【国民年金法】振替加算

振替加算とは?

振替加算を理解するには、厚生年金保険法の「加給年金」を理解しないといけません。加給年金とは厚生年金の被保険者期間が240月(20年)以上ある方が、老齢厚生年金の受給権を取得した当時、その方に生計を維持されている65歳未満の配偶者又は子(年齢要件有り)があるときに加算されます。また障害厚生年金(1級、2級に限る)の受給権者に生計を維持されている65歳未満の配偶者があるときも加給年金が加算されます。加給年金が支給される要件は細かくありますが、ここでは簡単に説明します。厚生年金保険法には、65歳未満の配偶者があるときは、加給年金が加算されるんだなあぁぐらいの知識で大丈夫です。

老齢厚生年金の受給権者←加給年金が加算
65歳未満の配偶者

障害厚生年金の受給権者(1,2級)←加給年金が加算
65歳未満の配偶者

これらは、厚生年金保険法の制度です。そして加算の算定対象となっていた65歳未満の配偶者65歳に達した加給年金加算されなくなります

ここからは国民年金法の制度です。加算の算定対象となっていた65歳未満の配偶者65歳に達し、自身の老齢基礎年金の受給権を取得したら、老齢厚生年金または障害厚生年金の受給権者に加算されていた加給年金を、その配偶者が取得した老齢基礎年金の年金額に振替加算として加算されます。

図でイメージしたら、こんな感じ。

65歳未満配偶者
65歳未満配偶者

私がいたから加算されていた加給年金でしょ?

65歳以上配偶者
65歳以上配偶者

自分の年金貰えるようになったから、返して!

条文を見てみよう

S60法附則第14条(老齢基礎年金の額の加算等)

 老齢基礎年金の額は、受給権者が、大正15年4月2日から昭和41年4月1日までの間に生まれた者であつて、65歳に達した日において、次の各号のいずれかに該当するその者の配偶者(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)によつて生計を維持していたとき(当該65歳に達した日の前日において当該配偶者がその受給権を有する次の各号に掲げる年金たる給付の加給年金額の計算の基礎となつていた場合に限る。)は、これらの規定に定める額に、224,700円改定率を乗じて得た額(その額に50円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、50円以上100円未満の端数が生じたときは、これを100円に切り上げるものとする。)にその者の生年月日に応じて政令で定める率を乗じて得た額を加算した額とする。ただし、その者が老齢厚生年金、退職共済年金その他の老齢又は退職を支給事由とする給付であつて政令で定めるものを受けることができるときは、この限りでない。

 老齢厚生年金又は退職共済年金がの基礎となる被保険者期間の月数が240以上であるもの(中高齢者の特例を含む)の受給権者

 障害厚生年金又は障害共済年金の受給権者であって、同一の支給事由に基づく障害基礎年金の受給権を有する者

2 大正15年4月2日から昭和41年4月1日までの間に生まれた者が65歳に達した日以後にその者の配偶者が前項号又は号のいずれかに該当するに至った場合において、その当時その者がその者の配偶者によって生計を維持していたときは、その者に対する老齢基礎年金の額は、本来の規定に定める額に加算額を加算した額とする。ただし、その者が同項ただし書に該当するときは、加算しない。

支給要件

※話を分かりやすくするため加給年金が加算されていた者を夫、振替加算が加算される配偶者を妻と仮定して進めます。(逆でも問題ありません)

振替加算が加算されるには、妻の生年月日要件があります。
昭和41年4月1日以前生まれ←超重要!
つまり昭和41年4月2日以後に生まれた老齢基礎年金の受給権者には、振替加算は加算されません。
さらに大正15年4月1日以前に生まれた人は、振替加算はされず、加給年金がつきっぱなしになります。昭和61年3月以前(旧法)、被扶養配偶は任意加入でした。新法が施行され強制加入となりなしたが、昭和61年4月時点(新法施行)で20歳以上の人(昭和41年4月1日以前生まれ)は、老齢基礎年金が少額となる人が存在します。

条文ただし書きの「政令で定めるものを受けることができるとき」とは、老齢基礎年金の受給権者(振替加算が加算される妻)が、老齢厚生年金の被保険者期間を240月以上有するときです。この場合は振替加算は行われません。十分な年金額を有するからでしょうか。

生計維持要件もあります。

  • イ)妻が65歳に達した日において夫によって生計維持
  • ロ)妻が65歳に達した以後において要件を満たした当時、生計維持

イ)は通常のパターンですね。ロ)の、妻が65歳に達した以後に夫が加給年金の要件に該当とは、どういう事でしょうか?妻が年上のパターンです。妻が年上の場合は、夫より先に65歳に達し、老齢基礎年金を受給します。この時点ではまだ振替加算は加算されません。その後、夫が65歳に達する(240月以上の厚生年金被保険者期間有する)と、その時点で妻が夫によって生計維持されていれば、翌月から老齢基礎年金に振替加算が加算されます。「いきなり振替加算」と呼ばれています。このパターンでは夫に加給年金が加算されることはありません

