寡婦年金とは?
国民年金法には第1号被保険者であった者に対して「独自給付」があります。付加年金、寡婦年金、死亡一時金、脱退一時金です。今回は寡婦年金について学んでいこうと思います。第1号被保険者として保険料を納付してきた夫が死亡した時、残された妻に子がある場合は遺族基礎年金が支給される可能性がありますが子がないと支給されません。このままでは保険料が掛け捨てになってしまいますので寡婦年金という制度があります。
寡婦年金は、夫が死亡した場合に婚姻期間が10年以上ある65歳未満の妻に原則60歳から65歳まで支給される可能性のある年金です。支給要件の条文をみてみます。
条文を見てみよう
国民年金保険法 第49条1項(寡婦年金)
寡婦年金は、死亡日の前日において死亡日の属する月の前月までの第1号被保険者としての被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が10年以上である夫が死亡した場合において、夫の死亡の当時夫によつて生計を維持し、かつ、夫との婚姻関係(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む。)が10年以上継続した65歳未満の妻があるときに、その者に支給する。ただし、老齢基礎年金又は障害基礎年金の支給を受けたことがある夫が死亡したときは、この限りでない。
寡婦年金の支給要件
夫の支給要件
- 死亡日の前日において死亡日の属する月の前月までの第1号被保険者としての被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が10年以上ある夫が死亡
- 老齢基礎年金又は障害基礎年金の支給を受けたことがない
保険料納付要件は保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が10年以上とありますが、ここに「合算対象期間」は含みません。また第1号被保険者には「任意加入被保険者」や「昭和61年4月1日前の国民年金被保険者」も含まれています。「特例任意加入被保険者」は含まれないので注意して下さい。
老齢基礎年金又は障害基礎年金の支給を受けたことがないとありますが「受けたことがない」ですので受給権が発生していても支給を受けたことが無ければ大丈夫です。法改正前(令和3年4月前)は障害基礎年金の受給権者であったことがないことでしたので要件が緩和されています。障害基礎年金の受給権が発生した月に死亡したら(支分権は翌月)支給を受けられませんので、要件を満たすことになります。
妻の支給要件
- 夫により生計を維持
- 夫と婚姻関係(事実婚含む)が10年以上継続
- 65歳未満
- 繰上げ支給の老齢基礎年金の受給権者でない
婚姻関係が10年以上継続であって「通算」ではありませんので注意です。年齢要件は65歳未満としか書かれていませんので若くして夫が死亡しても支給されますが死亡一時金も同時に受給権が発生する場合があります。この場合、選択受給になり両方は受け取れません。
寡婦年金の支給期間
妻が60歳未満で夫が死亡した場合は、60歳に達した日の属する月の翌月から65歳に達する日の属する月まで支給されます。また、妻が60歳以上で夫が死亡した場合は、夫の死亡日の属する月の翌月から支給されます。夫の死亡により遺族基礎年金が発生する場合がありますが、65歳未満の年金は「1人1年金」により同時に受給できません・・・が遺族基礎年金を受給していた妻に対しても寡婦年金は支給されます。イメージ図をご覧ください。
寡婦年金の額
死亡した夫が受給することができた老齢基礎年金の受給額の4分の3です。
夫の第1号被保険者としての被保険者期間に係る死亡日の前月までの保険料納付済期間と保険料免除期間について老齢基礎年金の計算の例により計算した額の4分の3になります。
年金額に反映されない「学生納付特例・納付猶予」のみ(つまり年金額に反映される期間が1月も無い)だと要件を満たせず支給されません。
寡婦年金の失権・支給停止
失権
寡婦年金は次のいずれかに該当したら失権します。
- 65歳に達した
- 死亡
- 婚姻(再婚)した(事実婚含む)
