65歳以後でもかまわない)
  • 請求があった月の翌月から支給が開始
  • 繰上げしたら基準障害による障害基礎年金は支給されない


併合認定

同一人に対して複数の異なる支給事由により障害年金が発生する場合があります。この場合、前後の障害を併合して一本にまとめて支給します。

条文を見てみよう

第31条(併給の調整)

 障害基礎年金の受給権者に対して更に障害基礎年金を支給すべき事由が生じたときは、前後の障害併合した障害の程度による障害基礎年金を支給する

 障害基礎年金の受給権者が前項の規定により前後の障害を併合した障害の程度による障害基礎年金の受給権を取得したときは、従前の障害基礎年金の受給権は、消滅する。

併合認定の重要論点は先発の等級も後発の等級も1級または2級に限られていること、そして併合認定されたら従前(先発)の受給権は消滅することです。注意点としては受給権取得当時1級または2級に該当していれば良く、軽減して不該当となり停止されていても併合認定の対象となることです。

重要論点その2、年齢は不問となること。条文に年齢が書いてありません。つまり要件を満たせば年齢に関係なく併合認定されます。また既に受給権者であるため保険料納付要件も問われません。



先発の障害基礎年金が支給停止の場合

期間を定めて支給が停止されている障害基礎年金の受給権者に対して、更に障害基礎年金を支給する事由が生じたときは、前後の障害を併合した障害の程度による障害基礎年金は、従前の障害基礎年金を停止すべきであった期間、その支給を停止するものとし、その間、その者に従前の障害を併合しない障害の程度による障害基礎年金を支給する。



後発の障害基礎年金が支給停止の場合

障害基礎年金の受給権者が更に障害基礎年金の受給権を取得した場合において、新たに取得した障害厚生年金が労働基準法の規定による障害補償を受けることができるために、その支給を停止すべきものであるときは、その停止すべき期間、その者に対して従前の障害を併合しない障害の程度による障害基礎年金を支給する。



先発の障害が旧法の障害年金の場合

前後の障害を併合した障害の程度による障害基礎年金の受給権を取得したときは、従前の障害基礎年金の受給権は、消滅し年金は一本化されますが、先発の障害が旧法の障害年金だった場合は併合前の障害年金は消滅しません。「併合認定されない旧法の障害年金」か「併合認定された障害基礎年金」のいずれか一方の選択受給となります。併合認定されるより旧法の障害年金の額が多い場合があるからです。

  • 先発の障害も後発の障害も1級または2級に限られる(受給権取得当時に1級または2級に該当していれば軽減して支給停止になっていても良い)
  • 年齢を問わない
  • 併合認定すべき事由が発生したが先発または後発のいずれか一方が期間を定めて停止されている場合、その間、他方の障害基礎年金のみが支給される
  • 先発の障害が旧法の障害年金だった場合、消滅せずに旧法の障害年金か併合認定された障害基礎年金の選択受給となる


併合改定(その他障害による額の改定)

障害基礎年金の受給権者に対して、さらに等級不該当の障害(その他障害)の状態になった場合、先発の障害基礎年金とその他障害と併合し増進したときは改定請求ができます。

条文を見てみよう

第34条4項(年金額の改定)

障害基礎年金の受給権者であつて、疾病にかかり、又は負傷し、かつ、その傷病(当該障害基礎年金の支給事由となつた障害に係る傷病の初診日後に初診日があるものに限る。)に係る当該初診日において第30条第1項各号のいずれかに該当したものが、当該傷病により障害(障害等級に該当しない程度のものに限る。以下「その他障害」という。)の状態にあり、かつ、当該傷病に係る障害認定日以後65歳に達する日の前日までの間において、当該障害基礎年金の支給事由となつた障害とその他障害(その他障害が2以上ある場合は、すべてのその他障害を併合した障害)とを併合した障害の程度が当該障害基礎年金の支給事由となつた障害の程度より増進したときは、その者は、厚生労働大臣に対し、その期間内に当該障害基礎年金の額の改定を請求することができる。

障害基礎年金の受給権者に、その他障害(等級不該当)が発生し、障害基礎年金の障害とその他障害の障害を併合した障害が、障害基礎年金の障害より増進した場合、年金額の改定の請求ができます。併合認定と似ていますが併合認定は先発も後発も2級以上で、併合改定(その他障害)は先発が2級以上後発が等級不該当です。
先発の障害は受給権取を取得していれば良く、軽減して不該当となり支給停止されていても大丈夫です。その他障害が発生し65歳に達する日の前日までに先発の障害と併合して増進しないと額の改定請求は出来ません。また「その他障害」は初診日要件と保険料納付要件、障害認定日要件を満たす必要があります。
繰上げ支給(老齢基礎年金、老齢厚生年金)の受給権者になったら65歳に到達したものとみなされて併合改定(その他障害)による額の改定請求は出来ません。
障害基礎年金の額が改定されたら、改定が行われた日の属する月の翌月から支給が開始されます。


横断して整理しよう

障害その後年齢
事後重症等級不該当
(初診日要件)
(納付要件)
2級以上
(悪化)
65歳前に該当
65歳前に請求
先発後発年齢
基準障害等級不該当等級不問
(初診日要件)
(納付要件)
65歳前に該当
請求不問
併合認定2級以上
(従前消滅)
2級以上不問
併合改定
(その他障害)
2級以上等級不該当65歳前に該当
65歳前に請求
※併合認定と併合改定の先発の障害等級は受給権を得ていれば良く軽減して不該当となり支給停止されていても可

この記事が参考になったら応援お願いします。↓

にほんブログ村 資格ブログ 社労士試験へ
資格受験ランキング

コメント

  1. みつくん より:

    これも大変分かりやすく書かれています。さらに旧法のところまで確かに旧法は選択になりますからね。
    説明ありがとうございました。