振替加算の開始時期

上記イ)に該当するときは、老齢基礎年金の受給権者が65歳に達した日の属する月の翌月から、上記ロ)に該当するときは要件を満たすに至った日の属する月の翌月から加算されます。

中高齢者の特例

条文の一号カッコ書きの青文字(中高齢者の特例を含む)の意味ですが、本来は240月以上でないと要件を満たさないのですが、中高齢者の特例に該当すると240月に足りなくても240月あるものとみなされ、要件を満たす特例をいいます。

第3種被保険者期間とか第4種被保険者期間とは細かい要件がありますが難しすぎて論点にはならないと思います。試験対策上、簡単に説明します。

40歳(女子は35歳)に達した月以後の厚生年金保険被保険者期間が生年月日に応じて次表の期間以上であれば、240月あるものとみなされます。

生年月日被保険者期間
昭和22年4月1日以前15年
昭和22年4月2日~昭和23年4月1日16年
昭和23年4月2日~昭和24年4月1日17年
昭和24年4月2日~昭和25年4月1日18年
昭和25年4月2日~昭和26年4月1日19年
ゴロ:更生(厚生)して風呂(S26)行く(19年)

過去問を一つ問いてみましょう。

問題.  45歳から64歳まで第1号厚生年金被保険者としての被保険者期間を19年有し、このほかには被保険者期間を有しない老齢厚生年金の受給権者である68歳の夫(昭和25年4月2日生まれ)と、当該夫に生計を維持されている妻(昭和28年4月2日生まれ)がいる。当該妻が65歳に達し、老齢基礎年金の受給権を取得した場合、それまで当該夫の老齢厚生年金に加給年金額が加算されていれば、当該妻の老齢基礎年金に振替加算が加算される。

過去問 平成30年 国民年金法

←正解はこちら
〇 振替加算が行われるには、その配偶者が240月以上(20年)の老齢厚生年金の受給権者でないといけません。問題の夫は19年しか被保険者期間を有していませんが、よく見ると中高齢の特例に該当しています。40歳に達した以後に厚生年金の被保険者期間を19年有していて、生年月日は昭和25年4月2日。よって240月(20年)とみなされます。加給年金も加算されますし、当該加給年金は、生計維持されている妻が65歳に達し老齢基礎年金の受給権を取得したら振替加算されます。

振替加算の額

224,700円✕改定率)✕老齢基礎年金の受給権者の生年月日に応じた率

生年月日に応じた率は1.000~0.067を乗じます。大正15年4月2日から昭和41年4月1日の範囲にいる人ですね。なお額が一番少なくなるのは若い人(昭和41年4月1日に近い)です。

振替加算の支給調整

老齢基礎年金の受給権者が老齢厚生年金も受けることができ、当該被保険者期間を240月以上(中高齢の特例あり)有していたら振替加算は行われません。つまり夫も妻も厚生年金を240月以上有している時ですね。

老齢基礎年金の受給権者が障害基礎年金障害厚生年金等の支給を受けることができるときは、振替加算は支給停止されます。ただし、当該障害年金等がその全額につき支給が停止されているときは振替加算は行われます。

振替加算額相当の老齢基礎年金

老齢基礎年金の額に反映されない、合算対象期間学生納付特例の期間のみ10年以上有していても、保険料納付済期間・保険料免除期間(学生納付特例を除く)が全くないと老齢基礎年金の受給権が発生しません。

こよのうな人が振替加算の要件に該当しても、そもそも老齢基礎年金の受給権がないのですから、振替加算を加算することもできないのです。そこで老齢基礎年金の受給権が発生したとみなして、振替加算額相当老齢基礎年金を支給しようというのが趣旨の規定です。

老齢基礎年金(0円)を受給できない人でも「振替加算額相当」を老齢基礎年金とみなして支給するわけですね。支給繰下げの申し出ができない所が注意点です。

その他の論点

老齢基礎年金を繰上げ・繰下げしたら?

  • 老齢基礎年金を繰上げ請求しても振替加算は65歳に達した日の翌月から加算
  • 老齢基礎年金を繰下げ申出したら振替加算も繰下げて支給(ただし振替加算額は増額されません)



振替加算が行われている人が離婚したら?