- 直系血族・直系姻族以外の養子になった
- 繰上支給の老齢基礎年金の受給権取得
妻が65歳に達したら自身の老齢基礎年金が支給されはじめますので寡婦年金は失権します。繰上支給を請求し老齢基礎年金の受給権が発生したら65歳に達したとみなされて失権します。
支給停止
夫の死亡について労働基準法の規定による遺族補償が行われるときは死亡日から6年間支給が停止されます。
それでは過去問いきましょう
問1. 第1号被保険者として30年間保険料を納付していた者が、就職し厚生年金保険の被保険者期間中に死亡したため、遺族である妻は、遺族厚生年金、寡婦年金、死亡一時金の受給権を有することになった。この場合、当該妻は、遺族厚生年金と寡婦年金のどちらかを選択することとなり、寡婦年金を選択した場合は、死亡一時金は支給されないが、遺族厚生年金を選択した場合は、死亡一時金は支給される。
過去問 令和3年 国民年金法
問2. 夫が老齢基礎年金の受給権を取得した月に死亡した場合には、他の要件を満たしていても、その者の妻に寡婦年金は支給されない。
過去問 令和2年 国民年金法
問3. 一定要件を満たした第1号被保険者の夫が死亡し、妻が遺族基礎年金の受給権者となった場合には、妻に寡婦年金が支給されることはない。
過去問 平成29年 国民年金法
解答
問1. 〇 厚生年金の被保険者期間中に死亡していますので遺族厚生年金、第1号被保険者期間を30年有していますので死亡一時金、寡婦年金も要件に合致します。これらが併給されるのかを考えなくてはいけません。65歳未満の年金には「1人1年金の法則」がありますので遺族厚生年金と寡婦年金が併給されることはありません。選択受給となります。死亡一時金と寡婦年金の関係はどうだったでしょうか?法52条の6に「死亡一時金の支給を受ける者が、寡婦年金を受けることができるときは、その者の選択により、死亡一時金と寡婦年金とのうち、その一を支給し、他は支給しない。」と規定されていますので寡婦年金を選択したら死亡一時金は支給されません。遺族厚生年金を選択した場合は死亡一時金は調整されず、両方とも支給されます。死亡一時金は年金ではないため1人1年金の法則にあてはまりません。寡婦年金と死亡一時金は、どちらも第1号被保険者としての保険料掛け捨て防止的な意味合いが大きいので、どちらか受給したら他は支給しないとなっているんでしょうね。
問2. ✕ 寡婦年金は、夫が老齢基礎年金又は障害基礎年金の支給を受けたことがあるときは、支給されません。老齢基礎年金の受給権を取得したら支給は翌月からです。つまり受給権を取得した月に死亡したら支給を受けたことがないので他の要件を満たしたら寡婦年金が支給されることになります。
また令和3年の法改正で「その夫が障害基礎年金の受給権者であったことがあるとき、又は老齢基礎年金の支給を受けていたとき」が「老齢基礎年金又は障害基礎年金の支給を受けたことがある夫が死亡したとき」と改正されていますので障害基礎年金の受給権が発生し支給を受けたことが無ければ要件を満たすことになります。
問3. ✕ 1人1年金により遺族基礎年金と寡婦年金を同時に受けることはできず併給調整され選択することになりますが、遺族基礎年金の受給権者となり支給を受けていたとしても遺族基礎年金が失権したら寡婦年金は支給されます。
国民年金法の第1号被保険者であったものに対する独自給付はひとつの塊として整理し仕組みを理解したら記憶の定着が図れると思います。第1号被保険者として36月以上保険料を納付した人には死亡一時金という制度がありますが「付加保険料」を3年以上納めていた場合、8,500円が加算されます。
ただし、寡婦年金を選択受給した場合は夫が付加保険料を納めていた場合でも加算は行われません。寡婦年金の試験に問われるポイントは決まっていますので支給要件や失権、併給調整など丁寧におさえましょう。
コメント
コメント一覧 (1件)
なるほど。1人1年金の原則だからあくまでも併給は例外になりますね。例えば遺族基礎年金と遺族厚生年金の併給などは。だから寡婦年金と遺族厚生年金は選択受給となり片方停止になるのですね。勉強になりました📕ありがとうございます。