振替加算が加算された老齢基礎年金の受給権者は、離婚しても配偶者が死亡しても支給停止になることはありません。なんか昔、話題になっていた気がするんですが、熟年離婚するなら振替加算がつく65歳を過ぎてから・・・・振替加算は支給停止に該当しない限り一生つき続けます。

厚生年金保険法には離婚分割という制度があります。これにより離婚時みなし被保険者期間(被扶養配偶者みなし被保険者期間)が付加されて厚生年金保険の被保険者期間が240月以上になったときは、振替加算は行われなくなります。離婚分割についての記事は↓



それでは過去問いきましょう

問1. 在職しながら老齢厚生年金を受給している67歳の夫が、厚生年金保険法第43条第2項に規定する在職定時改定による年金額の改定が行われ、厚生年金保険の被保険者期間が初めて240月以上となった場合、夫により生計維持され老齢基礎年金のみを受給していた66歳の妻は、65歳時にさかのぼって振替加算を受給できるようになる。

過去問 令和5年 国民年金法

←正解はこちら
問1. ✕ 事例問題に在職定時改定という法改正もからんでいる問題ですね。在職定時改定とは65歳以上の老齢厚生年金受給者について、毎年基準日である9月1日において被保険者である場合、基準日の属する月前の被保険者であった期間をその計算の基礎として、基準日の属する月の翌月から、年金の額を改定する制度です。240月未満の人が240月以上になりえるんです。この場合の生計維持は要件に該当した当時で判断され、当該事由が生じた月の翌月から振替加算が行われます。さかのぼっては行われません。「いきなり振替加算」ですね。

問2. 老齢基礎年金のいわゆる振替加算が行われるのは、大正15年4月2日から昭和41年4月1日までの間に生まれた者であるが、その額については、受給権者の老齢基礎年金の額に受給権者の生年月日に応じて政令で定められた率を乗じて得た額となる。

過去問 令和4年 国民年金法

←正解はこちら
問2. ✕ この問題、私は間違えまくります💦引っかかりますので注意して下さい。生年月日要件は正しく、受給権者の生年月日に応じた政令で定められた率を乗じますので、つい〇にしてしまいます。論点は、老齢基礎年金の額に乗じるのではなく、224,700円に改定率を乗じて得た額に受給権者の生年月日に応じて政令で定められた率を乗じます。

問3. 老齢基礎年金の支給繰上げの請求をした場合の振替加算については、受給権者が65歳に達した日以後に行われる。老齢基礎年金の支給繰下げの申出をした場合は、振替加算も繰下げて支給されるが、振替加算額が繰下げにより増額されることはない。

過去問 令和3年 国民年金法

←正解はこちら
問3. 〇 老齢基礎年金を繰上げしても振替加算は65歳に達した日の翌月から
老齢基礎年金を繰下げしたら振替加算も繰下げて支給(振替加算額は増額されない)
重要論点ですね。

問4. 障害基礎年金を受給中である66歳の女性(昭和28年4月2日生まれで、第2号被保険者の期間は有していないものとする。)は、67歳の配偶者(昭和27年4月2日生まれ)により生計を維持されており、女性が65歳に達するまで当該配偶者の老齢厚生年金には配偶者加給年金額が加算されていた。この女性について、障害等級が3級程度に軽減したため、受給する年金を障害基礎年金から老齢基礎年金に変更した場合、老齢基礎年金と振替加算が支給される。

過去問 令和元年 国民年金法

←正解はこちら
問4. 〇 複雑な事例問題ですね。生年月日要件は満たしていますね。論点は「老齢基礎年金の受給権者が障害基礎年金、障害厚生年金等の支給を受けることができるときは、振替加算は支給停止される」だが、障害等級が軽減した時の扱いはどうなるか?

「障害年金等がその全額につき支給停止されている」ときは振替加算は行われるんでしたね。設問の女性は第2号被保険者期間を有していませんので「障害基礎年金」だけ受給していたことが分かります。障害基礎年金は1級、2級までしか存在しませんので3級程度に軽減したら支給停止です。老齢基礎年金に選択替えしたら老齢基礎年金と振替加算が支給されるので正解です。

問5. 67歳の夫(昭和23年4月2日生まれ)と66歳の妻(昭和24年4月2日生まれ)が離婚をし、妻が、厚生年金保険法第78条の2の規定によるいわゆる合意分割の請求を行ったことにより、離婚時みなし被保険者期間を含む厚生年金保険の被保険者期間の月数が240か月以上となった場合、妻の老齢基礎年金に加算されていた振替加算は行われなくなる。

過去問 平成27年 国民年金法

←正解はこちら
問5. 〇 離婚時みなし被保険者期間(被扶養配偶者みなし被保険者期間)が付加されて厚生年金保険の被保険者期間が240月以上になったときは、振替加算は行われなくなります。

240月の厚生年金の被保険者期間を有する人に加給年金が加算され、240月の厚生年金の被保険者期間を有する人に振替加算は加算されません。混同しないようにしましょう。
振替加算は論点が多いです。しかも厚生年金保険法を理解していないと分かりません。国民年金法から勉強する人が多いと思いますので、一旦こんな制度があるんだなぁと把握して、厚生年金保険法の勉強が終了してから振替加算に戻って勉強された方が良いと思います。

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